五日目「勝利者調整について」②

「おっ、戻ってきたか」

 部屋に戻るとロッテが立っていた。

「さあ今日の分をするんじゃ」

 紫桐さんが目をこすりながらロッテを訝しげに見た。

「なにそれ?」

「ラジオ体操をするんじゃ!」

「はあ?」

「ああ、ロッテが泊まった日にリンゴさんがラジオ体操に誘ってから、なんか気に入っちゃったみたいで」

 露骨に眉をひそめた紫桐さんに説明をする。

「そう」

「りんご、曲を頼む」

「うん、じゃあケータイでいいにゃ」

「なんで着メロ持ってるんですか」

 リンゴさんがケータイを操作している。圧縮された安っぽい音がケータイから流れてきた。体操の前の音楽まで流す必要はないはずなのでは。

 私も音につられてロッテに並ぶ。

「どうしたせりな? やらんのか?」

「え、なんで?」

「なんでって、皆やっているんじゃ」

 三人の正面で腕を組んでいた紫桐さんが首をひねる。

「さあさあ芹菜ちゃんも一緒に」

「はあ」

 いつの間にか芹菜ちゃん呼ばわりをするようになっていた。無理矢理肩を掴まれて、紫桐さんが横に並ばされる。

「やるんじゃ」

 浴衣の女の子が四人並んでラジオ体操を踊る状況、かなりシュールだ。横目で律儀に紫桐さんが体操をしているのを確認する。

「さ、軽く運動したし、ご飯を食べに行こうか」

 リンゴさんに促されて部屋を出た。

 朝食はバイキングなので、指定の会場まで向かう。会場は結構混んでいたので、とりあえず食事を取る前に空席を探す。

「あれ、ポチ?」

 ポチが窓際のテーブル席に座っていた。

「どうしたの?」

「朝食を食べている」

 ポチのお皿にはクロワッサン、スクランブルエッグ。サラダ、フルーツ、ヨーグルトと平均的な朝食バイキングのメニューが載っていた。

「朝食をって」

「実は許可をもらって、ロビーにいた」

「じゃあ帰っていないの?」

「そう」

 いつもの眠気のこもった瞳でポチが答える。

「朝食も?」

「うん、事情を説明したらチケットをくれた」

「それで、先生は?」

 ポチの向かいに座ってコーヒーを飲んでいる北条先生に声をかける。相変わらず表情のない人だ。浴衣は着ていない。

「昨日から泊まっているって、さっき会ったよ」

 何も言わない北条先生に代わって、ポチが説明をする。。

「奥に詰めよう」

 六人掛けのテーブル、ポチと北条先生が詰める。

 二人に場所を取ってもらって、私達がそれぞれバイキングの列に並ぶ。私はポチと同じ洋食系で固めているが、ロッテとリンゴさんは和食系を中心に選んでいるようだ。和食だとイクラがあるのが嬉しいらしい。私は魚卵がそれほど好きではない上に、昨日の夕食にも食べたのでわざわざ選ばなかった。紫桐さんはパンの代わりにフレーク、フルーツ、牛乳だけで行ってしまった。

「そういうことか」

 オレンジジュースを取って戻ってくると、平然とした顔でポチの横に紫桐さんが座っていた。私は紫桐さんの向かい側、北条先生の横に座る。

 ロッテもリンゴさんも戻ってきたので朝食を取り始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る