第7話 聖域

「うわぁ豪華だねぇ」

「すごいな・・・」


 俺とアカリがが良い予感の能力を持った人と思っている人・・・世界的には幸運の女神Fortunaの名のモジり「Fort」と名付けられた人たちは超法規的措置により、常時監視される施設に送られる事になった。

 「Fort」は世界経済に対してあまりに影響が大きいため、能力を持ったものを持った組織とそうでない組織の差が無視できなくなったのだ。世界は彼らがそういったものに一切関わらない生活を望み、そのために豪華な監獄を用意したというのが答えらしい。

 その施設は南の絶海の孤島に作られた。豪華で海側にはプライベートビーチも存在する。しかし陸上部は監獄の様な高い塀で囲まれていて、塀の周りには幅広い地雷原と鉄条網による防衛線が引かれるらしい。ビーチの沖合には何重もの機雷群と哨戒艇と潜水艇が巡回している。上空も人工衛星で常に監視されていて、空からの侵入者に対しても撃墜出来る様に世界最新鋭の防空システムで守られて居る。

 ちなみにその島は日本領土ではあるが。周囲を多国籍軍という名のアメリカと欧州の連合軍が警戒している。その施設で暮らす人たちが外部に出る際は3人以上の護衛が付いて回ると説明されている。その間は専用のマスクを装着し外部の人との会話は一切させないらしい。

 ちなみに世界では「Fort」を失敗や過失の意味を持つ意味を持つ「Fault」と揶揄する人の方が多い。神は何故あんな失敗作を世に送り出したのかという意味を込めて。


 世界に誘拐や自主的な移動で散らばってしまった「Fort」の隔離施設への収容を世界は望んでいるけれど、隠して運用する組織は絶対残ってしまう。国連や日本政府がどんなに返還を望んでも拉致されたり自主的に移住した人を取り戻す事は難しい。特に多くのベールに包まれた社会体制がある国の中に居る場合は。


 あの光を見た可能性が有る人には毎月訪問員が来る。俺とアカリと先月産まれた娘のヒカリが住む家にも国の出先機関の人がやってくる。特に怪しい経済活動を行って無ければ問題無いけれど、幸運な取引を何度かしているのを見つかれば豪華な監獄行となってしまう。


 日本の野党の支援組織や人権団体を称する人たちが連日国会前で、無辜の自国民を他国に引き渡したと言って政府を非難する集会を続けている。けれどその人たちは世界主要20ヶ国の政府首脳会議でその隔離施設の決議がされるまでは、「Fort」に対する政府の無策を追求し、即時に隔離施設を作り収容せよと叫んでいた。結局国連で最終決議が行われ方針が発表されても彼らは政府与党を非難する事を目的として意見を翻し騒ぎ続ける、つまりそういう集団なのだろう。


 あの光の柱が落ちた無人の神社周辺は現在、神の奇跡が起きた場所として世界中の人が訪れる大観光スポットになってしまっている。日本神道の神宮、大社、総本宮などはあの迷惑な光を天地開闢の際に現れた「天の御柱」と同等のものだと連名で発表した。実際に日本の小笠原諸島周辺で新島が出来た事から、日本の夫婦神が国生みを行った結果だという説に信憑性を持たせた。あのみすぼらしい神社の祭神が神大市比売だった事から須佐之男命と国生みを行ったためだと世間では認知されている。そのためネットでは神大市比売だとされる裸の女神がポールダンスをしながら須佐之男命とされる男神を誘惑している絵が作られる結果となった。


 現在多くの宗教がこの神社周辺を聖地として認定している。「Fort」を聖人や神の使いと崇める宗教もある。ただし一部宗教では教義に反するとしていて、「Fort」を悪魔や邪神の使徒と呼び、聖戦による神社の破壊を叫んでいたりする。


 かなり見すぼらしかった神社は国宝に指定され現状のまま補強と耐久性向上の措置が施されたうえ、完全空調が聞いた宮大工製の木造大神殿の中に収められる事が決まった。厳重に警察や消防が監視していても、幸運祈願や聖遺物として柱や鳥居の一部などを削り取り持ちかえる人や不審火を起こす人や危険物や汚物を撒く人がいたので、保護の意味もあるらしい。

 神社周辺の500mの私有地は国管理となり住民の移動が行われるらしい。日本政府が世界的な聖域である神社の保護を求める声に屈した形だ。移動に伴う元々の所有者には毎年かなりの借地料が入って来るらしく既に投機目的の不動産売買も活発に行われて居るらしい。

 地元商店街では神社や光の柱や神大市比売や須佐之男命に関連したグッズやお土産物屋が並べられ多くの観光客が購入していく。

 神社が所在する自治体は今後周辺の観光地化を目的とした整備を発表し神大市比売をモチーフにしたゆるきゃらを作った。そして神社の名前に合わせた市名への変更を要望する提案書が市議会で承認された。

 地元が好景気に沸く為関連企業の業績も大きく向上した。バス会社や鉄道会社などは一時連日ストップ高の株価高騰を見せた。企業名や団体名を聖地にちなんだものに変える動きもあるが、その商標権が海外で盛んに申請されていて地元の人が自由に名前を使えないという問題が発生している。

 観光地化による開発を目的として周辺の土地価格も急騰していて、親父とお袋が住む家の周辺にも高値で買い取り希望が来ているらしく、親父とお袋はアーリーリタイアを検討している。あの大して広くも無い不便な高台にある家が億単位で売れるので、多少贅沢をしても子世代まで安心できる金を残せてしまうからだ。

 神社周辺には用途地域別建築物高さ制限が設けられていて、親父とお袋の住む家のある高台はその制限の際にある。つまり聖域周辺を高台から見下ろせる土地である親父とお袋が住む場所が非常に価値が出てしまったのである。

 大手ゼネコンが高台とその周辺の土地を買い取り高層ホテルと高層マンションとリゾート施設の建設を計画していると噂されて居る。


「親父とお袋がヒカリの司法修習期間が終了したら何処かに二世帯住宅建てて同居しないかってさ」

「分ける必要ある?」

「無いな・・・」


 俺はお袋に「同居は同意するが世帯を分ける必要なし」とスマホでメッセージを送り返した。

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