7-2
*
永白高校に到着した丸山の目に真っ先に飛び込んできたのは、門扉につながれた鈴木の姿だった。彼は真っ暗な山の中で泣きそうな顔をして突っ立っていた。
「すみません、伊崎君に拳銃を取られました」
「伊崎は?」
「上っす、屋上!」
鈴木が指をさした先には闇の中で蠢く二人の人間のシルエットがあった。
手錠の鍵を相棒に投げてよこすと、丸山は脱兎のごとく走り出した。彼の脳裏には純也の憎悪に染まった瞳が浮かんでいた。あれは人殺しの目だ。
歯軋りをしながら石畳を駆け抜け、入り口のドアをくぐり、階段を一段飛ばしで上がっていく。歳のせいで心臓が悲鳴を上げていたが丸山は止まらなかった。
屋上に通じる扉のドアノブを回した瞬間、獣のような咆哮が耳に飛び込んできた。銃声が夜の闇を切り裂いた。
扉を開ける。純也の背中が見えた。その向こうに立っている溝口の身体が、ぐらりと崩れた。すべてがスローモーションに見えた。溝口が地面に膝をつく。
撃たれたのだと思った。だが、そうではなかった。溝口は膝をついたまま呆然とした顔で純也を見上げている。純也は彼には目も向けず、まっすぐ前を見つめていた。硝煙の匂いが風にあおられ、周囲に広がった。
「溝口っ」丸山が駆け寄る。彼は溝口の手に手錠をかけた。「八時三十二分、殺人罪で逮捕する」
「純也君、どうして」溝口が縋るような目つきで純也を見上げる。「どうして僕を殺してくれないんだ。僕が憎いんだろ。僕がいなければ君の両親が殺されることはなかったんだ」
純也は彼に目を向けることもなく答えた。「もう、どうでもよくなりました。あなたのことは、もうどうでもいい。僕は今日をもってあなたのことを忘れます。プレイキラーに関するニュースはすべて遮断し、あなたを思い出すことはもう二度とないでしょう。あなたは日高時雄も、僕もいない世界で一人で孤独に生きてください」
溝口が、はあ、とため息とも疑問ともつかない声を上げた。彼はそれっきりなにも言わず、うなだれてしまった。
湿った風が三人の間を吹き抜ける。
純也は無感情なまなざしで眼下に広がる木々を眺めていた。
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