五日目「勝利者調整について」③
「それじゃ、芹菜また」
「うん」
学校最寄りの駅まで移動したところで、紫桐さんが電車を降りた。学校に用事があるらしい。そのまま電車は動きだす。リンゴさんは旅館に残るというので、玄関でお別れをした。
ポチの横に座っていた紫桐さんがいなくなったので、その席に私とロッテの荷物を置く。
「ああ、そうじゃ」
窓から閑散とした街並みを見ていたロッテが思いついたようにポチに言う。
「前に話していた、あの本、取りに行ってもいいんじゃ? 研究所まで送ってもらう手間が省けるんじゃ」
「本? ああ、あれね、渡すのはいいけど、明日見送りするときでも持っていくよ」
「いやじゃいやじゃ、今欲しいんじゃ」
「一日の違いでしょ」
「私にとって、二十四時間の価値は相当違うんじゃ」
「ああ、そう、そういうときだけ、わかったよ」
「おにいちゃんちょろいんじゃ!」
「言葉に出さない」
ポチの家にある本がロッテは欲しいようだ。
「あんずも行くよな?」
「えっ?」
急に話を向けられて、戸惑ってしまう。
「でも」
先月、ポチの家に行くと言ったときは拒否されてしまった。もちろん、そのときは私一人で、かつ夜にいきなり行こうとしたからだけだけど。一度拒否されてしまった手前、同じことは言い出しにくいものだ。
「大丈夫、せりながいないから」
「別にそういうわけだけじゃないけど」
「『だけ』ということは、『そういうわけ』も入っているんじゃな」
「それは僕に秘密にしろということ?」
「秘密? せりなはそんな細かいことを聞くのか?」
「聞かないと思うけど、いや、聞く聞かないは関係ないけど」
「はっきりしろ二人とも、あんずは行きたいのか?」
「べ、別に、でも、ロッテが行くならついていってもいいし」
「おにいちゃんは、つれていってもいいのか?」
「拒否する理由はないよ」
「はい、じゃあ両者合意ということで、行く、いいな?」
「うん」
押し切られたというか、流れに飲まされてしまったというか、とにかくロッテと一緒にポチの家に行くことになった。
終着駅に到着して、私達は電車を降りる。途中まで私の家と同じ方向へ進み、コンビニ前で違う方向へと折れる。
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