第3話 属性過多

「大丈夫だ」

「うん」


 この会話は電車に乗り込む前に言うことになっている。アカリに微妙に嫌な予感を感じる時は痴漢に合う可能性が高い。何度かの経験でそれを知ってから、この会話をするようになった。


 アカリは周囲から属性過多と言われる事がある。従姉妹で幼馴染で義妹の他にチビで巨乳で小顔で色白でエクボと右の目元に泣き黒子にソバカスがあって僕っ子。さらに髪を金に染めてツインテールにし、カラコンでオッドアイにして黒縁メガネをかけ、家庭的、天然ボケ、ドジっ子、デレの演技までしている。

 いや家庭的なのは本当だしヤンデレならデレは演技では無いけれど、クラスメイト達から属性過多と言われ出した頃から面白がって属性を増やす演技をし始めた。これも嫌な予感を感じなかったので止めなかったけど、いくらなんでも盛り過ぎじゃ無いかと思っている。

 アカリは目立つためか電車で痴漢に襲われやすくなってしまっている。それなら属性を増やしす時に悪い予感がしそうなものだけど何故か悪い予感がしない。アカリが痴漢にあいたがって居るようには見えないし、そこが不思議なポイントではある。良い予感を感じれるなら分かるのかもしれないけど残念ながらそんな能力は俺には無かった。


「じゃあまたな」

「うん」


俺とアカリは別のクラスなのでアカリの教室前で別れる。俺のクラスがあるのは2つ隣の教室だからだ。

 教室に入り周囲のクラスメイトと挨拶したあと席に腰掛けながら隣の席のマナブに挨拶をしたら突然話しかけられた。


「おはよう」

「おうおはよう、それよりニケは昨日の光見たか?」

「いんやみてないぞ」

「そっかぁ・・・、嫁ちゃんもか?」

「だから嫁じゃねぇって」


 少しチクっと胸が痛むけど悪い予感は漂っているかどうかは今は分からない。


「良いから見たか見てないか教えろよ」

「その時間は俺もアカリも家の中に居たから気づいて無いぞ」

「そうかぁ・・・」


 これは昨日家でお袋がパートから帰って来る前にアカリと決めた設定だ。アカリもこの話題になった時は「家に居て見ていない」という事になっている。


「なんだマナブは見たのか?」

「あぁ、なんか細くて緑色の光の筋が見えてよ。他に同類が居ないかと思ってるんだよ」

「見た人って少ないのか?」

「あぁ、今のところ、俺が知る限りは同じクラスのアヤミネとA組のサトウとB組のホンダぐらいだな。1年と2年にもいるらしいが少数派なんだよ」

「クラスに1人ぐらいの割合か」

「お前みたいに家の中に居て気が付か無かった奴とかも多いだろうしなぁ」

「光が見えたのって5時少し前だろ? 帰宅部とかは家についてた奴が多いだろうな」

「お前も嫁ちゃんも帰宅部じゃ無いだろ」

「いや料理研なんて週1の実習日以外は自由だし帰宅部みたいなもんだろ」

「これだから文化部は」

「それは他の文化部に喧嘩を売ってるぞ? 特に新聞部と漫研に」

「そっ・・・それもそうだな」


 マナブも新聞部と漫研は恐ろしいらしく青い顔をして黙った。


 うちの新聞部は早朝、休み時間、放課後と常に活動する部活で、的確に情報を集める事に定評がある。過去にはパワハラ教頭や生徒にセクハラしていた運動部顧問やイジメをしていた女子生徒の集団がやり玉にあげられ吊るし上げられる結果になった。奴らは何かが起きていても調査や取材をするだけで、その場での介入はしないけれど、確実に証拠を集めて壁新聞にして張り出す。しかもそれを問題視して新聞部を潰そうとした当時の教頭に対し対決姿勢を見せ、ゲリラ的に号外を出し続けて学校の隠蔽体質と教頭の横暴だと訴え続けた。結果保護者会が開かれ校長と教頭は退任、同調の姿勢を見せた当時の新聞部顧問と数人の教師が降格の上に減給を受ける自体にまで発展した。現在新聞部は風紀委員より風紀を守る存在として学校に認知され、真面目な生徒達に支持された存在になっている。

 漫研は逆にこの学校の風紀を乱す存在として恐れられている。奴らは目を付けた相手をネタに漫画を書く。それがBLや百合話なのでそれが恐ろしいと思われているのだ。実名を使わないし校内には卑猥なものを持ち込まず、腐教活動は校外で行うため生徒会も風紀委員も新聞部も抑えきれない厄介な存在。それが漫研だったりするのだ。


「そのうち新聞部が調べて張り出してくれるかもな」

「そんな個人情報を暴露するような事を奴らがするか?」

「過去に処分された教員たちは実名だっただろう?」

「あれは犯罪を暴くって大義名分があったからだろ? 名誉毀損で訴えられても相手が恥かくだけと当時の新聞部部長が豪語したって有名だろ」

「それもそうか・・・」


 そう呟いて項垂れるマナブと前の方の席で他の女子と談笑するアヤミネにはベッタリと悪い予感がまとわりついていた。

 僕がチクっと胸が痛んだ時に自分の悪い予感が分からなかったのはそれが理由だ。

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