番外 未来に繋がる

「お父さんって、全然老けてないよね」

「……そうだなぁ」


 エリッサの娘である家の長女、アレーナがついにそのことに気が付いてしまったか。いつかは言われるだろうなって思っていたんだけど……実際に聞かれるとどうやって答えればいいのかよくわからない。娘だってクロノス魔法騎士学園に通うって宣言するぐらいの年齢……前世で言う所の中学生ぐらいの年齢だし、疑問に思うのは無理もないんだけどね。お父さん、実は神様なんだよねって言ったら納得してくれるかな……頭おかしいと思われないかな。


「お母さんたちは若くて綺麗に見えるけど、お父さんは別格……と言うか、ちょっと年上ぐらいにしか見えないもん」


 真実を話してやった方がいいのかな……家族に関係する話だしな。


「この話、妹には?」

「みんな言ってるよ?」


 だよなぁ……と言うか、今まで誰にも言われなかったのがおかしかったぐらいなんだから、そろそろ真面目に考えなきゃいけないか。


「よし、なら家族みんなを集めて色々と話そうか。俺がなんで若いままなのか、とかさ」

「昔の話? 興味あるなー……お母さんは全然そこら辺のことを教えてくれないし」


 エリッサは割と王族だった過去を捨ててから、あんまり昔のことについて語らなくなったからな。あれは多分、元王族だからって義務感から喋っていないんだろうけど、多分誰もそこまで気にしてないと思うんだけどな……もっと自由に喋ればいいのに。



 その日の夜、家族が全員で揃ってから長女のアレーナが再び同じ質問をすることで話が始まった。最初のその疑問についてアレーナが口にした瞬間、エリッサの顔が強張ったが、エリクシラに視線だけで止めるようにお願いした。その一瞬だけで、エリクシラは俺とアレーナの間になにかしらの約束があったことを察したのか、溜息を吐きながらエリッサの背中をさすっていた。


「なにから話せばいいのやら……」

「まず、なんでお父さんが若いままなのか、その理由を知りたいな」

「そっか、それだけなら端的に答えられるぞ」

「じゃあ教えて」

「今まで黙ってたけど、実は俺……この世界の神様なんだよね」


 俺のまさかの言葉に、アレーナは動きを止めた。


「おとうさんかみしゃま!? すごい!」

「おー、ありがとうなキッド」


 エリナとの間に生まれた末弟であるキッドが、無邪気に俺が神様であるという事実にはしゃいでいる。しかし、他の子供たちの反応はあんまりない……と言うより、疑惑8割、驚愕2割の視線を向けられている。


「ライト、なんだその疑いの目は」

「いや……父さんがいきなり馬鹿みたいなこと言い出したからちょっとびっくりして。神様なんてそもそも実在するの?」

「目の前にいるだろうが」

「ライト、父さんの馬鹿な発言なんて今に始まったことじゃないでしょ」

「シンシアはお父さんに向かってなんてことを言うんだ」


 双子の兄ライトと妹シンシアは、俺のことを完全に馬鹿な奴だと思っているらしい。双子の母であるニーナは滅茶苦茶笑っているが、笑い事ではないのでなんとかしてくれ。


「……父さんが本当に神様だとして、どうやって不老になっているのか全く原理が理解できない。まさか神様だから不老なんて馬鹿みたいなこと言わないよね? 必ずなにかの原因があって不老になっているはず」

「そんな気になる?」

「不老と不死は人類が持つ最大の夢だからね。古文書にだって載ってないよ」


 エリクシラに似てよく本を読むメリアは、俺が不老になった原因の方に興味があるらしいが……俺だって明確には知らないんだよな。多分、魂の位階が上がったことに原因があると思うんだけど。


「父さんが神様なんだったら俺のお願いごと叶えてよ」

「甘えんな」


 我が家の長男シルクの言葉を一蹴する。お前はもうちょっと母親のエリナを見習って真面目になれ。


「待って、お父さんは神様だから不老なの? え、じゃあ……世界のあらゆる物は神だるお父さんが生み出したってこと? お母さんたちは神と結婚した女性ってことでいいの?」

「あー……俺は確かに神だけど、別になんでもかんでも生み出した訳じゃないよ。だって先代の神がムカつく奴だったから殴ってからぶっ殺して神になっただけだし」

「……わかった。ニーナさんからお父さんは学生時代野蛮だったって聞いていたけど、本当だとは思わなかった」

「おいニーナ」


 学生時代はお前の方が野蛮だったし、今でも冒険者やりながら魔獣を殺しまくっているお前の方がどう考えても野蛮だろうが。

 6人の子供たちは俺が神であるという事実を聞いてそれぞれの反応を示しているが……最初に聞いてきたアレーナはやっぱり納得ができていないみたい。まぁ、普通に考えて自分の父親が神様なんて信じられる訳ないだろうし、仕方ないと言えば仕方ないんだけどね。


「じゃあ……お父さんはこの先もずっと生き続けるの?」

「そうだな」

「……それは、お母さんが死んでも、私たちが死んでも?」

「アレーナ、それは」

「エリッサさん、ここはテオドールさんに任せませんか?」


 俺が不老であるという事実を聞いて、最初に思い浮かんだのがきっとそれなんだろう。アレーナの声には、少しの怯えが感じ取れた。アレーナの疑問について、何か言おうとしたエリッサをエリナが横から抑える。子供が生まれる前、エリッサと結婚する時には俺と4人でその時のことは話していたからな……でも、子供たちはそんなこと知らない訳だから、しっかりと向き合って話さなければならない。


「俺は望んでいた訳じゃないけど、この世界の神になったから……たとえ愛した家族が寿命で死んでも、俺が死ぬことはできない」

「そんな人生、寂しくないの?」

「さぁ? まだ経験した訳じゃないからな……でも、ちょっと寂しいかも」


 実際、最初はなんとなく楽観視していたが……10年ぐらい前から、明らかに俺だけが老けていないと実感し始めた時には言いようのない恐怖が身を包んだ。でも……それでもエリッサたちは、俺のことを受け入れてくれたから。


「でもさ……もし、アレーナたちが将来結婚して子供ができて、その子供にもまた子供ができて……そうして血縁が繋がっていったら、俺も寂しくはないかも」

「なにそれ」

「神様の血縁って、なんか小説にありそうじゃないか?」


 仮に何千年経っても、自分の血族だったらやっぱり目をかけたくなるものじゃん?


「だから、俺が将来孤独になることを心配してくれるなら、結婚相手を見つけて子供を残してくれると俺は助かる」

「……お父さんって、神様なのにそんな感じでいいんだ」

「どういう意味だそれ」


 俺、もしかして娘に神様なのに馬鹿って言われてる?


「はー……なんか、重大な話って思ってたけど、聞いて損した気がする。シンシア、部屋戻ろうよ」

「うん」

「え、普通に結構重大な話だったよね!?」

「テオ、諦めろ」


 うるせぇ!

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