02.M1-1

「えーと……星野さん……?」


「……ちょ、ちょっと演出リアルすぎっしょ……」


 前方のグループから、ぽつりぽつりと戸惑い交じりの声が上がる。だが、その後、誰も言葉が続かない。


 沈黙が流れ、このまま時が止まってしまうのではないかと錯覚してしまう程であった。


 だが、その錯覚はすぐに終わる。次の瞬間には、カエルの舌が次から次に飛び交い、その舌の数と同じ数のプレイヤーが捕えられ捕食されていく。


「うわぁああああ!!」

「何だよ! このカエル! いくらバーチャルだからって、きも過ぎるんだよ!」

「俺達は虫か!? 冗談じゃねえよ!」

「きゃぁああああ! やめて! やめてよぉ……!」


 舌に捕えられカエルの口に運ばれるまでの飛翔、カエルの口内での抵抗、それがすぐ先の自分に降りかかる恐怖。

 周囲は一瞬にして、阿鼻叫喚に陥っていた。


「待て! みんな! 冷静になれ、ゲームだよ!」


 日比谷部長の声が聞こえてくる。


 だが、状況には些細な変化も起こらない。


 俺達、中央付近にいる人間からすると、壁となっていた前方の陣形は、瞬く間にまばらになり、隙間が生じ始める。


 その隙間を縫うように、陸上選手のような美しいフォームの走行で距離を詰めてきたカエルの一体から肉厚な舌が放出される。


「あ……え……?」


 状況を呑み込めていないような真顔で驚きの声を上げたのは、白川さんだった。白川さんのほっそりとした腰回りを柔軟な桃色の筋肉の塊が包み込む。


「グギャァアアアア」


 と、クレイジーな悲鳴を上げる。白川さんが出すはずのない品のない叫び声だ。

 もちろんそれは白川さんの声ではなく、俺のブレイドにより舌を斬り落とされたカエルマンの絶叫だ。


「あ、ありがとうございます……」


 白川さんが俺にお礼を言ってくれる。


「いえいえ、とんでもない」


 白川さんは、泣き顔というよりは未だ状況を呑み込めていないのか真顔に近い表情だ。


 俺は、舌の発信源であるカエルマンに向かって、そのままダッシュで接近し、ブレイドで一刀両断する。


 カエルマンはカエル部分と人間部分に分かれても少しの間、じたばたとしていたが、間もなく動かなくなった。


 それとほぼ同時に、空間に表示されていた0/100という分数が1/100に変わる。


「平吉、来るぞ!」


 友沢の声が聞こえる。


「おっと……」


 別の方向から来た舌をシールドで防ぐ。


 舌は弾かれ、目的の重みを得ることができず、物足りなそうに主であるカエルマンの元へ戻っていく。


 舌の速度は、趣味のバグ発見で、ゲーム慣れしている者からすれば、不意を突かれなければ十分に間に合う速度であった。


「なんとかなる……! チュートリアルにしては少々、過激ですけどね」


「はは、一匹倒したくらいで調子乗んな!」


 友沢に釘を刺される。ひとまず一匹倒したとはいえ、先程までのパニックでプレイヤー数と思われる数値は175にまで減っていた。


「みなさん、避けてください」


 突如、宇佐さんが無表情で回避を促す発言を呟く。


「えっ?」


「ぶっぱしまーす……!」


 急に凛とした表情になったかと思えば、物騒なことを宣言する。というか、宇佐さんの周りにはすでに、ふよふよとした光球が漂い始めている。


「ううう宇佐さん! 気がはや……わわわわ、脇に逃げろぉお!!」


 激しい彩度の高い光と電子音のような独特な音が連続的に発生する。


 味方はギリギリ攻撃範囲から逃れられたようだ。


「どんどん行きますよー」


 宇佐さんの気の抜けた声と共にカエルマンの断末魔の輪唱が響き渡る。


「燃料切れです。少し休憩します」


 光が収まる。


 それと同時に、カエルマンから放出された光が宇佐さんに向かって集まっていく。


 ゲームには、よくある獲得演出だろう。何を獲得したのかは現時点では不明だが、経験値かアイテムなどだろうか。俺が最初にカエルマンを倒した時には発生しなかったので、運要素もあるのだろうか。


 空間に表示された分数を確認すると11/100になっている。


 宇佐さんは、今のレーザーだけで、一気に十体を狩ったようだ。


 討伐にまでは至っていないが、被弾して明らかに損傷しているカエルマンも何体かいる。


 せっかくなのでブレイドで追撃させてもらう。


 抵抗不能のカエルマン一体一体に俺は作業的にブレイドを入れていく。


 これで合計7体のカエルマンを倒した。


 運が悪いのか、またしても獲得演出は起こらなかった。ついバグを疑ってしまうが、周辺のカエルマンはまばらになった。


 宇佐さんのおかげか、部署の皆も少し冷静になり、それぞれがカエルマンと交戦を始めた。


 しかし、カエルマンは減ったら増えますとでもいうように進行方向の向こう側から美しいスプリントフォームで走ってきて、断続的に湧いてくる。


 こちらもそれに対抗しているため、敵勢力の増減はプラスマイナスゼロといった具合だ。


「宇佐さんって、もしかしてゲーマーですか?」


 少し余力が出てきたので、ここ一時間でかなり印象が変わった……というか急激に親近感が沸いてきた宇佐さんに話しかけてみる。


「え? えぇ、実はかなりゲーマーです。というか、プライベートはゲームしかしていないレベルです」


「あはは、そうなんですね」


 ロケット退社はゲームのためだったということか。


「お昼、寝てるのは、ゲームで夜更かししてるからだったりするんですか?」


 俺は、宇佐さんは昼休みは始まった瞬間から終わる直前まで机と一体化するように眠っている件について伺ってみる。


「……その通りです」


 宇佐さんは少しだけ恥ずかしそうにしているようにも見える。


「えーっと、誰かと一緒にプレイしてるんですか? ……あ、ごめん。無理には答えなくてもいいんだけど……」


 俺は思わず、少し踏み込んだことを聞いてしまい、後から無理矢理、予防線をねじ込む。


「……基本、ソロプレイですね。もちろんオンラインでは共闘しますが」


「え? そうなんですか?」


 幸い、宇佐さんは普通に答えてくれたが、意外な回答に無意識に右手の薬指に目が行ってしまう。宇佐さんは右手薬指に指輪をしているのだ。


「……これのことですか?」


 宇佐さんが自身の右手のリングをちらっと見る。


「あ、うん……まぁ、そうですね」


「これはその……あれです…… 護身用というか……」


 宇佐さんは、なぜか少々、口ごもっている。


「あ、もしかして男避け?」


「……それです……」


「あ、そうか。宇佐さん、美人ですしね……って、ごめん……! つい変なことを……」


「……そういうの止めてください」


「申し訳ない……」


 宇佐さんは表情はむすっとしているが、耳だけ赤くなっている。不快な思いをしていなければいいのだが……


「ゲームをする時間を確保するためには、生きるために最低限必要なこと以外はしたくないんです」


「なるほどです……」


 宇佐さんが、ここまで徹底しているとは想像していなかったのだが、よっぽどゲームが好きなんだなと感心する。その気持ちは痛い程わかる。現実世界なんてろくなことがないからな。


「そういう平吉さんも、もしかしてゲーマーですか」


「え? あぁ……えぇ、ほどほどですが……」


 ゲームをやる目的が純粋にゲームそのものを楽しむことじゃないから、少々、申し訳ないが……。


「……そうですか? かなり立ち回りが手慣れているように思えますが……」


「そうですかね……」


「とりあえずスキルのインターバル? ……のせいで、しばらく私、ポンコツっぽいので……守ってください」


「了解です」


 シールドのおかげで壁の役目は果たせそうだ。回避以外の防衛手段があるのは有り難い。運の要素をかなり排除できそうだ。


「ついでに私もお願いします……」


 先程から俺の後ろ、宇佐さんの近くに陣取る白川さんが便乗する。


「が、頑張ります!」


 女性二人に頼られるなんて、ここに来るまでは考えられなかったなと、少々、複雑な心境になる。


「おりゃっ! くたばれ!」


 友沢がジャンプ斬りで、カエルマンの頭部を破壊しているのが目に入ってくる。


「調子よさそうだな、友沢」


「あぁ! 最初は正直、ビビったが、なかなか爽快じゃねえの!」


 友沢は、こちらを見ずにニヤリ顔で答える。


「はは……確かに。そういえば、友沢はゲームとかやるのか?」


「平吉ほどじゃねえが、カリュード2をソロで全クリくらいは学生の頃にやってたよ」


「おー、あのゲームか! 俺もやってたぞ!」


 ちょうど暇な学生時代で、まだゲームそのものを楽しんでいた頃、TA(タイムアタック)にハマっていたものだ。


「平吉、頼りにしてるぞ!」


「……おぅ」


 友沢はわりと調子のいい奴ではあるが、悪い気持ちではなかった。


 あの灰色の部屋で目を覚ましてからどれくらい経っただろうか……


 せいぜい数時間だろう。たった数時間でこんなにも目に映る世界の景色が変わるものであろうか。


 ふと、ここは一体どこなのだろうかという思考が再燃する。


 ファシリテイターは「ゲーム感覚で世界を救え」なんて言っていたっけな……


 その世界ってどこなのだろうか。俺達が元いた世界とは別の世界だったりするのだろうか。


 いずれにしても、元いた世界には、こんな出来のいいVRゲームはなかった。


 思えば、三十五にもなると、俺のように女っ気もなく、野心もない奴は、人生の起伏がほとんど無くなっていた。


 せいぜい昇進試験くらいのものか。心の奥底で、自分への他者からの評価に対する不満を抱きつつも、それを打破しようとするアクションは取らずに、現状を享受してしまっている。


 退屈というよりは惰性……


 そんな変化のない日常から、無理矢理に引きずり出されたのかと思うと、そんなに悪いことでもなかったのかもしれない……などと、妙に前向きな考えが巡る。


 カエルマンの断末魔、そして運悪く捕食されてしまうプレイヤーの絶叫でフィールドが静寂することはなかった。


 しかし、カエルマンの行動パターンは多くなかった。


 一つ目は、舌による捕食行動。

 予備動作として、一瞬、舌の先端を口から出す習性があるようだ。

 これに気づかなくても舌の動きは直線的で水平方向に動けば比較的、簡単に回避できる。

 更に、シールドがあれば安定して防ぐことができる。


 二つ目は、接近してからの巨大な口による直接の捕食行動。

 こちらのブレイドの方が間合いが広いため、相手の射程に入る前に先制攻撃で防げる。

 こちらもシールドで、正面から受けることで防御可能。


 警戒すべきは囲まれること。

 そうならないためにカエルマンを一体ずつ見るのではなく、集団として見る。

 そうして、密集地帯を事前に避けること。この点さえ注意していれば、事故ることはないだろう。


 この立ち回りを意識しながら、カエルマンを焦らずに一体ずつブレイドで処理していく。


 幸い、耐久力は脆く、一回か二回、斬りつけることで絶命する。


 ブレイドは切れ味鋭く、非常に爽快だ。


 カエルマンを倒すたびに討伐数と思われる数値がカウントアップしていく。成果が単純な数値として現れる。


 ゲームの世界では、コミュニケーション能力やリーダーシップなどというよくわからない曖昧な評価を受ける理不尽はない。


 もっともっと数を積み重ねたい。そんな欲求が自身を支配していく。


「何か平吉……いつになくいい顔してんな」


 友沢から指摘を受ける。


「え……!?」


「ニヤニヤじゃねえか…… そんなに楽しいか?」


「あぁ……楽しい……かもな」


「はは、狂人かお前は……」


 友沢が呆れるように言う。


「だが、確かにこの状況は楽しんだもん勝ちかもな……!」


 ◇


 最初のカエルマン討伐から三十分くらいであろうか。討伐数と思われる数値も気が付けば、99/100まで来ていた。


「あと一体だな……!」


 友沢が興奮と、やや安堵したような表情で言う。


 タイミングよく、ゲロゲロと風体に似合わない可愛らしい鳴き声をあげながら、カエルマンが接近して来たので、左下から掬い上げるように右上方向にブレイドで合わせる。


 斜め気味に上下で両断されたカエルマンは僅かに、もがいた後、絶命した。


「やったな! 平吉!」


「あぁ……!」


 クリア条件である100/100を達成する。


「って、おい…… それ……なんだ……?」


 達成感に酔いしれるのも束の間、友沢が明らかに動揺した声を発する。


「え……?」


 友沢の目線の先には、俺が今しがた倒したカエルマンの死骸があった。


 だが、その断面、内部からが、はみ出ている。


 体を小さく畳む様にして収納されていたそれが遮るものを失くした腹からぬるりと出てきて、仰向けに投げ出される。


 ぐちょぐちょに溶解されつつも残る女性物の衣服、そして、それが誰なのか辛うじて判別できてしまうくらいに残された顔面を直視してしまう。


「ほ……星野……さん……?」


 友沢がその女性の名前を口にする。しかし、あらぬ方向を向く眼球が動くことはない。


「…………」


 その一瞬、バーチャルであることを完全に忘れる程の心臓が握り潰されるような強い不快感を覚える。


「あ……ひらよ……」


 友沢が今度は虚を突かれたように呟く。


「え……?」


 不快感に支配されたその一刻、注意力が完全に失われていた。


 その時、俺のすぐ後ろにカエルマンがいることに全く気づくことができなかった。


「……やば……い」


 感覚でわかる。ブレイドのモーションもシールドのモーションも間に合わないタイミングだ。


 無理だ……


 今朝方、トラックに轢かれそうになった時と同じような強力な臨死感覚に襲われる。


「…………」


 だが、幸いにして、その臨死感覚は杞憂きゆうに終わる。


 俺を食おうとしたカエルマンは動きを止め、その腹からブレイドが生えるように突き刺さっている。


「大丈夫ですか?」


 カエルマンの背後からひょこっと顔を出し、そう声を掛けてくれたのは、白川さんであった。


「あ、有難う……」


「いえ、とんでもないです」


 白川さんは秀麗な顔に付着した数滴の返り血を腕で拭いながら淡々と応える。


「平吉さん、危なかったですね……」


 少し離れた場所にいた宇佐さんも来てくれた。


「討伐クリア条件を達成しても攻撃は止まないみたいですね」


 確かにそのようだ。


「とりあえずさっさと帰還しましょうか」


「そうですね……戻りましょう」


 俺は宇佐さんの提案に乗る。


「うっ、平吉さん、何ですか!?」


 宇佐さんが怪訝そうな顔で俺に抗議する。


「あ……ごめん……」


 すぐにその場を離れるように無意識に宇佐さんと白川さんの二人を反対方向に押し退けていた。


 とにかく二人にを見せたくなかった。


 帰還までの間にも、後方から決して少なくない数のプレイヤーの断末魔が聞こえてきた。


 撤退時の背後を狙われたのだろう。俺達のグループは幸い、友沢のスキル<視覚強化>のおかげで後方に警戒しつつ手早く戻ることができた。


 ◇


 帰還すると、最初の部屋とは違う部屋に誘導されていた。


 通路のどこかで分岐していたのだろう。実際のところ、最初に通った通路のことなど大して覚えていなかったので、部屋に入るまでは気づかなかった。


 俺達のグループ四人が部屋に戻ったのは、開始からだいたい1時間45分だった。


 それからタイムアップの3時間まで待機させられた。


 待機中は重い気持ちで過ごすこととなった。


 途中まで楽しいとさえ思えていた感覚を終盤の星野さんの遺体を目撃した件で全て塗り替えられてしまったからだ。


 制限時間に到達すると、耳元で施錠を解除するような音が聞こえた。


 コントローラから手を離し、ヘッドギアに手を掛ける。多少、不安もあったが、ヘッドギアは普通に取り外すことができた。


「お疲れ様です」


 最初の灰色の空間に戻ると、最初に耳に入ってきたのは、ファシリテイターのねぎらいの言葉であった。


「どうでしたか? キメラは? 少々、刺激的だったでしょうか?」


 少々どころではない。周りを見渡して見ても、多くは疲弊している様子であった。


「それでは、早速、戦績発表に移りたいと思います。まずは戦績優秀者の発表です。戦績は主に討伐数等により独自に貢献度を算出し、順位化されます」


 部屋の中央にパネルが出現し、ランキング形式で順位と対象者が表示される。上から確認する。


「……!?」


 あまり想定していなかった結果が目に入る。


「お前、一位やん!」


 俺と同じく終盤の出来事以降、テンション低めだった友沢であったが、早速、反応してくれる。


「平吉さん、おめでとうございます。悔しいです」


 宇佐さんも祝福してくれる。


 二位から五位までの順位は、二位:宇佐。三位:水谷。四位:正保(まさやす)。五位:林となっていた。


 確かに今思えば、俺と宇佐さんだけで四十体くらいは狩っていたような気もする。


 この中で直接、面識があるのは課長の水谷であった。

 水谷はゲーマーでもないのに、三位に位置している。

 水谷はできる男御用達の短髪に、女性に人気の切れ長の目で、端正な顔立ちをしている。

 同期であるが、平社員の俺とは異なり、すでに管理職の課長である。三十四、五で課長になるのはこの会社では最早らしく、日比谷部長にも大変気に入られており、いわゆる出世ルートに乗っているというわけだ。

 つまるところ優秀な奴は何をしても優秀ということか。


 四位、五位の正保さんと林さんは直接的な面識はないが顔は知っている。二人ともゲーマーっぽい顔をしているので、同類であろうか。正保さんは近くにいなかったので能力は不明だが、林さんはスキルの衝撃波で派手に暴れていた。


「平吉、やるじゃねえか」


 俺の直接の上司である木田課長からも祝福され、少し気恥ずかしい思いをする。


「優秀者の方もそうでなかった方も有難うございました」


 ファシリテイターが少し感情を込めたような声で感謝を表明した。


「今回の戦績は今後のミッションに持ち越され、毎回、それまでのミッションの積み上げ方式による順位を発表していきます。最終的に一位であった方には特典がありますので、ぜひ一位を目指して頑張ってみてください」


 特典とはなんだろうか? 現金化できるものだとしたら少し欲しいが……


「次に被害報告です。制限時間内に戻って来られなかった数名もここに含まれます。クリア条件は正確に満たさないといけません」


 パネルの討伐数ランキングが被害者一覧に切り替わる。運悪く被弾してしまった人と制限時間に帰還できなかった人達が一覧で表示される。


「続きまして……規定によりスキルコアの回収が行われます」


「……?」


 スキルコアの回収とは何だ? と素朴な疑問が生じる。


「!?」


 疑問の解消にはならないが、不自然な変化が生じ始める。部屋にいる人間が消滅し始めたのである。


「なんだなんだ!? 全員、消えるのか!?」


 友沢も困惑気味に予想を口にする。


 だが、その予想は外れる。


 半分以上のプレイヤーは消えてしまったが、プレイヤーが五十人程度になったところで消滅はぴたりと止まる。


「どういうことだ?」


 日比谷部長がファシリテイターに問う。


「非常に心苦しいのですが、出撃せずに部屋に残った方々を処分しました。キメラに捕食されて死亡するとスキルコアを回収することができないので」


 何を言っているのか理解できなかった。いや、本能的に理解したくないと感じたのかもしれない。


「元々、クリア条件に<外の世界に出て>ということを明示したと思います。しかし、そもそも他の勇敢な方々が死地へ出向く中、安全な場所に残る、または短時間でこの程度の操作も身に付けられない、環境の変化に順応できない、そういった方々は貴重なスキルコアを浪費する可能性が高いので」


 平淡に冷たく言い放つファシリテイターに対し、日比谷部長が核心に迫る質問をする。


「ミッションだかを何個かクリアしたら元の世界に戻れるのだろう? だとすると、ゲームオーバーとなった人達はどこへ行くんだ?」


「どこって、あの世? ですかね。そんなものがあるのかは保証できませんが」


「ふざけるな!! ゲームオーバーになったとしても、現実で死ぬようなことはないと答えたではないか!!」


「ふざけてもいませんし、質問には正確に回答致しました。確か、類似の質問として、【バーチャルでゲームオーバーになったら現実で死ぬということはないか】と言う質問はあったかと思いますが、そもそもバーチャルこちらでゲームオーバーになるということはありません」


 最悪だ。


「……察するに、皆様、何か誤解されていませんか? 今、皆さんがいる《こちらがバーチャル空間》で、先程までキメラと戦っていた《あちらが現実》なのですが……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る