特訓

 なぜかルルもこの山に住むことになり、想像以上にカオスの山になりつつあった。




「もうここは一端の領地だね」



 リリのその言葉にミーナが同意する。



「それ良いね。マオ様が領主様で」

「まてまて、勝手に決めて良いことじゃないだろ? この山も俺が買い取ったもの(ということになってる)だか」

「領地を買い取って長として発展させてるなら領主じゃないの?」

「普通、こういうのって国王の許可が要るもんだろ?」



 ここでもしルシフェルが側にいるなら「王ならここにいますよ」とでも言ってきそうだった。


 ただ、ここにいるのは普通の人と言うことになっている。



「うーん、それならいっそ独立しちゃう?」

「それはいいな。俺も協力してやるぞ」

「待て待て、なおのこと悪いわ!」



 なんでこうも喧嘩っ早いやつが多いんだ。

 少しはエルミナを見ならってほしいものだ。



「人族の王……、エルフの敵……、倒すです……」



 あの、エルミナさん? なにかドス黒いものが見えてますけど?



「どっちにしても、この山の所有者はマオ様なんだから、長には違いない」

「確かにそれはそうだな」

「うん」



 なんだろう。流されるままに再び人類の敵としての道を進もうとしていないか?

 俺はただ静かに平穏に暮らしたいだけなのに……。



「わかったよ。俺が長ということは認めるだから、余計な争い事は起こすなよ」



 ほっておいたら下手に戦争を起こしそうなメンバーであるので、仕方なく一部だけ認めることにする。



「それならもっと領地らしくしないとだめだね」

「お店たくさん……」

「武器とかも呼びたいな」

「わ、私はその……、温泉とか欲しいです」



 思い思いに好きなことを言ってくる面々。

 もしかしてそれを準備するのって俺になるのか?



「武器は今あるもので、我慢してくれ。温泉は沸かせる奴がいないだろ?」

「はいはーい、私が沸かせるよ」



 ちっ、余計な時に手をあげやがって。

 さすがは勇者だ。魔王おれの邪魔をすることにかけては一級品だな。


 手を挙げるミーナに対して俺は引き攣った笑みを見せる。



「わかったよ。それじゃあ、風呂作りはミーナに任せる。これでいいか?」

「任されたよ」

「では、私は家をたくさん用意しますね。あとはマオ様には領主らしくもっと大きなお屋敷を用意しましょうか」

「なんでそうなるんだよ、ルシフェル」



 突然現れたルシフェルに対して言う。



「でも他の方々と同じ大きさの家ではあまり長という感じがしないじゃないですか? 別にお城でも構いませんよ?」

「そんなでかいものを建てたらせっかく山に住んでいる意味がないじゃないか」

「わかりました。山らしい館を作ることにします」



 館と言う部分は諦めてくれなかったようだ。

 それでも山に住むような感じが残せたのだけは僥倖である。



「とにかく一つずつ過ごしやすいように作り直していくか」




       ◇ ◆ ◇




 王都にある王城では、国王の前に一人の男が立っていた。



「来てくれた、真なる勇者よ」

「あんたから連絡してくるとは珍しいな。儲け話か?」



 男はやたら馴れ馴れしく国王と話している。

 しかし、国王はそれを咎めようともしない。



「依頼さえ果たしてくれればしっかり報酬を払う」

「はははっ、わかってるじゃねーか。俺は高いぞ」

「これ、ここに」



 国王がそばにいた兵士に告げると、兵士は奥の部屋に入っていき、次に戻ってくると、その手には袋包みが握られていた。



「前払い金貨10枚。成功報酬として金貨50枚でどうだ?」

「やけに羽振りが良いじゃねーか。何かトラブルか?」



 勇者は声を落としながら国王に尋ねる。

 国王も声を落とし勇者にだけ見えるように小さくうなずいていた。



「そういうことだ。見習いによって魔王の情報は偽だということはわかったが、代わりに伝説の賢者を見つけたらしい。かの魔王を倒すには絶対に必要な戦力だ。ただ相手についてしまえば、これ以上厄介な敵はいない。そこでだ、お前にはこの賢者の勧誘。それに失敗するようなら暗殺を頼みたい」

「なんだ、そんなことか。てっきり見習いの処分でもさせようとしてるのかと思ったぞ。仮にも勇者、国王が殺したなんて話になれば、国民の非難は免れないからな」

「あんな見習い、放っておいても勝手に死ぬだろ。手を出す理由にはならない。それよりも賢者だ! 頼んだぞ!」

「はいよー。任せておきな。暗殺なら俺の得意分野だからな」



 勇者には思えないような釣り上がった笑みを見せる。


 こうして、金を受け取った勇者は、賢者が住むと言う山へと向かっていくのだった。

 そこが地獄の入り口だとは気付かずに……。

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