襲撃
勇者は他三人の仲間たちと賢者がいるという山へ向かって歩いていた。
「おい、こんな面倒な泥仕事、なんで引き受けてきたんだよ」
身軽な盗賊職の男が口を尖らせて言う。
「王様の頼みだからな。金もたっぷり弾んで貰ったからにはやるだろ?」
「そうじゃなかった例えばお前の依頼だとしてもこんなとこまで来るか」
「はははっ、違いない」
勇者パーティー4人は声を上げて笑い出していた。
「ところで、その賢者とか言うやつは男なのか?」
「残念ながらそうみたいだ」
「ちっ、もし女なら断った際には、ゆっくり楽しもうと思ったのにな」
下衆な表情を浮かべるのは、大きな杖を持った魔法使い風の男である。
「そういえば、見習いの勇者ちゃんはどうなったんだ?」
「不敬にも王様の依頼を断って、どこかへ姿を消したらしい」
「あの子もちょっと子供だけど可愛かったよな。逃げたということは、どこかで見つけたら捕まえてもいいわけだ」
「それがいいな。どうせ勇者はこの俺ただ一人なのだからな」
どこからどう見ても、勇者には見えないが、これでも聖剣に認められた真なる勇者の一人である。
勇者にしか扱えないと言う聖剣。
これがあるからこそ、この男はどれだけ下衆な行動したとしても勇者であると言えるのだった。
「そろそろ着くぞ。なんだよ、何の危険もないじゃないか」
「本当にこんなところに賢者がいるのか? ただのじいさんとかじゃねーのか?」
「もしそうだったら、俺は暴れる自信があるぞ」
「その時は、ただ殺せばいいんだ。なんて言ったって、俺たちには国王の依頼というものがあるんだぞ」
「はははっ、違いないな」
笑いながら進んでいく勇者たち。
するとなんてことはない畑の隣を通り過ぎたときに盗賊風の男が姿を消す。
「おいっ、シルフのやつ、どこへ行った?」
「トイレとかじゃないか?」
「そうか……」
ただ勇者はなんだか嫌な予感がしていた。
本当に何も言わずにシルフがどこかへ行くだろうか?
むしろ何者かに襲われたと考えた方が信じられる気がした。
しかし、周りには畑くらいしかない見通しの良い道である。
もし誰かが隠れてたりするのなら一瞬で判断がつくだろう。
「どうする? ここで待つか?」
「……いや、先に進もう。おそらくシルフも俺たちに気を遣わせないように黙っていったんだろうからな」
ただ斥候職であるシルフが居なくなったのは大痛手である。
もし罠があるのならそれを防ぐ手段が一切ない状態になっているのだから――。
何を考えすぎてるんだ、俺は。こんなところに罠なんて仕組んであるはずがないだろ?
嫌な言葉を払うように俺は前へと進んでいく。
すると次は魔法使い風の男が姿を消していた。
「な、何が起こってるんだ? ま、まさか目に見えない敵がいるのか?」
しかし、これでも斥候のシルフはかなりの高レベルの盗賊である。もし目に見えない敵が居るのだとしてもそれに気づかないわけがないのだ。
「ど、どういうことだ。マリトまでトイレに行ったのか」
「……本当にそう思うのか?」
「違うのならいったい誰がこんなことをしてるんだ!?」
「……大賢者じゃないのか?」
最初は冗談で話していた大賢者だが、本物がいるのならこのくらいできてもおかしくない。
むしろ本物がいるからこそこの結果、とも言えそうである。
「おそらく俺たちは幻覚に捕らわれているんだ。俺の聖剣で相手の幻覚を振り払う。その隙にお前は術者を探すんだ」
「わ、わかった」
勇者は聖剣に力を込める。
純粋な光ではなくややくすんだ色の光が輝きだす。
ここはさすが聖剣に選ばれた勇者である。
普通の魔物なら一瞬でやられるであろう力を聖剣に込めていた。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
その光をまっすぐ道の先へと放つ。
「こ、これで幻覚が解けるはず……」
そんな思いもむなしく、幻覚は一切解けた様子がなかった。
それどころか景色はまるで変わっていない。
そこから予想できることは――。
「くそっ、敵は俺より強いのか?」
「ど、どうするんだよ!? このままだと俺も……」
そこで最後の一人も声が途絶える。
後に残されたのは勇者ただ一人だった。
「くそっ、姿を見せて俺と戦え!!」
周囲を警戒しながら勇者は聖剣を構えていた。
するといつ現れたのかわからないが、気がついたときには目の前に少女がいた。
こいつが俺の仲間たちを……。いや、違うな。こいつもこの幻覚に迷い込んだのだろう。
そう思った勇者は少女に声を掛ける。
「嬢ちゃん、大丈夫か? こんなところにいたら危ないぞ?」
「――」
しかし少女は何も喋らなかった。
もしかして聞こえなかったのだろうか、と勇者は再び声を掛ける。
「嬢ちゃん、聞こえてるか!?」
「――てるっ」
小声で少女が何かを伝えようとしていた。
いったい何を伝えようとしているのだろう?
勇者は耳を少女に近づける。すると――。
突然脳裏に強い衝撃を受け勇者はその場に倒れていた。
「な、何を……」
「いきなり口説こうとするなんて男の風上にも置けないよ。マオー様を見習いなよ」
見上げると口を吊り上げて笑っている少女の姿があった。
「ま、まさか、魔族……」
「まさかボクのことを知らないの? これでも四天王のルルカって知られてるはずなのに……」
しかしその言葉を全て聞く前に勇者は意識を失っていた。
「全く失礼なやつだったね。触手君、そいつもさっきの奴らみたいに遠くへ吹き飛ばしちゃえ!」
よく見ると畑に植わっている触手がくねくねと動きながら勇者を捕まえていた。
そして、一瞬で星のごとく遠くまで飛ばしていたのだった――。
「あっ、聖剣……。まぁいいか。これはマオー様に献上しよーっと」
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