第二章

別れ際にキスをされたあの雨の日から、何回かデートを重ねた。

ランチを食べに行ったり、夜飲みに行ったりと日によって時間帯もプランも様々。大体がリオのリクエストにイツキが付き合ってくれている状態だった。

イツキとは順調に仲を深めているつもりだ。

確信が持てないのは、正確な告白の返事を聞いていないから。

だが「私たち付き合ってるよね?」なんて高校生のような確認の仕方はイツキが苦手そうでしたくなかった。実際リオも、一緒にいて楽しければいい、と最近は思うようになっている。

何回目かのデートの帰り道、自宅前まで送ってくれたイツキの車を降りリオは車の中に手を振った。

「またね」

仕事でも会えると言うのにデートの別れ際はいつだって寂しい。イツキがハンドルを握る指を少しだけ上げて、リオに笑いかけた時、道路の奥からコンビニ袋をぶら下げた幸雄が歩いてきた。

「お父さん」

「おお、リオ。今帰ってきたの…か…」

幸雄はリオと車の中にいるイツキの顔を交互に見ている。成人済みの大人同士の恋愛。隠していたわけではないが、特に話すことでもないだろうと思って、今まで黙っていた。

「…田島くんか?」

複雑そうな表情をしたイツキが、覚悟を決めたようにガチャリと車から降りて会釈をした。

「幸雄さん、あの…少し前からリオさんとお付き合いさせてもらってます」

突然の宣言に驚いたのは幸雄よりもリオの方だった。思わず目を見開いてイツキを見たが、イツキは真っ直ぐに幸雄を見ている。

まさかこんな形で告白の返事が聞けるとは思ってもいなかった。複雑な感情に巻き込まれながらも、幸雄とイツキのやり取りを黙って眺める。

「…そうか。いやぁ、なんて言ったらいいのか」

「今まで黙っててすみません」

「いや、いいんだよ。そんなわざわざ俺に言うことでもないしな。まぁ、仲良くしてちょうだい。こんな娘だけどな」

「ありがとうございます」

頭を下げるイツキを見てリオも咄嗟に下げた。

突然の娘の彼氏の登場に戸惑ってはいるが、きっと幸雄は嫌な気分にはなっていないはず。と娘の勘で思った。

「じゃあ…また明日よろしくお願いします」

イツキは車に乗り込み、そのまま帰っていった。小さくなる車を幸雄とリオは静かに2人で見つめ「俺たちも行くか」と幸雄の一声で自宅へ向かった。

「いつからだ?」

「うーん、ちょっと前」

「そっか。田島くんはリオと一緒にいる時はよく喋るのか?」

「あんまり喋んないよ。私がずっと喋ってるのを聞いてくれてる」

「お前…あんまり迷惑かけるなよ」

「分かってるよ。てかお父さんこんな時間に何買ってきたの?」

「え?アイス」

「こんな寒いのに?」

「バカ。冬に食べるアイスがうめーんだよ」

2人で玄関のドアを開けると、中から育美の「あれ?一緒に帰ってきたの?」と言う声が聞こえた。

「そう、そこで会って」

顔を見合わせて少し笑う。

その後幸雄の買ってきたチョコレートアイスを一緒に食べた。


「今度さ、うちでご飯食べない?って。お父さんが」

休憩中に、タバコを吸うイツキの横でリオも座り込んで言った。まだ冷たく澄んだ空気が流れているが、降り注ぐ日差しはほんのり暖かい。春の訪れをなんとなく感じる時期だ。

2人の間には、育美の作ったクッキーが皿に乗って置いてある。リオはクッキーを齧りながらイツキを見た。

「イツキくん苦手だよね、そういうの」

「苦手っつーか…緊張する。気まずいし」

「だよね」

「でも、いいよ」

吸い終わった煙草を空缶に入れ、クッキーに手を伸ばしながらイツキが言う。パリッと軽快な音を立てて、クッキーがイツキの口の中へ消えていった。

「本当?嫌だったら全然いいからね」

「大丈夫」

「ありがとう。お父さんがね、仕事場だとイツキくんとあまり喋れないからゆっくり喋りたいんだって。次の定休日どう?」

「いいよ」

「じゃあお父さんにも言っとく」

空になった皿を持ち、リオは立ち上がった。

「リオ」

イツキに呼ばれ、振り向く。

「俺幸雄さんに嫌われてないよね?」

少し不安そうな表情のイツキを見て思わず吹き出した。

「大丈夫だよ!むしろ逆。お父さんイツキくんのこと大好きだから」

「そっか」

イツキは気を落ち着かせるためかもう一本新しく煙草を取り出した。緊張させてしまって申し訳ない気持ちと、そんなイツキが可愛くて笑みが溢れた。

仕事が終わり、次の定休日にイツキが家に来ることを幸雄と育美に伝えた。幸雄は安心したような表情をし、育美は何を振る舞うか頭を抱えた。


相変わらずコーヒーショップのバイトにも出ている。以前は忙しくて退屈なだけの時間だったが、仕事終わりに自宅近くのコンビニで、仕事終わりのイツキと待ち合わせをし、ビールを1缶空けてから帰る、という新しい楽しみが出来てからは長い勤務時間も苦では無くなった。

リオが火傷をしたときに、イツキが応急手当てをしてくれたコンビニだ。このコンビニに来るたび、あの日のことを思い出す。

「今日来たお客さんで、サンドイッチのハム抜き頼む人がいてさ。野菜しか挟まなかったんだよ。美味しいのかな?」

その日あったことをビールを飲みながら話し、イツキは聞いてるのか聞いてないのか分からないようなテンションで相槌を打つ。

「そういえば明日17時にうちでいい?」

「OK」

「お母さん張り切っちゃってもう大変」

「お構いなく、って言っといて」

「うん、分かった」

お互いのビールが空になりコンビニを出た。

厚手のダウンに身を包んで、寒さから逃げるように帰っていた頃と比べ、気づけばパーカーを羽織るだけで寒さを凌げるような季節になっていた。

「じゃあ明日ね」

「お疲れ」

リオの自宅近くで立ち止まり、別れる。

明日イツキにどこを見られても大丈夫なように家の掃除をするためリオは小走りで帰った


「田島くん、いらっしゃい」

翌日、17時前にイツキがリオの家に到着した。

リビングに通され早速幸雄が瓶ビールをイツキに傾ける。

「お父さん早いよ。イツキくん今来たばっかりじゃん」

「いやぁ田島くんと一緒に飲めるなんて嬉しくてね」

ご機嫌な幸雄と戸惑いながらも付き合っているイツキを横目に、育美とリオは夕食の支度に勤しんだ。

テーブルには、天麩羅、ちらし寿司、煮物など色とりどりのメニューが早くも並んでいる。

「今日って正月でしたっけ?」

遠慮がちに聞くイツキに育美は嬉しそうに笑った。

「いっぱい食べてね」

自宅の食卓にイツキがいることが不思議だ。見慣れたキッチンからの光景なのに、そこにイツキがいるだけで特別な空間のように思える。

「田島くんいい子そうね。お父さんに相当気に入られちゃって」

ニコニコと笑っている育美と食卓を眺めた。瓶ビールをグラスに注ぎ合い、2人は仕事の話をしている。

「さぁさぁ、揃ったから食べましょう」

席につき、箸を取った。遠慮がちなイツキの取り皿に育美が大量に料理を盛っていく。

「ちょっと、お母さん!多いよ!ゆっくり食べさせてあげて」

苦笑いを浮かべながらも、イツキの箸は進み「美味いです」と連呼した。

「そういえばあそこの焼き鳥食べに行ったんだって?」

枝豆を齧りながら幸雄が尋ねる。

「リオさんに連れてってもらいました」

「あそこ美味いだろ」

「美味かったです。何食べても美味かった」

「工場の連中もみんな好きだから、今度仕事終わりに男だけで行こう」

「お願いします」

リオが空いた瓶ビールをキッチンに持っていった隙にそんな話が展開されていた。

「ちょっと、私は?」

「お前がいると高くつく!」

「何それ!」

「こないだもいっぱい食べてました」

「ちょっと!」

拗ねながら、自分でビールをグラスに注ぎ一気に飲み干すリオを見てイツキが笑った。

「ラーメンまで食べてただろ?」

「食べてました」

今度は幸雄が手を叩きながら笑う。

「リオは酒飲んでても炭水化物絶対食べるからな」

まさに今もちらし寿司を頬張っている。リオは睨むように幸雄を見た。


テーブルの上のものがほとんど無くなってきた頃だった。

「田島くん、今日は泊まっていくでしょ?」

育美の言葉にイツキとリオが驚いて振り向く。

「えっ、いや、そんなつもりは…」

「もう遅いし泊まってきなさい。お酒も飲んでるんだから危ないわよ」

「いや、でも」

「布団敷いてくるわね。リオの部屋でいいよね?」

リオが口を挟む隙もなく育美の独断で、イツキの宿泊が決定された。

「お母さん強引でごめん」

そそくさと階段を登り、客人用の布団を探しに行った育美を見て、リオが小さく謝る。

「いや、いいんだけど…。急に泊まって迷惑じゃない?」

「うちは全然大丈夫なんだけど…」

イツキが自分の部屋で泊まる、という事実にリオが急に緊張してきた。

「明日はうちから出勤すればいいから、通勤時間0秒だぞ。作業着も予備のがあるから心配するな」

後ろから、ニュースを見ながらまだ晩酌を続けている幸雄の呑気な声が聞こえた。

そう言うことじゃないんだよ…リオは緊張を打ち消すように、残りのビールを喉奥に流し込んだ。


変な緊張感で酔いが急激に回ったのか、イツキがシャワーを浴びている間にリオはソファで寝てしまっていた。

「シャワー、ありがとうございました」

濡れた髪を拭きながらイツキが出てくると、幸雄が笑ってリオを指差す。

「寝ちゃったよ。なんだかんだ結構飲んでたしな」

よくこんな格好で寝れるな、というくらい不自然な体勢でリオは眠りについている。そんなリオを見てイツキは優しく笑った。

「悪いけど、部屋連れてってやってくれるか?俺がリオ持ったらぎっくり腰になっちゃうから」

そう言われイツキは軽々とリオを担ぐと、幸雄の先導でリオの部屋に向かった。8畳の部屋にベッドと布団が敷かれている。

淡いピンクのシーツが敷かれたベッドに優しく下ろし布団を掛け、静かに電気を消して部屋を出た。

「田島くん、もうちょっと付き合ってくれるかい?」

幸雄がグラスを煽るジェスチャーをしている。

「あ、はい」

2人はリビングに戻り冷えたビールを冷蔵庫から出した。

食器の洗い物を全て終えた育美も寝室に戻り、リビングには幸雄とイツキしかいない。

改めて乾杯をしながら、2人はテーブルに着いた。

「リオは迷惑をかけていないか?」

テレビのチャンネルをザッピングしながら幸雄が尋ねた。静かになった家の中で、テレビの音声だけが小さく流れている。

「あいつは俺に似て男勝りな性格だからね。よく食べ、よく飲み、よく喋る!」

「そんな、迷惑なんて全然」

「そっか。なら良かった。まぁ、末長くよろしく頼むよ」

幸雄の言葉に素直に頷けず、イツキは俯いた。手持ち無沙汰な指先で髪をかき上げる。いつもと違うシャンプーの香りが漂った。

「どうかしたか?」

返事もせず、ビールの缶を口に運ぶこともしない様子を不思議に思い、幸雄はイツキを見る。イツキはただ自分の手元をじっと見つめているだけだった。

「幸雄さん…俺、言っておかなきゃいけないことがあります」

伏せた目が何を見つめているのか。閉じた口が今から何を言おうとしているのか幸雄には分からなかった。ただ、イツキが話し始めるのを待つしかない。そう思い、幸雄は目線だけで返事をした。

長い沈黙の後、イツキの低い静かな声が響いた。


「俺、人を殺したことがあります」


動揺しなかったといえば嘘になる。しかし、今ここで自分が動揺して何になるのかと幸雄は心の中で自分に問いかけた。

イツキに対して絶対的な信頼があった。だからこそリオと付き合っていると聞いて、喜ばしかった。その男に突然衝撃的な事実を突きつけられ、手足が冷たくなるのを感じた。

それでも長年生きていた勘で、イツキは自分勝手な理由で罪を犯すような男ではないと思った。そう思いたい、というのが本心だが。

イツキのカミングアウトからどれくらいの時が流れたかは定かではないが、幸雄はやっとの思いで口を開いた。

「何があったんだ?」

伏せられたイツキの切長の目が幸雄を見る。深い悲しみを宿した瞳の中に、どこか優しさも感じられる。陰と陽を混ぜ合わせたような瞳だ、と幸雄は思った。


母子家庭で育ったイツキが、母の明江に新しい彼氏を紹介されたのは丁度二十歳の頃だった。

安東というその男に明江はひどく惚れ込んでいて、安東と付き合い始めた頃明江は家に滅多に帰らなくなった。

イツキが大学やバイトで家を空けることが多くなると、今度は自宅に安東を呼ぶようになった。

家に帰ると当たり前のように居る安東と、男といる時の明江の女としての姿に次第に嫌気がさし、イツキは友人の家に居候するようになった。

それでも、母が幸せならそれでいい。そう思い込んだ。

明江の異変に気がついたのは、久しぶりに自宅に帰った日だった。

イツキが帰るとその日は安東の姿は見当たらず、明江がただリビングの椅子に座っていた。

「ただいま」

イツキが声をかけると明江は急にうつむき始めた。不思議に思い顔を覗くと、口角からは血が滲み、目の周りには大きな痣ができていた。 

「どうしたの!」

「これね、さっき階段で転んじゃって。お母さんドジね」

階段で転んでこんな顔になるだろうか。疑問に思ったが、それ以上は追求せずに、近くの薬局に走り消毒薬や眼帯を購入し手当をした。

明江のことは少し心配だったが、安東がいるなら自分の出番はないだろうと思い、またイツキは友人の家に戻った。

その後イツキは大手の自動車メーカーの工場に入社が決まり、寮生活が始まったことからなかなか自宅に戻れない日々が続いた。

気にかけていた明江のこともいつの間にか忘れ、自宅に戻ろうと思ったのはそれから1年後だった。

提出する必要な書類があり、久しぶりに自宅に帰ろうとマンションの廊下を歩いていると、明らかにイツキが住む部屋から大きな物音が聞こえてきた。

只事ではないと感じ急いでドアを開けると、そこに髪の毛を鷲掴みにし明江のことを殴っている安東の姿があった。

「何してんだよ!」

土足のまま部屋に上がり、安東を力ずくで明江から引き剥がす。明江の顔はあの時と同様、口から血を流し、目も赤く腫れ上がっている。

「やめろ、クソガキ。お前の母ちゃんはこう言うのが好きなんだよ。知ってたか?」

安東がイツキの腕を振り払いながら再び明江の元へ向かおうとした。

「んな訳ねぇだろ!」

イツキは背後から安東の腕を掴み、そのまま顔面を殴った。だが背も高く体格のいい安東には擦り傷にもならない。更に逆上した安東はイツキの腹に拳を振り下ろした。内臓を破壊されるような衝撃に暫く立ち上がることが出来なくなる。

「イツキ、お母さんが悪いからいいの」

痣だらけになっている明江の顔は、もはや原型を思い出せないくらい腫れ上がっている。だが明江は泣いてるわけでもなく、その声からは感情が全く汲み取れない。

「取り敢えず出よう」

イツキは腹の痛みで力の入らない足を無理矢理立たせ、明江を抱き抱えると玄関を目指した。取り敢えずこの男のいないところへ。通報するのはそれからだと思った。

「待てよ、どこ行くつもりだ?」

背後から声がする。視界に入れることも拒否したいが、玄関を出る直前に振り向いた。すると刃物を持って安東が立っていた。

ゆっくり近づいて来る。本当はゆっくりではなかったのかもしれない。だが、イツキには安東の動きがスローモーションように感じた。

自分を狙ってるのか、明江を狙ってるのか分からないが、安東は刃物を持った手を大きく振りかぶった。

その瞬間イツキは玄関に置いてあった、中学時代野球の試合で貰ったガラスのトロフィーを安東の頭を目掛けて振り下ろした。鈍い音と、痺れるような手の痛み、明江の悲鳴で、抱き抱えていた腕の力が抜けた。目の前には動かなくなった安東がうつ伏せに横たわっている。

良かった…。自分が犯してしまった罪の意識はありながらも、自分の母親を守れたことにまず安堵した。

だが明江は名前を必死に叫びなが安東の体を揺さぶり始めた。

「母さん、もう大丈夫だよ」

もう酷い目には遭わないよ。そう思い声をかけると、明江は睨むようにイツキを見上げた。

「人殺し!」

耳をつん裂くような、叫び声に近い声だった。

その瞬間、イツキは全てを失ったと一瞬で理解した。

その後イツキの通報で警察と救急車が駆けつけ、安東は病院に搬送されたが、死亡した。

イツキ側の弁護士は裁判で正当防衛を主張したが、当初は過剰防衛だと見做された。しかし安東の指紋が付いているナイフから、安東から確実に殺意を向けられたこと。そして明江と共に暴行された形跡が医師によって証明されたことから、2年間の懲役となった。


「それからは、大切なものを作らないようにしてました。人も、物も、場所も」

幸雄のビールを持つ手に力がこもり、缶が変形した。この怒りはイツキにではない。イツキを取り巻く理不尽な環境に、だ。

「仕事も一年単位で変えて、人間関係も築かないようにしました。自分にはそんな資格はない。ただロボットのように生きればいいや、って。それなのに…」

イツキの声が震えている。

「大切なものを作ってごめんなさい…」

幸雄は何も言えず、イツキの肩に手を置いた。

自分より遥かに少ないこの青年の人生に、自分が経験したことのない辛く悲しい過去があるなんて。

怒りと悲しみに渦巻く胸中を、もうだいぶ温くなっているビールを流し込み治める。そして静かに口を開いた。

「大切なものっていうのは自分じゃどうにも出来ないもんだよな。欲しい時に手に入らなかったり、そうじゃないときふと舞い込んだり」

空になった缶をただ眺めながら「ただな…」と幸雄は続けた。

「誰にだって幸せになれる権利はあるんだよ。…俺は今生きてる田島くんを信じているよ」

イツキは驚いたような表情で顔を上げ、それからテーブルに額が当たるくらい深々と頭を下げた。


リビングに降りる階段の途中でリオが座り、パーカーの袖で口を押さえながら声を殺して泣いている。

階段が少し軋む音に気付き、イツキはそこにリオがいることは分かっていたが、話し続けていた。


夜も深くなり、リビングの電気が消えた。

イツキがリオの部屋に戻ると、リオは毛布を被りベッドで横になっている。イツキが最後にこの部屋で見た景色と同じだった。

「聞いてた?」

床に敷かれた布団に入りイツキは小さく尋ねる。

「聞いてた」

同じように小さくリオも答えた。

「驚かせてごめん」

「私こそ、盗み聞きしてごめん」

静寂の音が流れる。お互い真っ暗な天井を見つめていた。

「私も今生きてるイツキくんを信じてる。どんな過去があっても、今のイツキくんが好き」

リオの声は優しかった。

春の暖かい太陽のようなリオの声に、イツキは「さすが親子だな」と目を閉じて微笑んだ。


7:00のアラームで目が覚めた。

リオが起き上がると、まだ眠たそうに目を閉じているイツキが一段下でもぞもぞと動いている。

ボサボサの髪を軽く手櫛で整えて「おはよ」と声をかけた。

枕元のカーテンを開けると一気に日差しが部屋中に差し込む。眩しさに余計に眉をひそめたイツキの顔が面白い。

取り敢えずイツキを部屋に残し風呂場に向かった。昨日はシャワーも浴びずに寝てしまったせいで、崩れた化粧を早く落としたい。

服を脱ぎ、シャワーが設定温度まで暖かくなるのを待ちながら、昨晩のことを思い出した。

イツキの告白は確かに衝撃的だったが、イツキのことを思う気持ちは何も変わらない。これは幸雄もきっとそうだろう。

それよりも、今までずっとイツキに感じていた影の理由が明らかになって気持ちが少し軽くなった気がした。

「大切なものを作ってごめんなさい」と幸雄に言ったイツキの震えた声を思い出し、胸が締め付けられる。苦しさを紛らわすように頭からシャワーを被った。

家庭環境やその人を取り巻く環境は、自分で決められる物もあればどうにもならないことだってある。比べるわけではないが、何事もなく自分をここまで育ててくれた両親がいることは、当たり前ではなく幸せなことなのだ。

風呂場を出て、部屋に戻る前に洗面所で化粧をした。今化粧を落としたばかりの肌に新たにファンデーションを塗るのは肌に対して若干罪悪感を感じたがまだすっぴんは見せたくない、というリオの女心が押し切った。

身なりを整え部屋に戻ると、体は起こしているがまだボーッとしているイツキがいた。

「あ、起きた?おはよう」

「おはよ。風呂?」

「そう。昨日入らないで寝ちゃったから」

「そっか」

後頭部の髪に少し寝癖がついている。その毛先を指で軽く触ると、イツキは何が何だか分からないような表情でリオを見た。

「ごめん、寝癖が面白くてつい」

その表情に思わず吹き出す。イツキは後頭部の髪を撫で付けるように触っている。

「お母さんが朝ごはん用意してくれてるから食べよ。…食べれそう?」

イツキは小さく頷くとふらふらと立ち上がり、リオと共にリビングに向かった。


リビングに降りると朝刊を読んでいる幸雄と、キッチンに立つ育美が「おはよう」と2人に声をかけた。

「うちは朝パンなんだけどいい?」

「あ、何でも大丈夫です」

テーブルにロールパン、目玉焼き、野菜炒めが並ぶ。

「イツキくんは普段ちゃんと朝ごはん食べてる?」

育美が2人分のコーヒーをテーブルに置きながら聞く。香ばしい香りが鼻口をくすぐる。コーヒーショップで常にこの匂いは嗅いでいるはずだが、朝食時に嗅ぐこの香りは特別なものだ。

「いや、朝はいつもコーヒーだけで…」

「あらぁ。体力勝負なんだからちゃんと食べないとダメよ。うちに来てくれれば朝ごはん食べてってもいいからね」

「ありがとうございます」

「リオもさ、お昼用におにぎりくらい作ってあげたら?」

「えっ!?」

ロールパンに野菜炒めを挟み、食に没頭していたところに急に話を振られリオは驚いた。

「おにぎりなら作れるでしょ」

「そりゃそうだけどさ…私の作ったおにぎり食べたい?」

イツキの方を向くと、わざとらしく俯かれる。

「何その反応!」

話を聞いてないと思っていた幸雄まで新聞を大きく揺らしながら爆笑している。

出会った時からイツキは昼休憩で何も食べていなかった。それが当たり前だと思っていて、自分が何かを作る、と言う発想はなかった。

「じゃあ今度作っていくから、楽しみにしておいてね!」

どんな具が好きか聞いておこう。そう思いながら、リオはあえて嫌味っぽくイツキに言い放った。


常備してある作業着に着替え、イツキは幸雄と工場に向かった。

リオは今工場へ向かっても特にやることがないので、キッチンで朝食で使った食器を洗っていた。

「まさかお父さんの工場でリオに出会いがあるとはね」

「本当だよ。あのおじさんだらけの工場でね」

隣で育美が夜ご飯の下拵えをしながら笑う。

「また気軽に遊びに来てね、って伝えておいてね。ご飯食べにくるだけでもいいから、って」

「分かった。ありがと」

洗い物が全て終わり、リオも工場へ向かった。

いつも通りの景色がそこには広がっていて、何故だか凄く安心した。


育美に言われてからはリオはイツキが昼休憩で食べる用の軽食を用意するようになった。

食に対してあまり関心がないイツキは、自分からは食べようとはしないが、リオが用意すると「美味い」と食べてくれている。

今までは昼食を食べに自宅に戻っていたリオも、最近はイツキと一緒にいつもの軒下でおにぎりを頬張っていた。

「次の休みどうする?」

イツキが好きだと言う梅干し入りのおにぎりを一緒に食べながら、リオは問いかけた。気付けばすっかり暖かくなり、イツキを始め工場の従業員は休憩時間になると皆Tシャツ姿になる。

「その日さ…」

言いにくそうな雰囲気を感じた。少し心配になりながらもイツキの言葉を待つ。

「母親と会うことになった」

喜ばしい予定ではないことは過去のことを知っていれば分かる。イツキの表情からもそう受け取れる。

「こないだ急に連絡きてさ。俺電話番号変えてないから。試しに掛けたら繋がったって」

「そっか」

「元気にしてるか、とかそんな話して。5年会ってないから久し振りに会えないか、ってなって」

「うん」

「母さんとは昼に会うから、夜から会えない?」

「もちろん。私はその日何の予定もないから。まぁいつもだけど」

リオは、安心させるように笑った。なんとなくイツキがどんな気持ちでいるのか分かる。

「サンキュ」

イツキの不安そうな声を聞いて、本当なら一緒に着いていきたいくらい心配だった。もっと言えば、行かなくていい、と言いたいくらいだ。

守りたい一心で取ったイツキの行動を拒絶した母親なんかに、リオは正直会わせたくなかった。

だが、会うことを決めたイツキの気持ちを否定するようなことはしたくない。親子の形は親子の数だけある。

「夜さ、ピザ食べ行かない?最近無性にピザ食べたくって!」

リオが突然の話題を変えるとイツキが笑ってくれた。

「いいよ」

自分は笑っていよう。自分にはこれしか出来ない。

イツキが見せた笑顔に少し安堵し、その日がイツキにとっていい1日になるよう心から願った。


その日は朝からイツキのことを思うと気が気でなかった。

窓の外には暖かい日差しが降り注ぎ、洗濯物を干しにベランダへ出ると柔らかい風が心地よかったが、リオの心が晴れることはなかった。

携帯を肌身離さず持ち歩き、いつイツキから連絡が来ても対応出来るようにしていたが、今のところ何の連絡もない。イツキが母親と会うのは昼から、と言っていたから当然なのだが。

午前中は育美に付き合い食料品の買い出しに出た。自宅に戻り、味がよく分からない状態で昼食を済ませる。

「どうしたの?なんか落ち着きないわね」

怪訝な顔でリオを見る育美に「ちょっとね」とだけ呟き、自室に戻った。

メールを送ろうか迷い、結局送らない。それの繰り返しだ。

「ダメだ」

吐き出すように言うと、リオはパソコンを立ち上げ配信されているバラエティ番組を流した。

本来なら笑って見れるはずなのに、全然笑えない。パソコンを閉じ、そのまま家を出ることにした。

イツキと出会う前は休日をどんな気持ちでどうやって過ごしていたか、忘れてしまっている。

久し振りに一人で駅前を歩きウインドウショッピングをした。好きな雑貨屋で部屋に置く小物を買い、化粧品も買った。

一人ってこんなに退屈だったっけ…

化粧品売り場で鏡に映る自分の顔が、あまりにも腑抜けていて驚いた。

歩き疲れて、前から気になっていたカフェに入った。昼食は済ませてあるためそんなに空腹ではないが、カフェラテとチーズケーキを注文した。

携帯を開いてもイツキからの連絡は入っていない。

あまり心配しすぎても嫌がられるだろうか。過保護なのは嫌いそうだし…

険しい表情で携帯を見つめひたすら自問自答していると、注文していたものが運ばれてきた。

ふと思いつき、チーズケーキと可愛らしい柄が描かれたカフェラテの写真を撮った。

そして[一人カフェなう]と写真を添付してイツキに送った。


ケーキを完食した頃にイツキから返事が来た。

[今家帰ってきたとこ。まだ駅にいる?]

いつものことだが、絵文字もない素気ない文面からは何も読み取れない。すぐに、まだカフェにいることを伝え、約束の時間よりだいぶ早いがもう会うことになった。

駅前のオブジェの前で立っていると、遠くからイツキが歩いて来るのが見えた。胸の前で小さく手を振る。

「ごめんね、慌ただしくさせちゃった?」

「大丈夫。それよりどうする?まだ飯の時間には早いし…行きたいとこある?」

携帯で時間を確認してみると、まだ15時だった。イツキとのデートは今まで食事をしに行くことがメインだったせいか、食事以外のプランが何も思い浮かばない。

「うーん、特にないんだよね。さっき久し振りに駅ビルうろうろしちゃったし」

「ケーキ食ってたんでしょ」

「そう。美味しかったよ」

いつも通りの笑顔だ。心配しすぎていたのかもしれない、と安堵する。

「ピザ食いたいんだっけ?」

「食べたいけど、全然ピザじゃなくても平気だよ」

「この時間じゃ店も空いてないだろうから、うち来る?で、夜デリバリーでピザ頼む?」

イツキの家には行ったことがなかった。思春期の高校生のような想像してしまい、赤面してしまった顔を俯いて隠す。

「そうしよっか!イツキくんの部屋見れるの楽しみ」

「悪いけど面白いもんは何もないよ。10分くらい歩くけどいい?」

「うん、大丈夫だよ」

思えば、駅の反対側に住んでいる、というざっくりとした情報しか知らず、それ以上を聞いたこともなかった。

シンプルな白いTシャツの背中に付いていくと、知らない街並みが広がっていてキョロキョロと落ち着きなく辺りを見回した。この町で生まれ育ったリオも、自分が住んでいる家の付近や、通っていた小中学校の周りしか歩いたことはなかった。

「普段こっちまで来ない?」

リオの様子に気付いたイツキが振り向き、問いかける。

「そうだね。来てもお父さんの車で買い物来るくらいだから、こういう住宅街は全然知らないな」

イツキの言った通り10分ほど歩くと小さなアパートの前にたどり着いた。

「ここ」

イツキは一階の一番奥に進むと鍵を開け、中に入っていった。初めて入る部屋は緊張する。ましてや恋人の部屋となると尚更だ。

「お邪魔します」

小さい玄関にはいつもイツキが履いている靴が一つ。玄関の先にはすぐキッチンがあるが、調理器具などは見当たらず、よく掃除がされていて綺麗、というよりは使っていないから綺麗、という印象だ。

キッチンを抜け、もう一つの部屋に入るとリビングダイニングが広がっている。端に寄せられたベッドと、灰皿がぽつんと乗ったテーブルが真ん中に置かれているシンプルすぎる部屋だった。

「何もないね」

「だから言ったろ?」

「いや、予想以上!」

「飯が食えて、寝れれば俺的には十分だからさ。引越しのたびにどんどん物が減ってった」

「そっか…」

自分の部屋がいかに無駄なものだらけか思い知る。そろそろ断捨離をしようと、密かに決意した。

「飲み物、取り敢えずビールでいい?近くにコンビニあるから、足りなくなったらあとで買いに行くよ」

「あ、うん。ありがとう」

冷えたビールを受け取り、テーブルに置いた。イツキの隣に座り一口飲む。

「煙草臭いでしょ?」

「ううん、平気。イツキくんの匂いって感じ」

「何だそれ」

幸雄が煙草をやめてからは周りで喫煙者もいなくなり、最初はイツキが吸う煙草の匂いが苦手だったが、いつの間にか好きな匂いに変わっていた。

この部屋の匂いも愛おしい。

「ねぇ、そういえばテレビないの?」

「テレビ見ないからね。パソコンあるからそれで映画とかは見るけど」

テーブルの引き出しに置かれたノートパソコンを指差す。

「そっか」

目視だけでルームツアーが終了した。

レースのカーテンが網戸から入ってくる風に揺れている。テレビもない静かな部屋で聞こえてくるのは、たまに外を走る車の音だけだ。

若干の緊張感で乾いた喉をビールで潤し、リオは朝から気にかけていたことを思い切って訪ねた。

「今日どうだった?」

「あぁ、母さん?」

「うん」

イツキは立ち上がり、窓際に行くと煙草に火をつけた。薄く開けた窓の外に向かって煙を吐き出す。

「普通だったよ。最近の話とか適当にして」

「うん」

「元気そうだったし。でも、もう会わなくていいかな」

久し振りにイツキのこの声音を聞いた気がする。穏やかなのにどこか寂しく、陰のある声。

「母さんの目がさ、笑ってないんだよ。喋ってることは普通なのに、俺のことずっと冷めた目で見てんだよね。今俺が幸せなのが憎い、って感じ…」

当たり前のように今日育美と食料品の買い出しに出かけたことも、ニュースを見てぶつぶつ文句を言っている幸雄を無視して横で携帯をいじることも。リオにとって当たり前の家族との時間がイツキにはない。

自分の実の母に対し「もう会わなくていいかな」と思えてしまうイツキの心は、どれだけ辛いのだろう。

聞いたのは自分なのに、それに対してなんと言えばいいか考えても考えても何も思い浮かばない。自分の語彙力の乏しさをリオは恨んだ。煙草の煙を細く吐きながら外を眺めているイツキはこんなに寂しそうで、今にも消えていなくなってしまいそうなのに。

リオはそのまま立ち上がり、窓辺に立つ華奢な腰を抱き締めた。

「ごめんね、言いにくいこと聞いちゃって」

「俺は大丈夫だよ」

短くなった煙草を灰皿に押し付け、空いた手でリオの頭を撫でる。

「俺なら大丈夫…」

リオを安心させるように、そして自分に言い聞かせるようにも聞こえた。

リオが顔を上げてイツキの表情を見ると、遠くを眺めていたイツキと目が合った。儚げなその瞳は、それでもとても綺麗で目を逸らすことが出来ない。

「イツキくん…」

外を走る車の音でかき消されるくらいの声で名前を呼ぶと、ゆっくりとイツキの顔が近付いてきた。目を瞑ると、さっきまで吸っていた煙草の匂いと共に柔らかい唇が触れる。

長い指先がリオの髪を優しく撫でながら、何度も唇が触れた。近距離で見る、伏せたイツキの目を縁取るまつ毛が長くて綺麗だ。

柔らかく閉じた唇から舌が入り込んだ。リオの舌を捕らえると、お互いを探るように、慰め合うように深く絡め合った。

ここまで深いキスは初めてで、思わずイツキのTシャツの裾を掴む手に力が入る。軽く舌先を吸われ、ゆっくり唇が離れた。

「いい?」

眉間に皺を寄せ、眉尻を下げ聞いてくるその表情が熱っぽい。体温を感じられないいつものイツキとは違い、思わず胸が高鳴った。

「うん」

小さく頷くと、イツキはゆっくりベッドにリオを横たわらせた。

額、鼻先、耳にイツキの唇が降ってくる。首元に近付くとくすぐったくて首をすくめた。

「くすぐったい?」

「うん、ちょっと」

素直な言葉にイツキは優しく笑い、再び首元に顔を沈める。首筋をなぞるように舌を這わせ、耳たぶを唇で挟む。少しずつ、くすぐったさとは違う感覚が体を支配し、シーツを掴む手に力が入った。

与えられる快感に必死で耐えながら、リオもイツキの骨張った肩や背中を弄った。細くても、普段重い車のパーツなどを扱っているせいか、背中や腕にはしっかり筋肉がついている。

時々合う目がひどく優しくて、リオは泣きそうになった。愛おしくて堪らない。愛おしすぎると人は泣きそうになることを生まれて初めて知った。

外から入ってくる明かりがいつの間にかオレンジ色に変わっている。

鮮やかなオレンジ色に包まれた部屋の中で、重なった2人の影が色濃く壁に写っていた。


脱力感と幸福感に包まれ、裸のまま2人で真っ暗な天井を見上げていた。少し汗ばんだ肌にかかるブランケットの中で、まだ手は繋いだままだ。

「ピザどうする?」

所謂ピロートークにしては色気がなさすぎる会話にリオは思わず笑ってしまった。

「頼も!お腹空いてきた!」

「ね。俺も腹減った」

イツキが携帯を手に取り、デリバリーのサイトを開く。2種類乗ったピザと、ポテトとコーラを注文した。

先にベッドから出たイツキが、下着とジーンズを細い腰に引っ掛け、徐に部屋の電気をつけた。

「えっ、ちょっ…!」

まだ裸のままだったリオは慌ててブランケットの中に潜り、ベッドの上に散らばった下着や衣服をかき集めた。爆笑するイツキの声が聞こえる。ブランケットの中で器用に着用し、やっと脱出する。

「頭ボサボサだよ」

ブランケットに篭って着替えたせいで乱れた髪をイツキが笑いながら整えてくれた。

「ありがとう」

「ピザ来るまであと30分あるから、ビール買いに行かない?」

「おっけー。そうしよ」

手を繋ぎ、近くのコンビニまでビールを買いに歩いた。

ステップアップした2人の関係に、リオは嬉しさとほんの少しの恥ずかしさで不思議な感覚になる。

コンビニから自宅へ戻り、買ってきたビールを冷蔵庫に入れ冷やしていると、ちょうどピザが届いた。

「やっぱピザはコーラなんだよね」

「なんだかんだね」

「イツキくん」

「ん?」

「好き」

「……リオっていつも突然だよね」

そういえば告白した時も何の脈略もなしに言ってしまったんだ、とリオは思い出した。

想いは突然溢れてしまう。

グラスに溜まった水が溢れ出す時のように。

そんな時、リオはいつも言葉に出てしまうのだった。

ピザを頬張りながら笑うイツキを見て、心の底から好きだと思った今のように。

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