意地悪な同僚

伽噺家A

意地悪な同僚

 ある日、落合は職場の同僚の田中のいつものつまらん自慢話を聞いていた。

 昨日の賭け事はいくら勝ったとか、行きつけ店の店員が可愛かったとかの話の中、一つの話に耳を奪われた。

 なんと悪魔を手に入れたらしい。悪魔は寿命と引き換えに、願いを一つだけ叶えてくれるというのだ。しかも「王様になりたい」でも、「有名人と恋人になりたい」でもなんでも叶うらしい。

「田中さんは何を願うんですか。」

「俺は来たるべき時まで取っておこうと思う。まだ、どうしてもという願いはない。」

「じゃあ僕に貸して下さいよ。」

「やだね。逃げられたり売られてもかなわんし、落合君が願って消えたらどうするんだ。ま、俺の願いを叶えるまでは消えないらしいがね。」

 相変わらず意地が悪い。願いがないなら、願いのある人に貸してくれてもいいのに。

 落合は欲しくてたまらなかった。どれだけの寿命を使っても薄くなった頭をなんとかして欲しかったのだ。市販薬や、病院でも匙を投げたこの頭がフサフサになる、これ以上の願いはない。

 どうしても我慢できなくなり、ある夜、落合は田中の自宅へ忍び込んだ。もちろん、田中が飲み歩いている日を狙った。悪魔を見つけ次第、願いを叶えてもらって帰るつもりである。

 冷蔵庫、風呂、布団の中・・・悪魔はどこにもいない。小一時間が立っていた。

 ガチャ。玄関の開く音がした。

「誰かいるのか。警察を呼ぶぞ」

 田中の声がする。パニックになった頭で、とっさにクローゼットに隠れた。

 謝ろうか逃げようかと考えていると、奇妙な生き物が目の前に現れた。

 こいつが悪魔だ。落合は直感でわかった。

「おいお前、何か願いを叶えてやろうか。ただし寿命と引き換えだがな。」

 クククと笑う声を遮って落合は悪魔に言った。

「今すぐ僕の自宅に飛ばしてくれ」小声だが強くはっきり言う。

「三年分の寿命をもらうがよろしいか」と悪魔が言い終わらないうちに、いいから頼むと叫んでいた。

 田中の家の景色がぐにゃっと歪み、気づけば自宅だった。

 ほっと胸をなでおろした。捕まるぐらいなら薄毛のほうがいい。


「誰も幸せにすることなく寿命を延ばすことができた。」

 田中は空っぽの部屋でほくそ笑んだ。

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