第6話 世界市場への影響

「なんかアメリカが言ってるね」

「仕方ないと思うよ」

「うん」


 あの日起きた変化は世界に伝播していった。

 光を見た人が幸運を引き寄せる力があると世界中に情報として拡散されてしまったのだ。

 実際に大学入学が決まり引越しをする前には、光を見た人が政府や世界の富豪に高額報酬で雇われたという噂があった。大富豪になったという人の噂もあった。そういった人が誘拐されたという話も噂としてあった。

 そういった人はある日忽然と街から消えてしまった。安全な場所に避難したのか本当に誘拐されたのか分からないけれど、あの日光を見たと言っていた人は世界中から狙われ世間を普通に出歩く事が出来ない身分になってしまっていた。

 そして最近一番大きなニュースは米国が日本政府に対し、その能力を使い不当な投資で儲ける事はインサイダー取引を行う事と同等だと非難を始めたのだ。実際に日本の複数の銀行が業績を急激に向上させ世界市場を席捲しはじめていた。

 既に仲の悪い隣国や欧州各国から非難を受けていたけれど、日本政府は関与を否定し続けていた。しかし今回アメリカ政府から正式な非難を受ける事になってしまった。

 そんなアメリカ系の投資会社にも不自然に業績を向上させている企業が存在している。アメリカだけではなく日本を非難している隣国にもそういった不自然に業績を伸ばす銀行や投資会社は存在していた。


「これ、どうなるんだろうね?」

「わからない」


 良い予感を感じる力があっても悪い予感を感じる力が無いため、彼らは危険回避が出来ない。銃で武装した集団に囲まれても何も予感は働かないのだ。


「取り合えず俺達は普通の生活を続ける事だ」

「うん」


 俺とアカリは各々の講義の支度をして大学へ向けて歩き出す。


「今日は天気が良いよな、な?」

「そうだね~」


 話は終わったあとの「な?」は悪い予感がしたというサインだ。

 歩道橋の上で立ち止まりしばらく2人で空を見上げていると悪い予感が去っていく。


「4限目が終わったらどこか行こうか」

「う~ん、でも今日はサークルがあるよ」


 俺は手を伸ばしてアカリの手を取ると歩き出す。


「昼食後に少しだけどこかに行く時間ぐらいあるだろ?」

「それなら僕は水着を買いに行きたいな」

「最近大きくなって来たもんな」

「誰かが僕の胸を揉みまくるからだよね」

「そんなのは迷信だろ?」

「分からないよ?」


 最近アカリの胸が大きくなって来た事は確かだ。

 この前生理が来たと言って出来なかった日があったばかりだし、妊娠では無いとは思うけれど、もしかして太った? 大学に入学し俺とも入籍して気がゆるんだりしていない? ぶわっと悪い予感が纏わりつくのでそんな事は言えないけれどさ。


「昼は学食で良い?」

「たまには外に行かない?」

「ラーメン屋?」

「少し贅沢したい気分」

「ん~・・・イタ飯系?」

「もう一声!」

「お寿司屋!」

「贅沢し過ぎかな~、ね?」

「たまには良いじゃ無いか」

「じゃあたまには贅沢しようか」


 話が終わったあとの「ね?」良い反応があったというサインだ。もしかしたら新鮮ないいネタでもあるのかもしれない。


「じゃあ4限目の講義が終わったら連絡して」

「了解!」


 今日はアカリは1限が必修で3限と4限が教養課程、俺は1限目から4限目までが全て必修という講義が交わらない日になっている。

 どちらも午後に講義は入れて無いので一緒だけどね。


 俺とアカリは合気道部に所属した。占いによってそこが2人にとって一番良いと出たからだ。何か身を守らなければならない事態が来るという意味だろうか?

 アカリは小柄なのに胸が大きいので運動自体が少し苦手だ。激しく動くと胸が痛いらしい。だから最近は2人でウォーキングを行っている。とはいっても所詮はただ歩くだけなので高校時代に比べて運動不足は否めない。合気道サークルに入ったのはその辺をうまく解消してくれる丁度いい場所ではあった。そういう意味での占いの結果なら良いのだが。


 僕達が大学に入るのに際し、両親からアカリにアカリの両親が残した遺産を処分した代金や保険の残金が入った通帳が手渡された。残金と言っても大学の入学金だけが引かれただけでそれ以外には使われて居ない状態だった。

 本当にアカリを可愛いって思っていたんだな、そこまでとは知らなかったよ。特に親父は寡黙過ぎるんだよっ! 世界最薄にはお世話になりましたっ!

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