二日目「分割選択について」
二日目「分割選択について」①
「うう、ん……」
「あ、起きた起きた」
「起きたー」
「うにょら」
うん、顔の近くで声がする。恐る恐る目を開けた。
「なに、しているんですか」
私の顔を覗き込んでいる二人と一匹を寝ぼけ眼で睨む。赤と金の髪が顔にさらさらと触れて痒い。
「いやあ、杏ちゃんがなんか苦しそうにしていたから心配になってにゃあ」
「本当、ですか?」
「うん? うん?」
リンゴさんがロッテに目を向ける。
「はい」
「みにゃあ」
コタローと一緒にロッテが答える。
「わかり、ました。起きます」
「でもどうしたの? 苦しそうな声をしてて、悪い夢でも見た?」
「ええ、すみません。大丈夫です」
夢の記憶が鮮明に残っている。いつもの私の癖だ。
しかし、この夢はいつものと異なっていた。
私が私の夢をコントロールすることができなかった。
夢に出てきた彼女は誰だろう。
何と言っていたか。
そうだ、数学の問題だ。
まあ、深く考えなくてもいいだろう。
「そう、じゃあ行こうか」
リンゴさんが元気良く背伸びをする。
「行く? 行くって。というかまだ六時前じゃないですか。昨日あれだけ夜更かししたのに」
枕元にあったケータイで時間を確認する。まだせっかくの夏休みに起きるような時間ではない。
「どこって、そりゃラジオ体操に決まっているでしょ」
「ラジオ体操……。私達高校生ですよ」
確か、回覧板に六時半からラジオ体操が近くの公園でやっていると書いてあった。しかし、対象は小中学生だったと思う。
「いいのいいの、ロッテちゃんもいるんだし、日本文化を味わってもらわなきゃ」
「日本文化? ラジオ体操がですか?」
「違うの? ロッテちゃん知ってる?」
「知らないんじゃー」
「うーん、それじゃ、行こうか?
「わかったんじゃ」
三人で背伸びをして、着替えをする。
二階の自室から、階下に降りようとしたところでロッテが階段の上でたじろいでいた。
「どうしたロッテ?」
右足を下ろそうとしながら、ためらっているようだった。
「階段、苦手なんじゃ」
途中まで降りかけた私を見下ろしている。夕べ二階に上がるときは何も言わなかったはずだ。
「じゃあ一緒に降りよっか」
この家の階段は急ではない。もちろん、小さな子なら階段の上り下りが怖い子というのもいるだろう。でもロッテは十歳だ。日本でいえば小学生の高学年、階段が怖いのは珍しいのではないだろうか。
「うん」
ロッテの手をつなぎ、ゆっくりと一段一段降りる。ロッテは足元を確かめるように見ていた。
「今日は一階で寝る?」
客間はあるし、お父さんもいない。
「そうするんじゃ」
「わかった」
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