第一話 魔王城の破壊から始まるスローライフ
魔王城を壊そう!
いやいや、どう考えてもここに魔王城はおかしいだろ!?
せっかくの長閑な景観が一瞬で崩れてしまっただろ?
「いかがでしょうか? って、マオ様!? ど、どうされましたか?」
俺が魔王城とかいうここにあってはいけないものを何とか壊そうと思いっきり蹴りつけていた。
もちろんそんなことをしても俺のステータスじゃビクともしないこともわかりながら――。
「道具でもあれば壊したのに……」
「道具にございますね。かしこまりました」
それを聞いた瞬間にルシフェルは慌てて空間魔法でいくつかの装備を取り出していた。
光の剣、クラウ・ソラス。
一撃必殺の槍、グングニル。
氷神の弓、ピナカ。
雷神の斧、ラブリュス。
巨神の槌、ニョルニル。
そのどれもが最難関ダンジョンに配置されていたはずのものだった。
当然ながら俺は表情を殺して一番手前にあったニョルニルを手に取る。
柄の短めなその槌は持ち主の魔力に応じて自在にその大きさを変えることで知られていた。
当然ながらルシフェルは前代未聞の巨大なハンマーを見ることができると期待している。
しかし、俺の手元に現れたのは至って普通の金槌である。
使いやすいサイズには違いないが……。
でも、これでルシフェルの異常に高い評価から逃れることができる、と思ったのだがなぜかルシフェルの評価はまるで下がっていなかった。
「さすがマオ様。あまりにも強すぎる魔力に武器すら錯覚させてしまうなんて」
「なんでもいいから早くあの城を壊すぞ!」
「かしこまりました。私のミスのせいでマオ様のお手を煩わせてしまい申し訳ありません。かくなる上はこの命を持って……」
「そんなのはいいからやるぞ!」
「はっ、身命を賭して」
俺が思いっきり金槌を振りかぶって魔王城を叩く。もちろんハリボテではない城がその程度で壊れるわけもなく……。
「
ルシフェルのその台詞と共に山にあった魔王城は一瞬で粉々に吹き飛び、そこには巨大な穴が空いていた。
これ、俺が何かする必要なかったよな?
それと同時にルシフェルには下手に逆らわないようにしないと、と思わされたのだった。
あくまでもルシフェルはゲームのラスボスたるマオラスに付き従ってるんだ。
マオラスと俺との違いに違和感を覚えてしまえば、あの力が俺の方へ向くかもしれない。
……俺は平穏に暮らしたいだけなのにな。
山頂に突然城を生み出して、更にはそれを一撃で吹き飛ばしたのだから、平穏が聞いて呆れる。
しかし、ありえない状況が何度も起こりすぎたことで俺自身の感覚も狂い始めていたのだった。
◇ ◆ ◇
勇者を抱えている国、ブランダーク王国。
その王城にある執務室に緊急で伝えられた情報を聞き、国王は口を噛み締めていた。
「辺境の山奥に魔王城が現れただと!?」
「そ、それはそうですが、すでに魔王城は何者かによって破壊されております」
「ど、どういうことだ!? 私にわかるように説明してくれ」
「本当に何が何かわかっていないのです」
要領を得ない報告だが、相手に魔王が関わっているかもしれないとなると当然かもしれない。
しかも、その魔王に喧嘩を売る人物がいるとなると下手に近づくこともできない。
「ど、どうしたものか……。いや、こういう時のための勇者だな。おいっ、勇者を呼べ!」
「し、しかし、勇者と言ってもまだ見習いにも満たない少女で――」
「見習いでもなんでもかまわん! 魔王といえば勇者しか対応できん事柄だ!」
「はぁ……。わかりました。すぐにお呼びします」
すぐに伝令が勇者を連れて戻ってくる。
銀色の長い髪をした小柄な少女。
幼さを残した顔付き。
武器らしい武器は持っていない上にその格好は村娘と変わらない白のワンピース。
こういってはなんだが勇者からはとてもじゃないが強者の風格を感じない。
それこそ城の騎士団長のほうが遙かに強いだろう。
「……呼んだ?」
「あぁ、辺境の山に魔王が現れたかも知れない。それの調査を頼む」
「……それって私の仕事?」
無表情ながら首を傾げる勇者。
王すら敬う様子がないのは勇者特有なのか、ただ不思議とそれが自然に思えて誰も気にした様子はなかった。
「魔王がいなければそれでいい。ただ、魔王城が現れたと思ったら一瞬で吹き飛ばされたんだ。魔王以上の何者かがいるかもしれん。そやつを仲間にできればそなたの魔王討伐の旅も楽になるのではないか?」
「仲間は……苦手」
「と、とにかく魔王が絡む以上勇者しか対応できん! 任せたぞ」
「……わかった」
勇者はそのまま出ていこうとする。
「待つが良い。さすがにそんな危険な地にただで向かわせたらとなると私の株も下がる。これで旅の準備を整えると良い。装備も準備させてある」
そういうと王は近くに居た兵に視線を送る。
すると彼女は小袋に入れられたお金(銀貨十枚)と兵士たちが持つものと同じ剣が与えられた。
ただ、筋力が足りないようでその剣は装備することができずにその場に落としていた。
勇者の称号が聞いて呆れるほどの貧弱さである。
一瞬場が静まりかえる。
しかし、兵が今度は木剣を持ってくる。
それならなんとか持つことができたためにそれを受け取っていた。
「勇者よ、魔王のこと任せたぞ」
あまりにも貧弱な勇者が出ていくのを王は不安げに眺めていた。
◇ ◇ ◇
王から与えられたお金はだいたい兵士の二日の給金程度のお金である。
とてもじゃないが割には合わないのだが、小食で野宿も厭わない勇者にとっては一月も優に持つほどの大金だった。
それに勇者にとって魔王は因縁の相手である。
先ほどもらった木剣を携えて勇者は魔王城が現れて吹き飛んだという辺境の山へ向かっていくのだった――。
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