7-1
*
暗い無意識の世界に沈んでいた純也の脳は、規則正しく鳴り響く甲高い機械音によって覚醒した。重い瞼をこじ開けて真っ先に目に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。ベッドの脇にはたくさんのボタンやコードのついた大きな機械が並んでいる。心電図をとっているのだろう、ということくらいしか純也にはわからなかった。淡いピンクのカーテンの向こうからは、慌ただしく駆けまわる足音が聞こえてくる。
身体を動かそうとしたところで、左の脇腹に激痛が走った。
そのときになって純也はようやく、自分が集中治療室のベッドに横たわっていることに気がついた。
頭の中を覆っていたもやが次第に薄れ、意識が鮮明になっていく。そうだ、自分は溝口の家で間宮に刺されたのだ。その後、殺されそうになったところに溝口が駆けつけて間宮を刺し…。そこで意識を失ったのだ。
とにかく今日の日付と時間が知りたかった。自分はいったいどれだけの時間眠っていたのだろう。間宮は死んだのだろうか。たしか心臓を刺されていたはずだから、生きている可能性は低いだろう。では溝口は? まさか自分が眠っている間に捕まってはいないだろうか。
そんなことは絶対に許さない。警察に捕まる前に彼に会わなくてはならないのだ。
純也は腕に刺さっている管を引き抜き、痛む身体を無理やり起こした。足を踏み出すときに少しよろけたが、問題なさそうだ。大丈夫、歩ける。
純也は部屋を仕切るカーテンをそっとかき分けると、看護師たちの目をかいくぐり集中治療室を抜け出した。傷口が開かないように脇腹を押さえながら階段を降りる。本当はエレベーターを使いたかったのだが、看護師に見とがめられそうな気がしたのでやめておいた。
声をかけられることなくエントランスにたどり着いたところでふと、いくつも並んだベンチの上に紙袋がぽつんと置かれていることに気がついた。周囲に紙袋の持ち主らしき人はいない。お見舞いに来た人が、不用心にも荷物を置いたまま席を外したようだった。
中身を確認してみると男性用のシャツとズボンが入っている。退院する人のために誰かが持ってきたものだろうか。
純也は心の中でその“誰か”に詫びてから、紙袋を掴んだ。
三分後、トイレから出てきた純也は入院患者の衣装を脱ぎ捨て、半袖のワイシャツにグレーのスラックスという出で立ちに変化していた。
病院を出ると日が沈みかかっていた。雨は止んでいた。遠くに立ち並ぶビルの向こうの空は茜色に輝き、その色合いはこちらに近づくにつれて、徐々に暗い群青色に変化している。むせ返るような湿気と、道路を行きかう車のエンジン音が純也の身体にまとわりついてきた。時間はわからないが夕方の終わりごろだということはわかった。
と、純也の目に見覚えのある後姿が飛び込んできた。男は車のキーを指でくるくる回しながら歩いている。
純也はその丸い背中に向かって声をかけた。「鈴木さん」
鈴木は後ろを振り向き、それから驚きに目を見開いた。「伊崎君? なにやってんすか、こんなところで」
「先生は」純也が鈴木の腕を掴む。純也の呼吸は痛みによって乱れていた。「溝口はどうなりましたか」
「溝口はまだ捜索中っす。それより刺されたって聞いたんすけど、大丈夫なんすか、歩き回って?」
「車はどこですか」
「はあっ? いや、そんなことより顔が真っ青──」
「車はどこだって聞いてんだっ」純也の怒声が通りに響く。周囲を歩いていた人間はぎょっとした様子で二人から距離を取った。
「向こうに停めてますけど…」剣幕に気圧された鈴木が駐車場の方を指さした。「どうしたんすか一体」
「溝口の居場所に心当たりがあります。僕をそこに連れて行ってください」純也は手短に伝えると、ふらつく足で駐車場へと歩いて行った。
その背中を困惑しきった様子の鈴木が追いかける。
二人を乗せた車は八王子市内の道路を走っていた。道路脇にまばらに立つ街灯を次々と追い越していく。目的地に近づくにつれて都会の喧騒は遠のき、その代わりに山や畑などの牧歌的な風景が増えていった。
日はどっぷり暮れ、紺青色の空には白い光をはなつ星々がまたたいている。ビルや商業施設などの空を遮る建物がないせいで、星の輝きがいつもより一層まぶしく思えた。
純也は後部座席のシートに背中を預けながら瞼を閉じていた。彼の両手は左の脇腹に添えられている。車の振動が傷に響いたが耐えられないほどではない。今のところ傷が開く心配はなさそうだ。
「伊崎君、まさか病院を抜け出してないっすよね。僕が伊崎君の脱走に手を貸したとなると、問題になりかねないんすけど」鈴木がちらりとルームミラーに目をやる。
純也は目を瞑ったままなにも答えなかった。
「そんなわけないか、はは…」と独りごちたところで鈴木のスマートフォンが振動した。車を一旦、道路脇に停めてから電話に出る。「はい、鈴木っす」
「お前、今どこにいる?」
丸山の苛立った声が耳に飛び込んできた。
「八王子っす。あの、今、伊崎君と一緒でして…」鈴木がしどろもどろに答える。その姿はまるで先生にいたずらが見つかった生徒のようだった。
「なに考えてるんだ。伊崎は腹を刺されて重傷なんだぞ。それを八王子まで連れて行くなんてお前」馬鹿か、という言葉を丸山は飲み込んだ。
「えっ、やっぱり抜け出してきてたんすか。でも僕じゃないっすよ。伊崎君が──」
慌てて弁解する鈴木の手から、純也がスマートフォンを取り上げる。
「八王子市内にある都立永白高校。おそらく溝口はそこにいます」純也は丸山にそれだけ伝えると通話を切った。「鈴木さん、はやく出してください」
「勘弁してくださいよ。僕はてっきり君が退院したと思っていたから、車に乗せたわけで」
「いいから早くっ。溝口を捕まえるんでしょう」純也が鈴木の肩を掴み、叫んだ。「責任は僕がとります」
「それは上の立場の人間が言うセリフっすよ」車内に鈴木の悲痛な声が響く。彼はようやく観念した様子でアクセルペダルを踏んだ。
周囲の景色が加速する。二人を乗せた車は山の上にあるその高校へと向かっていった。
車がやっと二台すれ違えるくらいの道幅の坂道を上った先にその高校はあった。十年ほど前に廃校になって以来、手つかずのままになっている。かつては白色だった門扉はすっかり錆びて茶色く変色し、門柱には赤いスプレーで落書きがしてある。銘板に至っては何者かによって持ち去られていた。
二人は車から降りて校舎を見上げた。
夜空を背景に黒々とそびえる校舎は、壁を覆うツタや、校舎内に侵入した雑草たちの手によって、緑に飲み込まれかけている。門扉には侵入者を防ぐための鎖が何重にも巻いてあるが、ほぼすべての窓ガラスが割られているところを見ると、なんの効果もないのだろう。
「本当にここにいるんすか」鈴木が隣に立つ純也に訊く。
「ええ、きっといます」純也が頷く。彼には確信があった。
一連のプレイキラー事件は二十八年前に起こった連続怪死事件を再現したものだ。場所や日付まで一致させたのはきっと日高時雄との思い出に浸るためだ。あの男はいまだに二十八年前の恋に縛られているのだ。
そんな彼が追い詰められた先に向かう場所は一つしかない。二人が出会った場所。この都立永白高校だ。
鈴木は片眉を上げて、ふうん、と答えた。どうやらまだ信じられないらしい。
「鈴木さん」
「なんすか」
純也は鈴木に頭を下げた。鈴木が驚いて目を瞬かせる。
「ここまで連れてきてくれて、ありがとうございました。それと」純也は頭を下げたまま言葉を続けた。「先に謝っておきます。ごめんなさい」
そう言うや否や、純也は鈴木の右腕を後ろからひねり上げた。抵抗されないよう、彼の巨体を門柱に押し付ける。
「ちょ、ちょっと伊崎君?」困惑と苦痛の入り混じった鈴木の声が、静かな山の中にこだました。「なんなんすか急に!?」
純也はなにも答えずに彼の腰のホルスターから手錠と拳銃を抜きとった。手錠の片側を鈴木の右腕にはめ、もう片方は門扉の鉄柵にはめた。これで彼は動けない。純也は仕上げに、手錠の鍵を車の中に投げ込むことを忘れなかった。
「応援に来た人が助けてくれると思います。それまで少しだけ我慢していてください」純也は深々と頭を下げると、門扉を越えて校舎へと歩いて行った。鈴木が自分の名を呼ぶ声を背中で聞きながら。
右手に拳銃を持ち、左手で脇腹を押さえ、背の高い雑草に覆われた石畳を行く。周囲に明かりはない。しかし頭上に丸い金色の月が煌々と輝いていたため、歩くのには困らなかった。虫の声と、葉が風に揺れる音だけが響いている。それと純也の荒い息遣い。
純也は校舎の入り口で足を止めた。
溝口はどこにいるのだろう。ここにいるという確信はあったが、校舎のどこに潜んでいるのかまでは考えていなかったのだ。ゆっくりと首を巡らせて周囲を見渡す。だだっ広い校庭か、その奥にある体育館か、それとも校舎内のどこかの教室か。
いや、と純也は頭を振った。あの人のことだ。どうせ今もどこかから見ているのだろう。
思い返してみると、あの人の目はいつも純也のことを見ていた。
両親と血が繋がっていないことを知った高校二年の夏の日、純也が思ったのは、自分の本当の父親は溝口ではないか、ということだった。もちろん頭の片隅には、そんな馬鹿な話があるか、と否定する冷静な自分もいた。けれど純也がそんな風に思ってしまうほど、溝口が純也を見るときの瞳は優しかったのだ。茂や美代子と比べても遜色がないほどに。
しかし本当のところはそうではなかった。溝口は純也自身を見ていたのではなく、純也の中にある時雄の面影を見ていたのだ。
反吐が出る。
純也が高校の同級生を殺そうとしたという話を聞いたあのとき、溝口はなにを思ったのだろう。愛する人の息子が過去の自分と同じ過ちを犯しかけたことに、恐怖したのだろうか。それとも純也の中に時雄の遺伝子が息づいていることに喜びを覚えたのだろうか。
純也は頭上を見上げた。
視線の先、屋上に黒い人影があった。純也と目が合うと、その人影は彼に向かってひらひらと手を振った。
月の光が届かない分、校舎内は屋外よりもずっと暗かった。廊下は砂や埃で覆われ、歩くたびに靴の裏に砂利の感触が伝わってきた。全体的に埃っぽく湿った空気で満ちている。壁のいたるところにスプレーの落書きがあった。
手すりに重心を預けながら、タイルのひび割れた階段を上がる。三階の階段の踊り場には、肝試しに来た不良たちの仕業によるものか、ピラミッド状に積み上げられた椅子のオブジェがあった。
純也の息はすでに上がっていた。全身から汗が吹き出し、熱を帯びた脇腹の傷口は、心臓の拍動に合わせて鈍く痛んだ。先ほどから左掌にどろりとした生温かい感触が伝わってくる。おそらく傷口が開きかけているのだろう。
だがそれは歩みを止める理由にはならなかった。たとえ今、傷口が完全に開き切って血があふれ出したとしても、彼は屋上に向かうことをやめなかっただろう。
屋上に出る扉を開くと、ぬるい風が頬を撫でた。山の上にある高校の屋上から見る星は、いつもより近く、輝いて見えた。眼下に広がる黒々とした森が風に揺れている。
金色の月光が降り注ぐ屋上にはすでに先客がいた。男は柵に背中を預けた格好で純也のことをじっと見つめていた。その顔には満足げな微笑がたたえられていた。
「やっぱり純也君はすごいな。警察よりも先に僕が犯人だってことに気がつくなんて」溝口が言った。「どうしてわかったの?」
「最初におかしいと思ったのは両親の手首を結んでいた縄の結び方を見たときです。あれは先生の靴ひもの結び方とまったく同じでしたから。はじめは間宮が縄を結ぶときに、偶然そういう結び方をしてしまったのだと思っていました。でも五件目の被害者の結び方を見たときに、そうではないと確信しました。プレイキラーがあの縄を結び直したのだと」
「やっぱりよく見ているね、純也君は」
「僕の実の母親、伊崎佳織さんの遺体が発見されたと聞いたその日、彼女の母親に会いに行きました。そこで春子さんから重要な証言を得ました。伊崎佳織さんが奇妙なことを言っていたというのです」
「奇妙なこと?」
「佳織さんの祖母はその何年か前に自殺していたのですが、彼女はそれが本当に自殺だったのか疑っていたそうです。春子さんがなぜそんな風に思うのかと尋ねると、彼女は、『この子の父親は……』と言葉を濁したそうです。すぐにピンときました。佳織さんはその当時、八王子市と神山市内で起きていた連続怪死事件の犯人が、日高時雄であることを知っていたのだと」
純也は言葉をつづける。
「ではなぜ佳織さんがそのことを知ってしまったのか。それはあなたが教えたからではありませんか、共犯者であるあなたが。日高時雄のことが好きだったあなたは、彼が佳織さんと結婚するのが許せなかった。だから彼の秘密を教えて、そして殺した」
溝口はなにも答えずに肩をすくめた。肯定とも否定ともとれる仕草だった。
「それと丸山刑事から、間宮の学生時代の話を聞きました。彼は好きだった数学の教師に気に入られるために、数学を猛勉強したり教師の口癖を真似したりしていたそうです。おそらく彼は好きな人と極端に同一化してしまう性格だったのでしょう。そんな彼が僕の両親を殺したとなると、理由は一つしか考えられません。彼の恋人はプレイキラー事件の犯人だった、ということです。彼は殺人癖のある恋人──あなたに影響されて、二人を殺したのです。もちろん僕への嫉妬も多少あるでしょうが」
純也の脇腹からはシャツを真っ赤に染めるほどの血が流れ出ていた。純也は失血によってかさかさに乾燥した唇を舐めた。
生ぬるい風が吹き、雲が月を隠した。
「プレイキラーは二十八年前の連続怪死事件を知っていて、僕と面識があり、そして蝶々結びを縦に結ぶ人物。そうなるともう、あなたしかいません」
「さすが純也君、本当に聡明だ」溝口は満足げに頷いた後、でも、と続けた。「一つだけ間違っている。僕は佳織さんを殺していない」
純也が怪訝そうに眉を顰める。「じゃあ一体誰が」
「彼女を殺したのは富樫拓郎だ。あの男は佳織さんにしつこく付きまとっていた。二十七年前のクリスマスの夜、富樫は佳織さんの家に押しかけて彼女を殺したんだ。君も覚えているだろう。君を不眠症で苦しめていたあの夢は、幼い頃に君が見た記憶の断片だ」
純也の脳裏に夢の内容が蘇る。ガラスの割れる音と二人の人間が揉み合う音。そしてガラス戸に張りつく血まみれの手。その手は純也によく似た細くて長い指をしていた。あれが母親だというのか?
「だったら富樫は誰に殺されたんです?」
「あの日、僕は佳織さんの住むアパートに寄った。べつに会うつもりは全くなかった。ただ遠くからでもいいから部屋から漏れる明かりを見たいと思ったんだ。その日はすごく寒かったうえに、大学の講義が夜遅くまで長引いてひどく疲れていたせいだと思う。彼女のアパートの前に着いたとき、扉が少しだけ開いていることに気がついた。そっと近づいて中を覗いてみると、佳織さんと富樫が血まみれで倒れていた。その傍にたたずんでいるのは茂さんと美代子さんだった」
「両親が?」予想外の名前に純也は目を見開いた。
「床には割れたコップと側面が陥没した炊飯器があった。美代子さんは呆然とした様子で純也君を抱いていた。茂さんが言うには、二人は佳織さんにクリスマスパーティーに誘われていたらしい。それで彼女のアパートに来てみると、なぜか扉が半開きになっていた。中を覗いてみると、富樫が佳織さんの身体に馬乗りになってナイフを突き立てていた」
「それで、彼を殴った…?」
溝口が頷く。
純也は背中にじっとりと嫌な汗をかいていた。
「僕は二人に提案した。今夜のことは誰にも言わないし、この死体の処理も全部任せてくれていい。そのかわり、純也君をあなたたちの子供として育ててくださいと」
「なぜあなたが、そんなことをする必要があったのですか」
「当然二人にも同じことを聞かれたよ。その時は、『僕は純也君の父親だが事情があって育てることができない。その子が大人になったとき、父親に捨てられ、母親を殺されたということを知ったらきっと傷つく。子供には絶対にそんな思いをさせたくない。だからこの事実を隠して、二人の子供として育ててくれ』と嘘をついた」
溝口が申し訳なさそうな顔で話をつづけた。
「だけど本音を言うと、事件が表沙汰になると困るわけがあったんだ。僕は佳織さんに、時雄が殺人を犯している様子を収めた写真を渡していたんだ。もしも警察が彼女の家を調べたときに、その写真が見つかったらお終いだからね」
「両親はその提案を飲み込んだんですか」拳銃を持った純也の右手が震えている。
「美代子さんは君を我が子のようにかわいがっていたから、手放したくなかったんだろう。茂さんは死んでしまった佳織さんとの婚姻届を提出し、君は晴れて茂さんの息子になった」
「そんなはずない…」純也は頭を振った。
優しかった両親との思い出が胸のうちに次々と浮かんでは消えた。有り得ない、と何度もつぶやいたが、どうしても彼の話を否定する証拠を見つけることができなかった。
いや、見ないふりをしていただけで本当は薄々気がついていたのだ。両親の不自然な結婚歴と、伊崎春子の話を聞いたとき、引っかかるものを感じていたのだ。
「そんなはずはない」純也はその考えを振り払うように、もう一度頭を振った。
虫も殺せぬほど優しかったあの両親が人を殺すなど絶対にありえない。やはりこの男は噓をついているのだ。
「実の父親が連続殺人犯で、育ての父親も殺人犯。君が殺人願望を抱くのも無理はないよ」溝口が憐れむように言う。
「黙れっ」純也は叫び声をあげ、溝口の額に拳銃を突きつけた。銃身が月の光を浴びて鈍い光を放つ。「本当のことを言え」
「佳織さんが殺されたのも、君の両親が殺されたのも、すべて僕のせいだ。二十八年前に僕たちが殺人を犯さなければ、僕が佳織さんに写真を見せなければ、僕がプレイキラー事件を起こさなければ」溝口はいつもの優しい瞳で純也を見上げた。「僕が憎い?」
純也は目を見開いて彼の瞳を見返した。その目は憎しみで染まっている。身体中の血液が逆流している感覚があった。呼吸が荒いのは痛みのせいだけではないだろう。脇腹が熱を持ってうずき、怒りで頭がくらくらした。
──殺すのは駄目。
頭の奥で美代子の声が響いた。
拳銃を持った手が震える。これは両親のためにすることなのだ。けっして身勝手な殺人願望によるものではない。だから両親もきっと喜んでくれるはずだ。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
耳元で男がささやいている。これは日高時雄の声か、それとも自分自身の声か。
自分でも気がつかないうちに喉の奥から獣のような唸り声が漏れていた。純也は叫び声をあげ、引き金を引いた。
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