強化の賢者
ミーナたちはマオ様に会うついでにあわよくばドラゴンの調査をしようと、山の方へ向かっていた。
「ここって、確かろくな素材も取れず、弱い魔物しか住んでいない山じゃなかったか?」
「格安で売ってたよ?」
「そ、そんなことない。ここはマオ様が住む霊山なんだから」
「そうは言ってもなぁ……」
アルマは思わず頭を掻いていた。
ミーナには悪いがここに噂の賢者様がいるなんて思えなかった。
もちろんドラゴンがいるはずもない。
その思いが態度に出ていたようでミーナはムッとした態度を取っていた。
「本当なんだから」
「行けばわかるんだろ? さっさと行くぞ!」
体力には自信のあるアルマだったが、さすがに山登りはそれほど経験をしたことがない。
しばらく歩くと息が上がり始めていた。
当然ながら後衛職たるリリは既に声を上げることも困難なほどに青白い顔をしていた。
そんな中、同じく後衛メインの勇者たるミーナは一切息を切らさずに平然と先頭を歩いていた。
「みんな遅い」
「はぁ……、はぁ……、お、お前が早すぎるんだ。この野生ッ子め!」
「ふぅ……ふぅ……」
「まだ少ししか歩いてない。このくらいで息を切らしていたら魔物と戦うときに大変」
「さ、さすがにこんなところに魔物なんていないだろ?」
「そんなことないよ。今もそこから……」
ミーナが近くの草むらを指を差した瞬間にそこがガサガサと動き始める。
「みんなっ!!」
「ちっ、本当に魔物がいるのかよ!?」
アルマは慌てて剣を構える。
一方のリリは……とても戦える状況ではなかった。
「私が先制する。援護を――」
ミーナが魔法をいくつか待機させたとき、草むらから謎の影が飛び出してくる。
ただ、それはミーナが見知った顔で――。
「マオ様!!」
待機させていた魔法を解除するとミーナは草むらから飛び出してきた影に向かって抱きついていた。
◇ ◆ ◇
ずいぶんと生活が安定してきた俺はそろそろこの山の周りを詳しく調べようと剣を携えて一人捜して回っていた。
ただ、自然は多いものがあまり危険はないようで動物の一つも出会わなかった。
俺が住む小屋周りには四天王とかドラゴンとかエルフとか勇者とか、危険な相手が度々来るのに……。
でも、こうして散歩をするのは良いかもしれない。
大自然の新鮮な空気を吸いながら、暖かい日差しを浴びる。
まさに俺が望んで止まなかった生活だ。
いきなり空から城が降ってきたり、ドラゴンが来たり、勇者が落ちてくるような生活は断じて望んで……えっ!?
突然俺の目の前に現れた
もしかすると最難関ダンジョンに魔王がいなかったことを怒って襲いかかってきたのか?
それとも俺が魔王であることに気づいたのか!?
どちらにしても危険であることには違いない。
幸いなことに単調な飛びつきである。
やはり初期レベルに近い勇者ではできる攻撃はこんなものだろう。
そう思いながら襲いかかってくる勇者の攻撃を躱す。
ズドォォォォン!!
躱した勇者はそのまま地面に突っ込み、とてつもない音を鳴らしながら地面に穴を開けていた。
えぇぇぇぇぇ!? な、なんだ、あれ?
さすがの俺も驚いて口をぽっかり開けていると穴から勇者が顔を出す。
「ひどいですよ、マオ様。久しぶりの再開なのに。もっと喜んでくださいよ」
どこに最大の敵と出会って喜ぶ奴がいるんだよ!?
いや、ようやく宿命の敵を相まみえることができる、と喜んでるのか?
どちらにしてもちょっと見ないうちにかなりレベルを上げたようだ。そうでなければ今の単純な突っ込みの威力が説明できない。
短期間で一気にレベルを上げる方法……。
銀色に輝くすばしっこいあいつしかないだろうな。
つまり今の俺だとまともにやりあっては太刀打ちできない相手ということだ。
……逃げるか。
幸いな事に未だに勇者は穴の中だ。
この隙をつけば逃げ出すことは――。
いや、だめだな。この勇者は俺がどこに住んでいるのか知っている。
ここで追い払うしかない。
「どうしたの? 何で黙ってるの? もしかして私のこと、忘れた?」
「……いや、覚えているぞ」
「そっか。よかった」
「なんだか前よりも明るくなったか?」
以前はもっと口数が少なかったような気がする。
「マオ様のおかげだよ」
俺のおかげ?
もしかして俺を倒せるから、と喜びのあまりテンションが上がっているのか?
「そ、そうか、それは良かったな。じゃあ、俺はこの辺りで――」
「それでマオ様に紹介したい人がいるのですけど……」
逃げるのに失敗してしまう俺。
しかも勇者に仲間が居るらしい。どう考えても俺に良い結果にはならないことは安易に想像ができてしまう。
で、でも、まだ勇者パーティーの中で最弱と言われてるあの人物なら――。
淡い期待を抱きながら勇者が誰を連れてきたのか、その人物を待つ。
すると俺の前に姿を現したのは剣神アルマと聖女リリだった――。
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