最弱魔王に転生したから身分隠して引きこもる
空野進
第一章 最弱魔王、山買ってみた
プロローグ
プロローグ
災禍の魔王と言われたマオラス・ディズトラムは、最難関ダンジョンの最下層で主人公を待ち続けるラスボスだった。
レベルカンストした主人公たちですら厳しい戦いを強いられるという最強の存在であった。ところが――。
「ど、どうしてこうなった!?」
そんなマオラスに転生してしまった俺は思わず膝をついて項垂れていた。
いずれ倒される運命とはいえ最強の存在であるマオラスへの転生にはじめは思わずガッツポーズをしていた。
しかし、そのステータスを見た瞬間に思わず項垂れてしまった。
名前:マオラス・ディズトラム
職業:災禍の魔王
レベル:1(MAX) 所持金:0
攻撃:9
防御:8
敏捷:10
魔力:13
一般的な兵士の能力が10であることを考えると下手をすると一般人にも劣る能力。しかもレベルは上がることがないためにこれ以上数値が増えることもない。
そういえば転生前に夢の中で『生前の能力に色をつけて転生させてあげるよ』とか言われた気がする。
これだと色をつけるどころか罰ゲームじゃないのか!?
ラスボスは倒しても経験値をもらえることもないし、お金ももらえない。
だからレベルは1で上限。所持金もなしというのは百歩譲ってわかる。
でも、この能力はおかしいだろ!?
なんでラスボスの本来の能力に俺の生前の能力を上書きしてるんだよ!?
「マズい……。マズすぎる……」
こんな能力だと今居る最難関ダンジョンの中を歩くことすら困難である。そんな状況でいずれ主人公たちが攻めてくるのをただ待つだけ。
そんな処刑を待つ死刑囚みたいな真似をしたくない。
「……逃げるか」
最悪、この最難関ダンジョンを突破する方法はある。
マオラスの部下である四天王の中に空間魔法を得意としている悪魔がいるのだ。
そいつに頼めば地上に出ることはできる。
ただ、そこで次の問題が生まれてしまう。
そう、金がないのだ。
最低限生活をしていくには金が必然的にかかってくる。
しかし、マオラスは魔王であるにも関わらず所持金はゼロ。
「いや、待てよ……」
唯一俺が持っているものがある。
それはここ、最難関ダンジョンである。
普通の人では入った瞬間に殺されてしまうことがわかっているダンジョンなので、二束三文にしかならないはずだけど無銭よりはマシだ。
ここがなくなれば、今この地に住んでいる魔族たちは散り散りに去って行く。そうなれば俺自身の目眩ましにもなる。
あとは俺が平穏無事に暮らす方法……。
「山でも買うかな?」
誰も住まないような山は比較的安価で販売されている、という話を聞いたことがある。
昨今だとのんびりした山暮らしのスローライフはブームで日頃から疲れた体や精神を休めるのに最適と言われていた。
そこで平民として過ごす。
魔王の身分など捨ててしまって。
流石に山で平和的に暮らしてる平民の正体が魔王とは誰も思わないだろう。
今の俺に必要なのは最難関ダンジョンではなくて山だ!!
そうと決めた俺は早速空間魔法の使い手たる四天王の一人、大悪魔ルシフェルに話をすることにした。
◇ ◇ ◇
「お呼びでございますか? 魔王様」
すぐさま俺の呼びかけに答えてくれたルシフェルは薄暗い地下であるにも関わらず、片膝をついているのが容易に想像できた。
漆黒の髪をし、服装も黒一色。
闇の中に溶け込んでいるので全身は見えていないのだが。
「よく来てくれた、ルシフェル」
「魔王様のご命令とあらば、いついかような時でもすぐに駆けつけさせていただきます」
忠誠の塊のような男である。
悪魔は何よりも契約を重んじると言われている。
災禍の魔王マオラスの配下として、忠実にその任を全うしてくれているわけだ。
俺自身が弱くなったとしてもそれは関係ないのだろう。
「ルシフェルに頼みたいことがある。実は……」
俺が話し始めようとしたのだが、その前にルシフェルはなぜか歓喜に打ちひしがれていた。
「魔王様が私めに直接ご要望を述べてくださるなんて。このルシフェル、いかような手を用いましてもそのご要望、叶えさせていただきます」
まだ頼みごとを言ってもいないのに承諾してもらえることとなった。
それなら、と俺は遠慮なく頼みを言うことにする。
「実はこのダンジョンを売って、どこか山を買って欲しい。そこで俺は隠居することにするよ」
「……かしこまりました。すぐにご用意させていただきます」
ある意味、今の軍を解体するようなものだから反対されるかと思ったが、あっさりルシフェルは承諾してくれる。
そして、ものの数時間で山の購入は完了したようだった。
一体どういう買い方をすればこんなに即決めることができるのかわからないが、ここはあまり踏み込まない方がいいだろう。
俺はルシフェルの転移によって現地に案内されていた。
◇ ◇ ◇
木々が生い茂り、隙間から溢れる日の光が優しく周囲を包み込み、遠くから川のせせらぎが聞こえてくる。
小鳥のさえずり以外には特に物音もなくまさに理想とするスローライフの風景が目の前に広がっていた。
「よくやったルシフェル! これこそ俺の理想とする場所だ!」
「お褒めいただき光栄でございます」
ルシフェルの表情はあまり変わっていないが、喜んでくれているのがわかる。
「さて、あとは俺の拠点を作るだけだな」
スローライフの醍醐味の一つ、拠点作りだな。
仮設のテント風から始まって木造のログハウスに移り、追々広げていく。
時間が無限にあるからこその自由だな。
さすがにこんな長閑な場所に災禍の魔王がいるなどとは思われないだろう。
ふふふっ、全ては俺の作戦通り。
あとは原作が終わるまで隠れ住めばいいだけだな。
思わず笑みをこぼしてしまう。
すると何を思ったのか、ルシフェルが言う。
「かしこまりました。魔王様にふさわしい拠点をすぐに準備させていただきます」
「辞めてくれ。俺はもう魔王という地位は捨てたんだ。呼ぶならせめて名前で呼んでくれ」
「そういうわけにはいきません。私にとっては魔王様は魔王様ですから」
「せめてマオラス様、もしくはマオ様にしてくれ」
俺の魔王名はディズトラムで知られている。
だからこそマオラス側ならばまだ比較的ごまかしが効くのでは、と考えてのことだった。
「かしこまりました。マオ様」
ルシフェルは魔王から一文字だけ抜いたマオ様呼びを選んだようだった。
俺もそうなるだろうと予想しての選択肢だったのだが。
「では、マオ様に相応しい拠点をご用意させていただきます」
ルシフェルが指を鳴らすと山の頂に怪しさを醸し出す、いかにも魔王が住んでいます、という城が空から木々をなぎ倒して落ちてくる。
当然ながら小鳥たちは飛び去り、自然の空気は土埃混じる砂っぽいものへと変わり、それによって日の光も遮られてしまった。
「新しいマオ様城になります。簡易的なもので少々手狭ではありますが」
満足げな表情を浮かべるルシフェルだったが、俺はせっかくの山暮らしを一瞬で壊されて思わず呆然と立ち尽くすのだった――。
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