透明人間
透明人間は、光を透過するから、人間をみれない。網膜自体が透明で、光を透過してしまうからだ。
透明人間にとって、人間は透明人間になる。認識できないものは、存在せず透明になるからだ。
人間と透明人間は、互いが見えないから街中でよくぶつかり合う。
ぶつかるまで分からないから、街を歩くのはとても怖い。ぶつかっても何にぶつかったか分からないから、謝ることもできない。
透明人間は毎日悩んでる。ただ透明だから、その悩みを誰も知らない。彼の話す言葉は、いつも独り言になる。
透明人間に唯一、感じられるのは自分の手に触るものだけ。彼にとって自分の手だけが、彼の目になる。
彼は自分の動脈をよく触る。見えもしない、皮膚一枚下に血が流れてることを確かめる。彼は自分が生きていることに心強い安心感を抱いていた。
ある日、透明人間は自分の手を陽にかざした。どうしても自分の生きている血の、赤い色を確かめたくなった。
日の光は、彼の透明な右腕を射った。
透明なヘモグロビンは、彼の中で強烈な反射を繰り返し、鮮やかな偏光をみせた。光のスペクトルが彼の身体で自由に踊っていた。
けれど、その光が透明な彼の目に届くことは決してなかった。光れば光るほど、彼の目は光を通過してしまうのだった。
彼はそのとき、彼が生きてることが、彼の目には、永久に分からないことを悟った。
その瞬間、透明人間の彼は、この世界から完全に消滅してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます