②第二節 歓迎祭

 四月三日に入学式が終わり、週明けの月曜日。

 初めての講義が終わり、この日は歓迎祭という大学行事があったので、そのステージを見に行こうと思い、大学内の道を歩いていた。

 ふと横を見ると、見慣れた子がこっちに手を振っていた。

 莉香りかだった。横には見慣れない子も居た。

 このときの私は、知らない人に臆病おくびょうな感じになっていた。

 なるべく知らない人とは関わりたくなかった。

 でも、不思議とその子からはそんな感じはしなかった。

 その子の名前は、山本やまもと乃藍のあ。同じ高校で、莉香りかだけでなく、㮈結なゆとも繋がりがあった。

 「この子も何かあるのかな。」と思い、おそおそ乃藍のあに私のことを全て話すことにした。

 乃藍のあは「え……!?」と言い、その後は放心状態になっていた。

 今となっては、急すぎることで、申し訳ないと思う。

 だが、乃藍のあは真剣に聞いてくれた。

 新型コロナウイルスのワクチンでこうなったこと、自殺寸前まで追い詰められたこと、精神状態や体調が悪く、みんなには笑顔で振る舞っていること、全て伝えた。

 「そっか……。辛かったね。㮈結なゆ莉香りか舜吾しゅんごくんも居るし、乃藍のあもいる。いつでも辛かったら言ってね!」と言ってくれた。

 でも、ひとつの不安が生まれた。

 みんなからこれだけの優しさを受け取っても良いのか、と。

 このことを乃藍のあに相談した。

 乃藍のあは、「優しさは受け取っていいんだよ!これまで辛い思いをしてきた分、優しさは受けとらないと!」と言ってくれた。

 じゃあ、いいのかな…。迷惑をかけていないのならば…。

 相談できる人がひとり増えた。

 私の心の中に余裕ができたような気がした。

 後は、乃藍のあ莉香りかと一緒に、大学の歓迎祭のステージを楽しんだ。

 歓迎祭、私はこんな状態で楽しめないと思っていた。

 だが、乃藍のあと出会い、莉香りかと会って、楽しくステージを見ることができた。

 歓迎祭というひとつの大学行事があったから、乃藍のあと出会えたのだろうと思った。

 歓迎祭のステージを見に行こうと思わなければ、乃藍のあとは出会っていなかったと思うから……。


 そして、もうひとり出会った子がいる。

 隅田すみだ暖翔はると、この子も同じ高校であり、舜吾しゅんごを除いたみんなと繋がりがあった。

 乃藍のあと同じく、知らない人と関わりたくないと言う感情は、あまり出てこなかった。

 暖翔はるとにも、私の状態を話すことにした。

 初めは「ふーん。」としか言わなかったが、話を聞いていくうちに「大丈夫か、お前!?」と言うようになった。

 多分、結構驚いたのだろう。

 そりゃそうだ、周りに笑顔で振る舞っていれば。

 これが普通の人の反応だと思う。

 でも、最後は受け入れてくれた。

 「何かあったら、任せとけ!」とも言ってくれた。

 みんな、優しいな。私はこの優しさを受け取っても良いのだろうか、と思った。

 「優しさは受け取っていいんだよ!これまで辛い思いをしてきた分、優しさは受けとらないと!」という乃藍のあの言葉が浮かんだ。

 そうだよね、受け取っていいんだよね。

 優しさを受けるという抵抗は、少しなくなったと思う。


 他の人にも精神面、体調面のことを話せればいいと思っていた。

 けど、頭が…、思考が…、拒絶きょぜつした。

 言える人と言えない人が居るのだと思った。

 「精神面、体調面、どちらも、みんなに言えたらいいのに…。」と思ったが、無理に言う必要はないと思った。

 㮈結なゆ舜吾しゅんご莉香りか乃藍のあ暖翔はると。この五人には相談できたので、伝え続けるようにした。

 みんなから注意されてきた言葉、それは「溜め込んだらダメ!」という言葉。

 その言葉の抑止力よくしりょくになると思ったからである。

 精神面は回復してくる、そう思っていた。

 だが、私の状態は深刻化していった。

 まさか、あんなことになるなんて思いもせずに。

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