14.M3-6

 シールドを展開しながら正面に立つ。防御手段を持たない木田になるべくヘイトが向かないようにするためだ。


 基本の立ち回りは通常のカマキリと変わらない。


 片方の鎌をシールドで防ぎ、もう片方をブレイドで防ぐ。


 一撃一撃が通常のカマキリと比べ、段違いに重たい。そして……


「危ない!」


 カマキリは俺のヘイト寄せを見透かしているかのように回転斬りを織り交ぜ、木田への攻撃も企てる。


「大丈夫だ!」


 だが、木田もそれをなんとか回避してくれている。


 カマキリの激しい攻撃をここまで回避できることに正直、言って驚いた。


 しかし、ジリ貧だ。


 少ない隙を突いて、ブレイドで攻撃してはいるものの、尋常じゃなく硬い皮膚に阻まれ、斬っているというよりは叩いているような感覚だ。


 ダメージが通っているとは考えにくい。


 しかも、巨大な鎌が派手に建造物を破壊し、落下物にも注意しなければならない。


 やはり狙うなら頭部だ。


 だが、大き過ぎるが故に、いかに強化されたジャンプ力と言えど、長い首のような部分の先端にある頭部までブレイドが届きそうにない。


「平吉……!」


 木田が俺の名を呼ぶ。


 その間にもカマキリの攻撃が止むことはない。


 大きな声でないと届かない。


「何ですか!?」


「秘策! 踏み台作戦だ!」


「な、何すかそれ!?」


「隙を見て、俺が踏み台になる! お前が頭部を狙え!」


 そのまんまじゃないですか!


「せめて……命名は、発射台作戦にしてください……!」


「……それもそうだな」


 しかし、どうやって隙を作ればいいんだ!?


「目眩ましを出せます! ただし、チャンスは一回だけですよ!」


 白川さんが叫ぶ。


 大きい声出せるんだ……と少し驚くと同時に、能動的に協力してくれることを認識する。


「有難う……! 頼む! 白川さん……!」


 木田の声が聞こえた……


 その瞬間から不思議と音が全く聞こえなくなる。


 白川さんの口元が動いている。


 多分、合図を出してくれたのだろう。


 例の灰色の女性のホログラムがカマキリの目の前に出現し、カマキリは驚いたようにそちらに鎌を振り回す。


 だが、ホログラムに実体はなく、鎌は空を切るばかりだ。


 その隙をついてカマキリの側面で、木田が多少もたつきながらも、立膝を突き、両の手を組んで、足の置き場を作る。


 俺は全力で走る。


 発射台に足を乗せる。


 推進力を得た俺は高く飛翔し、カマキリの後頭部を狙う。


「っ……!!」


 だが、わずかに軸がずれている。


 せっかく高さは足りているのに、このままではブレイドが頭部に届かない。


 だが、ここまで不運続きだった俺に今日、最大の幸運が訪れる。


 カマキリが自分から俺の落下直線上に頭部を移動させてくれたのである。


「い、いらっしゃいませぇえ!!」


 キャラに似合わない叫び声を上げながら、全力でブレイドを振り下ろす。


 確かな手応えと共に自由落下を終え、地面に到達する。


 同時にドンという音を発し、何かが地面に落ちる。


 聴覚の回復と、カマキリの頭部を確認する。


「やった! やりました!!」


「おぅ……! よくやったな。平吉!」


 木田が称賛してくれる。


「はい! 木田さんのおか……え……?」


 頭部を失ったカマキリの鎌の先に木田が仰向けで横たわっていた。





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