華麗なる逃走劇(失敗)
「なんだ、コイツが賢者なのか?」
アルマが信じられないものを見る目で言ってくる。ただ、その疑問は当然だった。
一体誰が俺のことを賢者なんて言ってたんだ? いや、そう言われているということは魔王だと気づかれてない?
すぐさま否定しようとしていた俺だが、考えを改め頷いていた。
魔王と気づかれていては破滅へ一直線だった。
でも、賢者と言うことは敵対することはない。
更に人と関わるつもりはない、という旨をしっかり伝えたら納得してこの場から去ってくれるだろう。
「アルマ、そんな言い方をしたら許さない。私をここまで鍛えてくれた恩人なんだから」
どういうわけかミーナとアルマが勝手に仲違いをしていた。
このまま放っておけば自然と一人を排除することができるんではないだろうか?
そんなことを思っていると聖女リリが俺のことをじっと見ていた。
その視線はまるで俺に止めて欲しい、と言ってる風に見える。
どうして俺が宿敵である勇者と剣神の仲違いを止めないと行けないんだ!
と一瞬考えたもののすぐさま考えを改める。
ここで彼女たちに恩を売っておくのも悪くはないか。
今の俺は敵だと思われていないのだから味方にしておくのは悪いことではない。
これは貸し一つだぞ。
口には出さないまでもそういう意味を込めた視線を聖女リリに向ける。
彼女にはしっかりと伝わったようで頷きで返してくれる。
それを確認した後、俺は言い争いをしている二人の間に割って入る。
「そのくらいにしておけ」
「で、でもマオ様を侮辱されたから……」
「こいつはただ俺が賢者が聞いただけだ。それにこんなところに住んでるんだ。疑われても仕方ないだろ」
「それはそうだけど……」
「それにお前の方ももう少し仲間を信じてやれ。心の中で疑うのは構わないが、実際に口に出してしまうと仲間そのものを疑っていると思われかねないぞ」
「うっ、すまない。気をつける」
二人ともあっさり反省してくれる。
たったこれだけで勇者、剣神、聖女とそうそうたるメンバーが敵にならずにすむのだから安い物だ。
あとは早々にお帰り願うだけで――。
そう思ったときにエルミナが姿を見せる。
「マオ様、ここにいらっしゃったのですね。そろそろお昼ご飯の時間……、あらっ、そちらの方々は?」
「こいつはミーナだ。あとは彼女の付き添いだな」
一応まだ直接名前は聞いてないのでミーナだけを紹介する。
ただ彼女はムッとした表情を見せてくる。
「マオ様? そちらの方は?」
「あぁ、こいつはエルミナ。行き場の困ったエルフで俺が住んでるこの山で保護した感じだな」
「エルミナと申しますです。どうぞよろしくお願いするです」
ミーナの態度に気づいていないのか、エルミナは普通に話していた。
「保護……。つまり同棲!? えっ、ま、マオ様とエルミナさんってそういう仲なの!?」
「同棲ではないな。同じ山に住むご近所さんって感じか?」
「そ、それなら私も住む!!」
「えっ?」
勇者が近くに住むなんて地獄のような場所になるのだが?
でも、ミーナはすごくヤル気になっていてここからやっぱり住まない、なんていうことはなさそうだった。
「ま、まぁ、中々大変な生活だぞ? 全部自分で自給自足しないと行けないわけだし……」
「大丈夫。慣れてるから!」
くっ、そうだった。
話を聞くにコイツは苦学生ならぬ苦勇者として相当煮え湯を飲まされていたらしい。
だからこそ食べられる草とかも詳しいし、貧しい生活にも慣れている。
むしろ俺以上に山暮らしに向いている、とまで言えるかも知れない。
「お、お前たちはどうだ!? こんな山暮らしは嫌じゃないのか?」
「俺はここに鍛えてもらうために来たんだ! 力をつけるまで帰るつもりはない!!」
「私も賢者様に色々と教えを請いたいです」
俺のさりげない台詞は即否定されてしまう。
これだとここに住まわせるしかないじゃないか……。
しかもアルマとリリに聞いてしまったせいで二人も近くに住むことが決まってしまいそうだった。
俺は引きつった笑みを浮かべながら言う。
「わ、わかった。それなら場所は用意させてもらうから皆で住むといい」
「ありがとう。マオ様ならそう言ってくれると思ってた」
俺の涙をのんで出した台詞はミーナからしたら当たり前の言葉だったようだ。
「手伝えることは手伝うからそのときは言ってくれ。ただ俺自身、家づくりは失敗してルシフェルに作ってもらったものだからそっち方面の戦力に数えないでもらえると助かる」
「大丈夫。こう見えてもアルマは力持ちだし、リリは賢いから家くらい問題なく作れるよ」
ミーナが仲間を褒めていた。
ただ何だろう。
その台詞がどう見ても何かのフラグにしか思えなかったのだが――。
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