15.M3-7

 確かな手応えと共に自由落下を終え、地面に到達する。


 同時にドンという音を発し、何かが地面に落ちる。


 聴覚の回復と、カマキリの頭部を確認する。


「やった! やりました!!」


「おぅ……! よくやったな。平吉!」


 木田が称賛してくれる。


「はい! 木田さんのおか……え……?」


 頭部を失ったカマキリの鎌の先に木田が仰向けで横たわっていた。


「き、木田さん!!」


 必死で駆け寄る。


「あー、いてぇわ……」


 鎌は木田の腹部を的確に捉えており、そこからは血液が滲み出ている。


「なんで……?」


 ふと、先のカマキリとの最後の局面を思い出す。


「……っ!!」


 幸運なんかじゃなかった。


 あの時、カマキリが俺の落下線上に頭部を移動させてくれたのは、木田が決死の覚悟で、誘導してくれたから……


「白川さん…… 君の……見立てでいい。私は……どんな状態だ?」


 木田が息も絶え絶えに白川さんに尋ねる。


「残念ですが……助かりそうもありません……」


「そうか……」


「ですが、強化された肉体の生命力なら、その状態で……最低でも五分は生存できると思います……」


「……おー、それはよかった……余命五分ってか」


 悪い冗談だ。


「なぁ、平吉……やっぱりよう、人を見捨てると自分に跳ね返って来るんだな……」


「えっ……?」


「お前は本当に上長の命令を聞かない部下だった……」


「……」


「絶対に戻るなって言ったのに留まりやがって……」


「っ……!?」


 前回のミッションのウツボ恐竜との対峙……

 あの時、木田はチームのメンバーに逃げることを指示した。全員が振り返ることなく逃げることを。

 あの状況において、瞬時になされたその指示は、はっきり言って、これ以上ない程、完璧な指示であったと思う。


 だが……木田にとってはそうでなかったようだ。


「あの時よ……早海さんを助けてくれてありがとうな…… お前のおかげで俺は少し救われた……」


「……そんなこと……」


「思ったより早く、高峰さんに謝罪ができそうだな……」


「……」


「二つ頼みがある。命令じゃない。頼みだ」


「な、なんでしょう……」


「一つは……家族によろしく伝えてくれ……妻と娘達に、できれば……愛していると伝えてくれ」


「しょ、承知しました! 必ず……!!」


「ありがとう……」


 俺には守るべき家族なんていない…… どうして俺じゃなくてこの人が……


「大丈夫さ…… お前にもすぐにできる……」


「っ!?」


 この人は心でも読めるのだろうか……


「あ、相手がいません……」


「そうでもないさ…… 例えば…………いや、何でもない」


「……?」


「んで、二つ目……は、わかるな……?」


「……はい……」


「すまんな…… それとな……一つ伝えておきたいことがある……」


「な、なんでしょう……」


「月村次長のスキルについてだ……」

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