苗を植える

 翌朝になると俺は早速エルミナが苗木を植えたい、と言っていたことをルシフェルに相談する。



「なるほど、あの愛玩動物エルフがそんなことを言っていたのですか?」

「植えるのは別にどこでも良いと思うんだが、できればよく育つところに植えてやりたいのだが――」



 ルシフェルは少し考えた上で言う。



「この小屋から北東方面などはいかがでしょうか?」

「北東だと日のあたりはあまり良くないんじゃないか?」

「それはありますが、苗木を植えるだけでなくて、あのエルフが住めるように側も開拓すれば陽のあたりは解決できると思います」



 なるほど。そうすればもし彼女の知り合いが来た時に周囲に家を作ってやることもできるか。



「よし、それで行くか」




       ◇ ◇ ◇




「えっ、この苗木の側を開拓して良いのです?」

「その方が苗木にとっても良いし、エルミナの仲間たちが来た時にまとまって住める方が良いんじゃないのか?」



 俺の提案にエルミナは思わず涙を流していた。

 流石に少女を泣かしてしまったと言うこともあり、俺はその場であたふたとする。



「何か気に障ったか?」

「い、いえ、ただ住まわせてもらうだけじゃなくて、苗木のことも私たちのことまで考えてくださったことが嬉しくて……。私たちの状況を知られていたのです?」



 涙を拭いながら言うエルミナ。

 当然ながらエルフが置かれている状況は知らない。

 原作を考えてみても、エルフは見目麗しいことからよく奴隷にされがちな種族ではあるが、それ以外にも普通に人の街にいる・・・・・・


 もう少し詳しく書いてくれてたら良かったのに、と思わざるを得なかった。


 素直に知らないことを伝えようとするとルシフェルが隣で俺に視線を向けてくる。


 もしかして、俺の代わりに聞いてくれるのだろうか?


 そんな期待を視線に込めて送る。

 すると、それはしっかりルシフェルに伝わってくれた。

 流石四天王筆頭にして、最高の頭脳とまで言われた男である。彼がいれば全て丸く収まるのではないだろうか、とすら思わされる。


 そんな絶対なる信頼をルシフェルに向けると満を辞して彼が口を開く。



「マオ様に知らない事はないですからね。あなたを助けると決まった時点で既にエルフたちはマオ様の庇護下に入ります。エルフを陥れた奴は報いを受けることでしょう」



 んっ? なんでそんな話になってるんだ?

 俺はただエルミナの知り合いが彼女を訪ねてくるかもしれないから近くに空き地があるのはいい、って話をしただけなんだけど。


 そもそもエルフを陥れたってどういうことだ?


 俺の知らない事しかない状態で話が進んでいくのだが?


 ただエルミナが目を輝かせて俺の方を見てくるものだから、間違いだと訂正することはできなかった。



「ほ、本当にそこまでしていただけるのです?」

「マオ様が動く以上当然です」

「あ、ありがとうございますです。私にできることがあれば何でも言ってくださいです」




       ◇ ◇ ◇




 エルミナの持つ苗を植えるために俺たちは北東の地へとやってきた。

 もちろんそこには何もなく、自然が残る風景である。


 ゆっくり歩く俺たちに対してエルミナは嬉しさからか小走りでかけて行っては色んなものを興味深そうに眺めていた。



「マオ様ー、見て欲しいですー! とっても綺麗ですー」



 いや、俺には他の景色とどこがどう違うのかまるでわからないのだが?



「ピーピーうるさい小娘だね。ボクが退治しましょうか?」

「ルルカは余計なことをしないでくれ……」



 苗木を植えるからこそルルカにも声をかけたが、相変わらず喧嘩っぱやくて扱いに困ってしまう。



「わかったよ。余計なことは何もしないね」



 そういうとルルカは静かになる。

 ただ、すぐにルルカの顔は真っ赤になっていた。

 どうやら息も止めているようだった。



「さて、それじゃあ植える場所を決めるか」

「決めるですー!」



 俺とエルミナは二人で苗木を植える場所を探しにいく。



「あっ、ま、待って。変なことしないから待ってー」



 置いて行かれたルルカは必死に声を上げて追いかけてくる。



「それでどのあたりに植えるのがいいんだ? ルルカはわかるか?」

「うーん、ちょっと待ってね」



 ルルカは地面に手を当ててしばらく目を瞑っていた。



「この辺りならどこでも変わらなさそうだよ。良くも悪くもないからちょいっといじれば立派に成長すると思うよ」

「それならエルミナが好きなところに埋めても良さそうだな」

「あ、あの、私はマオ様に決めてもらいたい……です」



 申し訳なさそうに言ってくる。

 まぁその程度なら大した労力にもならないから俺は素直に受けることとした。



「それなら比較的平坦なあそことかはどうだ?」



 適当に感覚で提案してみる。

 するとエルミナはその場所へ向かって苗木を植えていた。



「ありがとうなのです。この子もきっと喜んでくれるです」

「それは良かった。それじゃあ……」



 俺はルシフェルを見ると彼は頷いていた。

 今度こそしっかり以心伝心できるように……。


 真剣な俺の表情から何を言いたいか、通じたようだ。



「ではここに城を建て……」

「家だぞ!? エルミナが住むところだからな」

「そ、そこまでしてもらうのは悪いです」

「気にするな。同じ場所に住む仲間だろ?」

「仲間……」



 エルミナは感嘆の声を上げる。

 そしてすぐに大きく頷いていた。



「そうです。仲間です。私たちは仲間です!」



 こうして俺たちは新たな仲間であるハイエルフのエルミナを加えて、更に最凶ダンジョン化スローライフを進めていくのだった――。

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