第二話 強化の賢者
勇者の成長
最難関ダンジョンにいるミーナは、四天王随一の魔法使いであるダークエルフのマリベルを紹介されていた。
『魔王様の奥方様に相応しい能力を』
本来なら同じ四天王であるルシフェルの意見なんて聞きたくもないところだが、『魔王様の奥方様』という言葉がマリベルをやる気にさせていた。
災禍の魔王たるマオラス様に付き添うのなら相応の能力が必要である。
その片鱗がなければ当然ながらすぐにでも断るつもりだったのだが……。
「なるほどね。確かにこれなら鍛えるに値する訳だね」
ミーナが見習い勇者であることを確認したマリベルはニヤリ微笑む。
最強の魔王に匹敵しうる相手は覚醒勇者以外にいないと言われている。
つまり、この勇者見習いを覚醒勇者になるまで鍛えたら良い訳だ。
あとは当然ながら確認すべきこともあった。
「勇者ちゃんはマオラス様のこと、どう思ってるのかしら?」
「……マオラス? あっ、マオ様。マオ様はすっごく良い人」
どうやらまだ好意を抱いているだけの様子だった。
「ところでここに災禍の魔王がいるって聞いたけど?」
「今はいないわね。昔はいたんだけど」
「……もういないの?」
そう簡単に魔王がわかりやすいところにあるはずがない。
山に魔王城を作るなんて眉唾物の話、信じる方がおかしかったのだ。
それに人の噂だからこんなものだろう。
昔にはいた、という情報が聞けただけでもありがたい。
「それよりも勇者ちゃん? あなた、その辺の石に躓いたら死にそうなほど弱いわね」
「……石では死なない」
「冗談よ、でもそのくらい弱いってこと。だからね、徹底的に鍛えてあげるから覚悟することね」
マリベルはにっこりと微笑む。
ミーナがその意味をわかったのは、実際に特訓が始まってすぐの事だった。
◇ ◇ ◇
特訓を開始して一日目。
今まで魔力はあったものの、魔法を使うことができなかったミーナ。
そんな彼女がまずさせられたのは、確認されているすべての魔法を知ることであった。
もちろん、適性があるため実際に使うことができるのはほんの数種類である。
ミーナが勇者であることを考えれば、おそらく適性があるのは光魔法であろうことは想像がつく。
それならどうして他の魔法まで勉強しているのだろう?
そんな疑問はすぐにマリベルが解消してくれた。
「どんなマホがあるかも知らないと、相手が使ってきたときに対処できないでしょ? それに自分独自の魔法を作ろうとすると、他の知識が役に立つの」
「……そうなんだ」
実際にオリジナル魔法を見せてくれたマリベル。
自分と比べると遥か高みにいる魔法使い。
このやり方は、おそらく彼女が実際に自分で経験して試したものであろう。
だからこそミーナも同じように必死に魔法を覚えようとしていた。
◇ ◇ ◇
訓練を開始して一ヶ月。
毎日、魔法の勉強していたミーナはおおよそすべての魔法を覚えることができた。
もちろん、あくまでも覚えただけで実際に使うことはできない。
それでも、想像以上に早い期間にマリベルは驚きを隠しきれなかった。
「さすがは見習いとはいえ勇者ね。敵になったら、本当に脅威だわ」
「……次は何をしたらいい?」
向上心もすごくある。
確かに最初見た時は、一瞬で倒せそうなほど弱い子だったけど、恐ろしいまでに早い成長速度である。
「そうね。次は実際に魔法を使っていきましょうか。なんとなく自分に使えそうな魔法はわかっているかしら?」
「……うん」
すべての魔法を知ったからこそ、自分の適性がより深くわかっていた。
ミーナの適性は勇者らしく光属性。
ただ、攻撃や回復といった魔法ではなく、味方の能力を向上する付与魔法に強い適性があった。
ここまではっきりわかったのは、全てマリベルのおかげである。
あの魔法を覚えると言うところから始めていなければ、こうも自分の強い適性がわからなかっただろう。
「それなら実際に魔法を唱えてみましょうか」
「うん!
ミーナは光魔法を使う。
すると、ミーナが持っていた世界樹の杖が淡く光る。
これが無事成功したと言う証である。
ただし、その瞬間にミーナの体から何かが勢い良く抜けていく。
その喪失感によって、ミーナは思わず膝をついていた。
「初めは魔力が少ないからすぐに魔力切れを起こすかもしれないわね。とりあえずこれを毎日魔力切れを起こすまで続けてちょうだい」
「わ、わかった……」
◇ ◇ ◇
訓練を開始してから約一年が過ぎた。
ミーナの魔力はとんでもなく増え、ミーナが使える初級の光付与魔法では一日で魔力を使い切ることができなくなっていた。
「そろそろ中級や上級の魔法を試してみると良いわよ。それでまた同じように魔力を使い切るまで使い続けてみて」
素直にマリベルの言う通りに魔法を使い続ける。
ただ、レベル一の自分が本当にそんな魔法を使うことができるのだろうか?
そんな疑問を抱いていたのだが、思いのほか簡単に魔法は成功してしまう。
「うそ……」
「うんうん、いい感じに使えてるわね。これならあっという間に教えることがなくなりそうね」
上級魔法を使っても、一日で魔力を使いきれなくなってくるといよいよミーナ自身のレベルアップを開始するのだった。
◇ ◇ ◇
緊張した面持ちで魔物と向かい合うミーナ。
まともに魔物と戦うのは初めてのことだった。
ただ――。
勝負は一瞬でついてしまう。
「えっ?」
ミーナが緊張している間にマリベルが一瞬で魔物を倒してしまっていた。
ただ、パーティーを組んでいるためにこれでミーナにも経験値が入ってくる。
なんだかズルをしているみたいで居心地は悪かったが、マリベルは全く気にしていない様子だった。
「さぁ、どんどん行くわよ」
「う、うん……」
こうして見習い勇者だったミーナは瞬く間に人間の頂点ともいえるほどの能力を得てしまうのだった。
「あっ、このダンジョンは別空間にあるから時間の流れは外と違うからね。今は外だと十日ほどかしら?」
「えっ? えぇぇぇぇぇ!?」
本当に一瞬の間にとんでもない能力を手に入れてしまったようだった。
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