聖剣を装備した魔王
「……で、これは何だ?」
朝早くにルルカから渡されたものはややくすんだ色の剣であった。
「なんか落ちてたから拾ったんだ。マオー様、こういうの集めるの趣味だったでしょ?」
そんな趣味は一切ないのだが……。
「確かにマオ様はダンジョン内でも宝箱にこういう武器を保管されてましたもんね」
いや、あれは俺自身が使えないものを捨ててる、という認識だったんだけどな。
ダンジョンの難易度が高すぎて保管している扱いになっているのか。
「でも、これ……」
聖剣のように見えるのだが気のせいだろうか?
作中にいくつか存在していた聖剣。
決められたキャラしか装備ができない聖なる武器で、魔王に対する特攻能力が付与されていた。
当然ながら魔王である俺が装備できるものでもないだろう。
そう思いながら聖剣を手に触れる。
なぜか、妙に手に馴染む。
でも、装備できる事はないはず。
「さすがマオ様、聖剣すらも自由に装備することができるのですね」
ルシフェルが称賛の言葉を投げかけてくる。
ただ、実際に装備できた俺の方が驚きであった。
それでも彼らの期待を裏切るのは良くないと、装備できるのは当然といった風の態度をとる。
「まぁ、こんなもんだろうな」
ただ、持つだけで聖剣自身の力が発揮できていないのでは、とも思ったのだが、実際にこの件を持った後、同じ自身の力が強化されているような感じが見て取れた。
「ところで、この聖剣を持っていたやつはどうしたんだ?」
「まずかったらしいよ」
話がつながっているようで、まるでつながっていなかった。
ただ、もうこの近くにいないことだけはわかった。
こんな大事なものを手放す勇者なのだから、この剣はもらっても文句は言われないだろう。
むしろこんな粗大ゴミを処分して上げるのだから感謝してほしいものだった。
「これが聖剣ならミーナに渡した方がいいのか?」
「いえ、彼女は魔法に特化した勇者ですから剣の適性はないでしょう。むしろマオ様の方がうまく扱えるかと」
「それならこれを取り戻しに来るまで俺が使うとするか」
◇ ◇ ◇
新しく聖剣を携えて歩いているとミーナたちが興味深そうに見てくる。
「それって聖剣ですよね? やっぱりマオ様も勇者に任命されていたのですね」
「いや、勇者ではないぞ? でも拾ったからな」
「聖剣は真なる持ち主の下へと行くと言われてるから」
「さすがは俺たちのマオ様だ!」
「うんっ」
「いやいや、本当に拾っただけだぞ?」
必死に拒否をするが、三人とも信じていない様子だった。
「それで俺たちの特訓はいつしてくれるんだ?」
「うんっ」
「いや、だから俺じゃ特訓は……」
いや、ミーナがルシフェルによって鍛えられた、ということは他の二人も彼に任せてしまえば良いのではないだろうか?
「わかった。少し待ってくれ」
そういうと早速俺はルシフェルの所へと向かう。
◇ ◇ ◇
「ほう、残りの二人も特訓をしてほしいと」
「何とかならないか?」
「そうですね……。あのパワー馬鹿な方はグラッツと訓練されればいいでしょう」
グラッツとは四天王の一人で力自慢のミノタウロスだ。
いきなりそんな相手にぶつけては一瞬で倒されてしまわないだろうか?
「大丈夫ですよ。何とかなりますから」
ルシフェルのその言葉は絶対の自信に満ちていた。
そこまで言うのなら問題ないのだろう。
「もう一人が問題ですね。神官の少女……ですもんね。残念ですけど魔族たちに聖職者はいませんから……」
「なるほどな……。レベルを上げさせようとしても神官だとまともに魔物は倒せないだろうしな」
「レベルを上げるだけなら銀のあいつを倒せば済みますけど……」
「あいつはそう簡単に姿を現さないのでは?」
「そんなことありませんよ。魔力をそれなりに消耗しますからあまりやりたくはありませんが、召喚魔法を使えば簡単に呼び出すことはできます」
いっそレベルさえ上げてしまえば、あとは勝手に魔法の特訓をしてくれるのではないだろうか?
「よし、それでいくか。それならレベルの上げすぎとかにもならない訳だからな」
「かしこまりました。ではそのように取り計らいますね」
ルシフェルが頭を下げると早速準備に取りかかっているようだった。
今回はいつものように転移して連れて行くのではなくこの山の中にその特訓所を作るようだった。
しかもエルフの里の近くに……。
「魔力をかなり消費するんですよ」
というルシフェルの言があるが、良くエルミナが承諾したなと思ってしまう。
「やっぱり早くレベルが上がった方が良いです」
むしろエルミナも嬉しそうにしている。
ひょっとして彼女も自分を鍛えたかったのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます