第2話 2人の生徒

とある小さな学校に、生徒たちが今日も集まってくる。

制服も無ければ指定カバンもない。

座る席も自由だ。


みんな、それぞれ好きなところに座って、授業が始まるのを待っている。


教室に、高校1年生が6人。

その隣の教室に、高校2年生が5人。


彼らは、1年間、将来自立して生きていくための授業を受ける。

それは座学だったりする。

他にも、作業着を着て旋盤や手仕上げ、電気実習をしたり、時には溶接をしたり、板金作業をしたり。


それぞれが楽器を持ち寄り、アンサンブルをやったり、ソロで演奏し合ったり。


フリースクールのようなこの学校では、あまり外には知られていない。なぜなら、この学校は、名門校の不登校児やドロップアウト、病気から回復したばかりの生徒、災害によって故郷を離れなければならなかった子どもの集まる学校だからである。

その学校では、密かな集まりがあった。

それは、会話である。


個別でやることもあれば、みんなでやることもある。

今までの自分の過ち、自分の隠してきた思い、苦しみ、悲しみ、色んなことを話す。

話して、どう、次を生きればいいのか、話し合う。

だってここは、新しい学校への転校や、自分が元いた学校への復学など、次の進路に進むための準備をするリハビリ的な学校だからだ。


だけど、ただリハビリ課題をこなして転学ではない。

生徒たちは、各々「チャレンジ」という生徒独自の最終課題をクリアしなければ転学できない。

なぜか。それは、この学校に来る生徒たちはみんな何かしら問題を抱えた子だからだ。


例えば、1年生に在籍する水野明博の場合。

彼は、交通事故の怪我の影響で、ピアノが弾けなくなってしまっていた。また、同じクラスの二階堂幸輝は親の離婚がきっかけで、何もかも無気力になっていた。この学校に来る前に音楽高校で専攻していたバイオリンさえ手が付けられない状態だった。そんな2人に、担任の梓千晴は頭を悩ませていた。2人にどんなチャレンジをさせれば良いのだろう…と。通常、チャレンジはある程度復学や転学の目処が立ったら始めるものだが、勉強などのモチベーションを上げるために、目処が立たないうちでも始めることはできる。2人があまりにも無気力なので、せめて2人の個性が光っていた音楽から始めても良いのでは…というのが千晴の考えだった。しかし、どうチャレンジすればいいのやら。千晴はノートパソコンと向き合いながらため息をついた。

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協奏曲 結井 凜香 @yuirin0623

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