悪い予感と良い予感

まする555号

第1話 光の柱

「ニケっ! 見て見て!」

「なんだよアカリ・・・って何あれ・・・」

「綺麗~・・・光の柱だよ?」

「うん・・・」


 学校の帰り、少し高台にある家に入る直前、義妹のアカリとみたその赤黒い光の柱は確かに綺麗かもしれないけれど、俺には不気味なものにしか思えなかった。空のずーっと高い高層雲よりも高い位置から音もなく落ちてくる赤黒い光。物理の成績は良い方だけど俺にはその現象がいかにして起こるものなのか全く分からない。


「だんだん弱くなっているね」

「うん」

「あそこって誰も居ない神社がある場所だよね?」

「そうだな」

「行ってみる?」

「いや・・・やめておこう」

「どうして?」

「何か嫌な予感がするんだ」

「それなら行かない方がいいね」

「うん」


 俺の悪い予感は良く当たる。アカリは小さい頃から俺を見ているから良く分かって居る。

 特にアカリが小学校2年生で隣に住む同級生の従姉妹だった時に、アカリの家族での旅行前に、俺が嫌な予感がするから出かけないでと何度もアカリに懇願した事があった。アカリの家族は旅行に出かけてしまい事故にあってアカリだけが帰って来る事になった。そんな事があったのでアカリが素直に俺の悪い予感を信じるのは当たり前の事だった。


 事故により孤児となってしまったアカリを引き取るという親類は現れず孤児院に入れるかという話をし始めた時に、俺は猛烈な嫌な予感がしたので、両親を強く脅すレベルで説得しアカリは俺たちの家族となった。

数年後、どっかの孤児院の職員が幼女に猥褻な行為をしたとして捕まったとニュースで流れた時はアカリがそんな目にあったのではと恐ろしく感じたものだった。


 それ以降も度々嫌な予感を襲い色々な人に行動を変えるよう促すのだが、変えてしまうと何かが起きるといった事が無くなってしまう。好意で言っているのにウザがられ、何かが起きると僕を化け物呼ばわりしてくる周囲の人に嫌気がさし、家族の転勤で引っ越した事を機会に、信じてくれる家族以外にはこの悪い予感を話さなくなった。

 俺が大きく傷ついた事を知って居るので両親もアカリもそれに口を出す事はしなくなった。


「すぐに家にはいるよ」

「それも予感?」

「うん」


 今日は悪い予感が良く発動する日らしい。

 こういうのは強弱あるのだけどこんなに強い嫌な予感が連続する事は滅多にない。回避してしまうとそれがどんな結果を及ぼす悪い予感なのか分からないので判断のしようが無い。


「悪い予感がするなら良い予感がするようにもなって欲しいよ・・・」

「それいつも言ってるよね」

「仕方ないだろ?」

「そうかなぁ?」


 俺はこの能力をあまり好いて居ない。色々回避して居るのだろうけれど実感が無さすぎる。それならいい予感で何が起こるのか試してみたくなるってものだと思う。


「僕はニケの能力好きだよ」

「そう言ってくれるのはアカリだけだよ」


 俺の能力は両親も少し不気味がっている。だからアカリだけが全面的に許容してくれているのだ。


「アカリ・・・」

「なぁに?」

「今日あの光を見た事は誰にも言うなよ?」

「それも悪い予感?」

「うん・・・」

「分った」

「あと親父とお袋にも言うなよ?」

「えっ?」

「絶対だぞ?」

「うん・・・」


 一体何なんだよあの光・・・。

 俺とアカリはその後一切無言のままに家に入った。


 夕方のテレビニュースではあの光の柱の事が全国ニュースで取り上げられていた。同じ時間に同じ方向を見ても、見える人と見えない人がいたらしい。しかも見え方は人によって違うらしくインタビューに細い黄色い光を見たと答える人や淡い紫に見えたりと言う人がいてバラバラだった。

 見えた人の中にはか驚いて車の操作を誤ったり、階段を転げ落ちたりした人が居たらしく死者や怪我人が出ているとも報じられた。スマホで光の柱の撮影を試みた人もいたそうだけど一切残されて居いなかったらしい。テレビのコメンテーターは集団幻覚では無いかと言ってそのニュースコーナーは締めくくられていた。


 俺とアカリはそのニュースを見ても何も言わなかった。お袋が「近所でこんな事があったのね」という言葉に、僕とアカリも「そうだね」と適当な返事だけしただけでそれについて大きく触れなかった。

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