家づくり

 俺の嫌な予感は的中していた。

 早速家づくりを始めたミーナたちだが、作り上げた家はとてもじゃないが家とは呼べないものだった。


 隙間風は入り、雨も凌げない、廃屋と言っても過言ではないボロ小屋が出来上がっていた。


 そして、その前でがっかりと肩を落とすミーナの姿があった。



「うぅぅ……、よく考えたら私、家なんて作ったことがなかった」

「はははっ、ミーナは不器用だな」



 アルマが声を上げて笑っていた。



「見ていろ。俺が本当の家という物を作ってやる!」



 軽々と大木を持ち上げる力。

 確かに期待は持てそうに思える。しかし――。



 しばらくすると小屋が完成……することなく、先ほどよりも更に酷く壁も屋根もなく、ただ丸太がいくつも転がっていた。

 そして、アルマがガックリと肩を落としていた。



「ま、まさか家づくりがこんなに難しいとは――」

「これはもうリリに期待するしかないかな」



 ミーナとアルマの視線がリリへと向く。

 ただしリリは大木を持とうとしてもまるで持ち上がらなかった。



「はぁ……、はぁ……、重すぎて持ち上がらないよ……」



 結局ミーナたちではまともに家を作れないということがわかり、期待の籠もった目で俺のことを見てくる。



「さっきも言ったが俺自身は家づくりに失敗してるからな」

「そ、それならルシフェルさんにお願いを――」

「今ルシフェルは出かけているから、他に作れる者と言ったら……」



 ここでみんなの視線がエルミナに集中する。

 確かに彼女は自分自身の家を作り上げていた。


 その技術があるということだ。



「わかったです。私が指示を出すのでみんなで作りましょうです」

「ありがとう。よろしくお願いします」



 ミーナは嬉しそうにお礼を言っていた。

 その表情には先ほどのムッとした様子はまるでなかった。




       ◇ ◇ ◇




 エルミナの的確な指示によってミーナたちの共同住宅は徐々に組み上がっていた。



「ところでドラゴンはどこに行ったんだろう?」

「もともといなかったんじゃねーか?」

「でも龍の魔力を感じるよ?」



 ミーナたちは不思議そうに首をかしげていたので答える。



「ドラゴンなら勝手に穴に落ちていたぞ?」

「ま、まさかマオ様がドラゴンを穴に落として倒してしまったのですか!?」

「ドラゴンってそんなに簡単に落ちるものなのか?」

「そんな話聞いたことがない」

「そこまで案内してもらえますか?」

「もちろん構わないぞ」



 そう言うとミーナたちをドラゴンが落ちて、埋めた穴へ連れて行くことにした。


 現地にたどり着くとそこには小さな穴が開き、どこの出身かもわからない少女が目に涙を浮かべながら、キョロキョロとあたりを見渡していた。



「うぅぅ……。どうしてこんなところに災禍の魔王あいつがいるんじゃ……。わざわざ彼奴がいる地下を避けて地上の山に住処をつくろうとしたのに――」

「えっと、お前はウィルバールでいいのか?」

「そうじゃ。この麗しい姿を見たらわかる……じゃ……ろ?」



 俺の姿を見た瞬間にウィルバールの表情が固まり、瞬く間に青ざめていた。



「ま、ま、魔王!? どうしてここに居る!!」

「どうしても何もこの山に住むことになったからな。それに俺は魔王ではなくマオラスだ」

「なら我はルルでいい。マオラスということは我を滅ぼす気は……」

「そんなものあるはずないだろ? そもそもお前が襲ってこなかったら戦うこともなかったぞ?」

「くっ……、確かにあれは我が悪かった。だから詫びをしたいのだが、お前に返せるものがない」



 普通にルルと話をしているとミーナたちが口をぽっかり開けていた。



「マオ様、その子は?」

「あぁ、コイツが話していたドラゴンだ」

「我が白龍にその龍あり、と言われたルル様じゃ」



 ルルはそういうと実際に龍の姿に戻る。

 すると、ミーナたちは驚き慌てて後ずさっていた。



「ちっ、戦うぞ!」

「もちろんだよ」

「……気をつけて」



 ミーナたちが戦闘態勢に移っていた。



「大丈夫だ。もうコイツに戦う意思はないぞ?」

「火の粉は払うが、我にマオラスと敵対する意思はない。だから穴に落とすのはもうやめて欲しいのじゃ。暗いのは怖いのじゃ」



 ルルがブルブルと肩を振るわせながら人の姿に戻っていた。



「と、まぁこんな感じだ。だから安心してくれ」

「安心できるか!!」



 アルマが大声を上げる。



「マオ様がそういうなら安心」

「いやいや、それはおかしいだろ!?」

「でも、大賢者様ならそのくらいできておかしくないかも」



 リリがジッと俺のことを見てくる。


 なんだろう、俺のことを楽々ドラゴンすら倒せる賢者だと思っていないか?

 ただの賢者ならいいが、下手に強いと思われると討伐依頼とか来る恐れもあるから嫌なんだけど……。



「なるほどな。このくらいできないとわざわざここまで来て鍛えてもらう必要がないもんな」



 そもそも俺に誰かを鍛えるなんてできないんだけどな。

 ただそれを話してしまうと俺が賢者ではないということになりかねないのでそこは黙っておくことにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る