「あれをしてみようよ、ね？」

「止めておこうぜ、な？」

　俺とアカリは休日になると街に繰り出し予感の確認を行っている。

　アカリが良い予感を見つけた時には言い終わった後に「ね？」を付ける。

　俺がそれに対し悪い予感を感じた時は言い終わった後に「な？」を付ける。

　元々普通に使っていた時もあったので、何度か言い間違いをしてしまったけれど、何度かしていく内に慣れていった。

　アンティークショップを見回る時に「これを買おうよ、ね？」と言われた時は何も感じなかったのね「いいんじゃないか？」と返事した。ただの古ぼけた時計だと思っていたそれをネットで調べてみた、結果として年代物の希少な時計だという事が分かった。

　宝くじ売り場でアカリが強く「買ってみたい！　ねっ？」と言った時はアカリに強い悪い予感が纏わりつくのを感じて「金の無駄だよ、な？」で止めた。あとで聞いたらとて強い良い予感がしたらしく不満を感じたらしい。けれど俺が止めた時の説明を聞いて身をブルブルとさせていた。

「身の丈を越えた良いことは、後で身を滅ぼすって事なんじゃ無いか？」

「そうかぁ・・・」

「今度少し変装して買いに行ったら変わるかもしれないぞ？」

「なるほど！」

　あの場で買うと身バレして不幸がやってくるのかもしれない。

　そういった何かを潰していけば悪い予感が纏わりつかない良い予感に巡り合う確率が上がるんじゃないかと思う。

「ニケってほんと考え方が理系だよね？」

「アカリは文系だからなぁ」

「僕はニケの嫁さん系だよ」

「そうだな」

「むふふ～ん」

　あのお赤飯事件以降どんどん俺の周りは既成事実で固められつつある。

　お袋からは「ちょっと話があるんだけど」という俺にとって微妙に悪い予感とアカリにとって強い良い予感がある話し合いがあり、俺達が大学に入学したあとの入籍が決まった。

　親父から「お前に預けとく」と言われて渡された、俺にとっては全く悪い予感が漂わないのにアカリが良い予感がするといって目ざとく見つけた、世界最薄0.01㎜と書かれた10個入りの箱は、現在残り3個入りの箱となっている。使わず・・・なんて考えた瞬間に少し悪い予感が纏わりついたので素直に使った結果だ。

　大学は地元から離れた北陸の国公立を志望した。俺が情報通信系でアカリが法律系の専攻だ。アカリは「弁護士を目指すよ！」と張り切っているけど何処まで本気なんだか。

　大学や専攻を選ぶ際は予感を使い占いを行った。

　目指してみようかなと考えれば予感が湧くのでそれを記録に取ってみたのだ。

　まずは俺が大学を選んで俺の悪い予感とアカリの良い予感の強弱をメモしていく。

　同じ様にアカリが大学を選んで俺の悪い予感とアカリの良い予感の強弱をメモしていく。

　俺の悪い予感が反応せずアカリの良い予感が強い大学を選ぶと３つの大学が候補にあがった。その中から専攻を同じ様に選んで行くと各々6つの候補に絞られた。

　後は夏休みを使って３つの大学を見て回りここに通いたいなと思った時の反応や周辺を回った際に嫌な予感と良い予感の場所の割合で決めた。

　両親は地元から離れる事を何も言わなかった。予感があると頼りたくなるけど、無くても生きていると知っているからだろう。でも毎日朝に親の事を考えて、強く悪い予感がしたら連絡するぐらいは許して欲しいと思う。

　あの日見た光は世界に少しだけ変化を与えていたようだ。

　光を見た人は良い予感を感じる能力に目覚めていたからだ。

　予感に従い購入した競馬で大儲けした人や宝くじに当選した人の話の噂を聞くようになったからだ。実際に何人かの光を見たという人が政府に協力し実験をしているという噂もある。

　あの日光を見たと言っていた何人かは学校に来なくなった。席替えで離れた為に話す機会が減って居たマナブも１週間前から出席していないけれどその１人の可能性が高い。遠い場所の大学を推薦入試のために出席して来ない人がちらほら居たので居なくてもおかしくはないけれど、前までマナブは前に都内の私立を受験すると言っていたし推薦を受けたという話を周囲の人も聞いて居ない。

　アヤミネさんも最近少し生活態度が変化していると聞く。高いブランドの香水や財布を持ちだしたらしいのだ。悪い予感を纏わせたまま笑っているアヤミネさんを見てとても寒々しいものを感じるけれど、それが彼女の選択なら仕方ないのだと思う。