プロローグ「愚行権について」
『夢を見ている。
夢の中で私は目覚めた。
起き上がり、現実と変わらない自分の部屋で立ち尽くす。私は寝る前に着たパジャマのままだ。二人もすやすやと眠っている。夢の中で、だ。
いつの頃からだろう、夢を夢と認識するようになったのは。
特に今は、現実と何も違いがあるわけではない。ただ違和感だけがあり、それが私にこれは夢なのだと伝えてくる。
二人が眠っているのをもう一度確認して、私は夢の世界のドアを開けた。
現実であればその先は二階の廊下のはずだった。私の直感通り、これは夢の中だったのでいつもの廊下ではなく、真っ白い空間だった。くぐったばかりのドアだけがぽつんと背後にあった。壁も天井もない場所をとてとてと真っ直ぐ歩く。
「初めまして」
涼やかな女性の声が聞こえた。
「目の前にいます」
見通しが良いと思っていたけど、前に靄のようなものがかかって見えなくなっているのに気がついた。どうやら声はそこからするらしい。距離はほとんどないようだった。
「あなたは、誰?」
「秘密です」
私の問いかけに声はそう答えた。年齢は私よりも上だろうか、大人の声だ。
私が自覚している私の夢に、私の知らない人がいる。それは不思議な感覚だった。
「いいえ、知らないというわけではありません」
不気味だ。
知らない人間が、私の、私だけの世界に侵入している。
これはもう逃げた方が良い。
夢の世界で私が使える唯一の能力である、夢を強制終了させる、を実行しようとした。頭の中にブレーカーを創り出し、それを一つ一つ下ろしていく。そうすれば夢から逃げることができる。
そのはず、だった。
ブレーカーが、できない。
なぜ。
「サーキット能力は閉じさせていただきました」
「えっ」
「ここはあなたの夢の世界でありますが、私の夢でもあります。ここは共通空間です。この世界については私にアドバンテージがあるようです」
「私に、なに」
内部に異物が混ざっているような気持ち悪さで両手を胸に置いて身構えてしまう。
「そうですね。試験をしましょう」
「し、けん?」
「ええ、あなたが真に資質を満たしているかを、テストします」
「そんな、どうして」
ここは、私だけのもののはずだ。
「直にわかります」
靄が晴れていく。
少しずつ彼女の姿が見えてきた。
白い立方体を椅子にして腰をかけ、膝を組んでいる。ストレートに伸ばした金髪は、地面までついてしまっているみたいだ。髪に隠れてその表情は見えない。赤いマニキュアで彩られた爪をこちらへ向ける。
「気楽にいきましょう。最初はそれほど難しい問題ではありません。ああ、そう、解答は明日伺いますが、退屈になってしまうのでネットで検索するのは遠慮してください。実際にあなたに出会う人々に質問をするのはよしとしましょう。それもあなたの力の一つです」
明日、と彼女は言う。
それから彼女は私にクイズを出した。
「では、また明日のここで」
彼女によって、私の夢は閉じられた。』
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