一日目「来訪する天使について」⑤
リビング。
何か聞こうとするたびに、まあまあまあまあと言って取り合わないリンゴさんを交えて、時間も時間なので三人でハンバーグを作って夕食を食べた。意外とリンゴさんはそつなく料理をこなし、ロッテは料理に関しては年相応の手際だった。
父と二人暮らしなので、三人以上がこの家にいることは滅多にない。それこそ先月私のお兄ちゃんとその婚約者が来たときくらいだろう。
片付けも早々に済ませて、リビングでお茶を飲んでいる。リンゴさんが持ってきてくれたものだ。ロッテは熱いものが嫌だといい、一人だけ冷たい麦茶を飲んでいる。
コタローは床で皿に満たされた水を飲んでいる。
「それで」
のほほんとしているリンゴさんに私が切り出す。ロッテはリンゴさんの横に座り、私達を交互に見ている。
「どうしたんですか?」
「だから、家出してきたんだよう」
「あのですね、リンゴさん、家出って」
「大丈夫、二、三日出てくるって家には言ってあるから」
手を振って、心配しないでという表現をする。
「それは家出とは言わないんじゃ」
ロッテによる冷静な突っ込み。
家族に告げて出てくる家出。いや、言うか。
「そうかにゃ? じゃあ、旅行? 小旅行?」
「リンゴさん、どうして私の家がわかったんですか」
「あんず、わたしが教えた」
ロッテが手元にあるケータイを見せた。
「あ、それ、新しいヤツ?」
「よく知らん」
「あれ、でも、それってまだ出ていないんじゃかった?」
彼女が持っているのは人気のスマートフォンの最新型だ。ただ彼女のスマートフォンは白い光沢のホワイトモデルだった。記憶が正しければホワイトモデルは諸般の事情で販売されておらず、ブラックモデルしかなかったはずだ。
「もらったんじゃ。いつもはモバイルフォンなんて持っておらんのじゃ。これはマシンのアドレスが使えるから便利じゃ」
「うへへへ、メル友、金髪ロリ幼女とメル友」
うすら気持ち悪い顔でピンク色のケータイを眺めているリンゴさん。
「キモい」
「妄想するだけなら犯罪じゃないよう」
「いや、その、顔がもう」
緩んでいるというかそういうのじゃなくて、やましいことしか考えていない顔なんですけど。
「ともかくさ、ともかくさ、泊めてよう。若い女性を寒空の下に放っておくつもりなの杏ちゃんは」
「八月だから寒くないですけど」
「そんな青年みたいなこと言わないでよう」
チラチラと視線を斜めに送ってくる。
「わかりましたから、今日は泊めますから」
「やったー」
ピピピとお風呂の自動給湯器の合図音がした。
「お風呂、準備できたらロッテから入って。ここまで疲れたでしょ? 一人で入れる?」
「大丈夫なんじゃー」
「お姉さんと一緒に入ろうよう」
「なんか嫌な予感がするからお断りするんじゃ……」
うねうねしながらリンゴさんが覆い被さろうとするのと、ロッテが何とか小柄な体を活かして逃げ切る。
「じゃあさ、パジャマパーティしようよパジャマパーティ」
「なんか悪い響きしかしないですね」
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