第2話 ヤンデレ
「僕良い事思いついた! 悪い予感を相手に伝える時に嫌な事が起きるか確認すればいいんだよ!」
帰宅中にブキミな光の柱を見た翌朝、洗面台で寝癖を直している僕の所にアカリがやって来て突然そんな事を言った。
「あ〜大変申し訳ないんだが、嫌な予感がするときにはその人から感じる嫌な予感のせいで、俺に纏わりつく嫌な予感は隠れちゃうんだよ」
「えっ? そうなの?」
「うん」
「知らなかった」
「そういえば言って無かったね」
アカリはドヤ顔から急にショボンとした顔になり落胆してしまっていた。
「そんな事より着替えた方が良いんじゃ無いか?」
「えっ?」
「出ているぞ?」
「あっ! ニケのエッチ!」
別に直接何かが見えていた訳じゃない。寝巻に胸のポッチが浮かんでいる程度の事だ。寝る前に外したのだろう。起きた時にブラを付け忘れた奴が悪い。それに昔は両親が亡くなって落ち込んで居たアカリとはいつも一緒で、部屋も風呂も布団も一緒だった、新しい家に移り、アカリの胸が膨らみ出してから部屋も風呂も布団も別々になったけれど、その程度の事は家族だし当たり前だと思っている。
普通はこういったデリカシーの無い事を誰かに言おうとすると多少なりとも嫌な予感が湧いて来る。しかし不思議とアカリには嫌な予感が湧いてこないので俺は平然とアカリに言うようになっている。
親父は昨日から仕事が夜番なので不在だったため、お袋と会話しながら朝食を取った。お袋は昼から夕方までいつものパートらしい。シフトによって出る曜日が変わるので一応家族連絡用のホワイトボードに貼り付けられているのだが、俺とアカリはそれを覚えないので、お袋は朝に言って来るようになっている。お袋は朝食後に僕の顔をジッと見る。俺が頷くとお袋は安心して1日を過ごす。弱い嫌な予感の時は少し首を傾げるようにしている。親父も出かける時は同じような事をする。こうやって声に出さないのは両親が以前の事もあって僕に気を使っている部分だ。声に出して周囲の人に知られないように、そう過ごすの方が平和だと知っているからなのだろう。
「アカリ遅刻するぞ〜」
「待ってぇ」
朝のニュースでも光の事は取り上げられていた。同時期に軽重合わせて交通事故が4件、足元の不注意での転落や人同士の衝突は多数起きていて、合計で死者が5名、怪我人が多数出ているなら取り上げらてるのなら当然だと思う。交通事故が起きている場所が点在している事が分ったようで昨日の全国放送のニュースとは違い集団催眠では無く何かしらの現象はあったのではとされていた。
「なぁ・・・アカリが見た光ってどんなだった?」
「えっ? 青白い光だったよ?」
「そうか・・・俺が見たのは赤黒い光だったよ」
「えっ?」
「あっ・・・これからしばらく話さない方が良い」
「えっ・・・うん。」
「普通の会話なら大丈夫だ」
「わかった」
人の気配がするので嫌な予感は人の目がある所で話さないほうが良いという事なのだろう。
「昨日の課題は終わったのか?」
「うん、ちゃんと終わったよ」
「アカリはやろうと思えば出来るんだからさ」
「いいよ僕はニケのお嫁さんになるから」
「最近は共働きが普通なんだぞって言ってるだろ?」
「僕は家でニケを待ちたいのっ!」
「いやパートぐらいって・・・不毛だな」
「そうだね・・・」
この会話は何度もされて居るので先が分かっている。
「パートぐらい出来るだろ」から「パートぐらいなら勉強は適当でいい」になり「それでも勉強はしろ」になり「そんなことより家事の勉強をしたい」といった感じに進んでいくのだ。
アカリは朝の早起きが苦手なので朝食は期待できないけど、お袋から手ほどきを受けているので家事スキルは高い。親父もアカリに懐柔されているのか僕とアカリの結婚は当然みたいな事を言う。俺も他に好きな人が居る訳じゃ・・・という事もなく多少は憧れとかそういう思いはあるのだけれど、告白しようかと考えると猛烈に嫌な予感がするので出来ないんだよ。ちなみにアカリに告白しようと考えてもその悪い予感は湧いてこない。こりゃ詰んだなと諦めモードになるのも仕方ないだろう。
「少し速足になろう」
「えっ・・・うん」
人の気配がある時はアカリも俺の悪い予感の事には触れない。電車に少しだけ間に合いそうに無いから早足になっただけなのに悪い予感で早足にしたと思って黙っている。
「ほら電車に遅れるぞ」
「あっ・・・うん!」
俺がアカリが悪い予感だと勘違いしたと感じた時は、「ほら」の後に手を伸ばす。これでアカリは勘違いをしたと気がつき手を繋いでくる。
これは、この街に引っ越して来る少し前・・・小学校4年の時からし始めたものだ。高校生ともなると少し周囲の目が気になって来るけれど続けている。それよ止めようかなと考えると微妙に嫌な予感が漂うからだ。
最近色々サブカル的な知識が入ってくるようになった事で、アカリは俺に拒絶されるとヤンデレになるんじゃ無いかと思っている。けれどそれに触れるのは悪い予感を感じなくてもヤバいと思うので触れないままにして過ごしている。いつか刺されてしまいませんようにと祈るばかりだ。
「なんとか間に合いそうだな」
「うん」
手を放そうと考えると嫌な気配が少し漂う。だから改札近くでスマホを取るために手を放すまでずっとそれを続けていた。
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