三日目「水族館その他について」⑦
『軽い足取りで隙間を歩く。
この図書館は本がないのに棚ばかりが所狭しとひしめき合っている。何年も十何年も収められる本を待ち続ける本棚は、すっかり埃をかぶってしまっている。掃除をする人もいない、ただ朽ちるまで待つだけだ。誰を寄せ付けるつもりもない。
電灯がチラチラと点滅する奥へ足を向ける。
「こんばんは」
そこが指定席であるかのように、彼女は椅子に腰をかけ、本を読んでいる。唯一、この世界に置かれている、装丁だけが立派な白紙の本。
ここは自分だけの空間だったのに、我が物顔で座る彼女に少し苛立つ。
「何をしているんです?」
「何って、約束したじゃない」
精一杯の皮肉を彼女は笑顔でかわす。
「したつもりはありません」
「あなた、望みはないの?」
「それは実現可能性のあるものの話ですか?」
「どちらでもいいわ」
「そう、ですね、世界を壊してください」
体を内側に曲げて、彼女が笑う。
「あは、ははは。面白いことを言うのね」
「面白い? どこがですか?」
真面目に答えたのに笑われるとは心外にも過ぎる。
「壊れているのはあなただわ、やっぱり素敵ね」
「そうですか、楽しんでいただけて何よりです」
「実現可能性は問うていないのよ、あなたの好きにできるとしたら、の話をしてるの。それなりに世界を壊したいの?」
「実現可能性のない話をしても仕方がないでしょう」
「世界を壊すのは可能性があるの?」
「ゼロではないはずです」』
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