第14話

 明日から学校だし、今日は早めに寝るかぁと布団に入ってゲームをしていたとき、それは起きた。

「違う違う、そうじゃない」

「いつお父さんがそう言った?」

「違うんですね。はい、すみません」

「何がすみません、だ?あ?」

「なんもわかっねぇんだろ、何に対しての『すみません』か言ってみろや」

 だんだんと不機嫌になり、語気が強くなる。

「答えられねぇのに謝んじゃねぇよ」

「ごめんなさい…」

 コップをドンッと置く音。不機嫌になってタバコを乱暴に吸う音。換気扇の音。必要以上の音を出して酒缶を開ける音。

「あの、子供たちが明日から学校だからもう少し音抑えて…」

「あ?俺に指図するつもりか?」

「指図じゃなくてお願いです」

「大して変わんねぇよ」

 ドンドンと足音からも伝わってくる不機嫌全開具合。

 あぁ、これは今夜も長いな…と半分諦め、恐怖に怯えるしかなかった。

 動けるうちに、さらに悪化する前に千音ちゃんの部屋に様子を見に行く。電気が消えているから既に夢の中であってほしい。これから起きることは聞くべきじゃない。

 願い虚しk…結果を言うと起きていた。暗い中でパソコンを操作して。

「千音ちゃん」

 音を立てぬよう入り、気配で察したのか驚かれることはなかった。

「お姉ちゃん」

 小さな声で呼び合って「大丈夫?」の声が重なった。

「お姉ちゃんがいるなら大丈夫」

「そっか。なら今日はこっちで寝ようかな。ひなの部屋は台所の上だから」

 台所の上。暴言や食器が犠牲になる音など、聞いてはいけないものがよく聞こえる。換気扇の音や食器をガチャガシャする音で恐怖を覚えるようなことになってほしくない。僕はもう手遅れだから仕方がないにしても、もし千音ちゃんがまだなら極力遅らせるよう努める。

「聞くな、千音」

「ん…」

 妹の耳をそっと塞いで布団に潜る。

 聞こえてくる怒鳴り声。もはや大声すぎて何を言っているかわからない。

 次第に身体の右側が足のつま先から頭のてっぺんまで強い痺れに襲われた。それに比例するように「はぁっ、はっ…」と呼吸が荒くなっていく。

「お姉ちゃん…?」と不安と心配が混ざったような声で千音が問う。僕は「大丈夫」としか返せなかった。



ドコッバキッガシャンッ!とヤベェ音を聞いた翌朝、母から被害状況を聞き出した。

 グラス、皿がいくつか割れた。

 嵌め込み式のテーブルの分解。

 椅子二つ破壊(修復可能)。

 掃除機、録画機に反応なし。

 テレビ、液晶割れ。

 暖房ヒーター、下部に損傷。

「…は?」

 過去一低い声を出してしまった気がする。

 それはさておきクソ親父…どこまでやりやがった…。録画機反応なしってヲタク死ぬが⁈製作陣が明らかにガチった原作回、二度と観れんの?配信サイトだとちょこちょこっと削られるんだよ、無理すぎるわ!

「ママは怪我してない?」

 千音ちゃんが母の心配をする。己が恥ずかしくn…らないわ。僕からしたら母親も害悪であることは変わらない。うん。

 どんな気持ちで登校すればいいのやら…。

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きみが笑顔なら何も望まない 夜桜夕凪 @Yamamoto_yozakura

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