三日目「水族館その他について」③

 桂花がクラゲのコーナーで立ち止まり、話を振る。

「不老不死のクラゲがいるんだってね」

「不老不死?」

「ベニクラゲのことだね」

 ポチが間髪を入れず応える。

「私も聞いたことある」

「ベニクラゲは有性生殖として成熟したあと、そのまま死ぬことなくポリプと呼ばれる幼生期に戻ることが知られている。捕食される可能性があるわけだから、不死ってわけでもないし、成長はするから不老ってわけでもないね、どちらかと言えば、若返るってイメージの方が近いかな」

「そうなんだ、いいなあ」

「ニューロンまで若返ったら、勉強もやり直しだね」

 感嘆する桂花にポチが追い打ちをかける。

「青年、夢がないなあ」

「夢で生物が進化したことはないですよ」

 それこそ夢がない話だ。

「クラゲはいいのう」

 ロッテが水槽にへばりついて言う。彼女が私達の言葉をどこまで理解しているのかはわからない。

 不老不死、は通じているのだろうか。

 ロッテのことは桂花は知らないし、ロッテも普通に接してほしいと言っているので、殊更私が何か余計に言うつもりもない。

 もしも今の話のクラゲのように若返ってやり直すことができるのなら、彼女はそれを選択するだろうか。

「くらげってふわふわしていて自由そう」

 私は目の前で伸び伸びとしている白いものを眺めていた。水槽に流れる水の流れに身を任せるように、クラゲはただ揺れていた。

「私もそう思うなあ」

 桂花も同意してくれた。

「だよねー」

「自由かどうかは、これがどう思っているかどうかだし、案外大海原に出たがっているかもしれないよ」

「あ、ポチ今のはちょっと夢があった」

「そうかな?」

「てっきり、『それは自由の定義による』とか言い出すのかと思った」

「アンちゃん、似てる」

 ポチの声真似をした私に桂花がくっつきながら笑った。

「もちろん、それは前提だ」

 ポチはネタにされたことは意に介さず、自己解決していた。

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