番外 数年後の家族

 平和だ。

 一時期は世界を終末に導く竜とか、世界を好き勝手に変えて楽しんでいた神とかを相手にしたものだが、あれも結構昔のことだな。

 既に学園を卒業して数年……俺は結局、西側諸国を1年だけ放浪してからクーリア王国に帰ってきて、そのままエリッサと結婚した。やっぱり王族って立場が色々と面倒なことになりそうだったので、速攻で結婚したのだが……あれで結構甘えたがりなのは意外だったなって感想。

 結婚したことで王族の立場を捨てたのだが、エリッサは逆に身軽になっていいわーとか言っていた。俺は王族やめて大公とかにでもなるのかと思ったら、そのまま貴族の立場を全部捨てて俺と一緒に暮らすとか言い始めたから……どうしようかと迷ったけど、国王である義父と本人が決めたのならば俺は何にも言えなかった。


 あれからも、学生時代の仲間たちとは定期的に顔を合わせるようにしている。

 エレミヤは正式にフリスベルグ公爵家を継ぎ、今は結婚相手を誰にするかって話で忙しいらしい。そもそもフリスベルグ公爵家は、他の公爵と比べても王族に血筋が近くて立場が強いから、さっさと結婚相手を見つけないと面倒なことになるんだろうなと思う。

 アッシュも前ガーンディ男爵が病没したので、1人で領地を運営していかなくてはいけなくて大変だとぼやいていた。アッシュにはまだ好い相手が見つかっていないようだが、まぁ……あの性格と顔ならすぐに相手は見つかるだろう。

 ヒラルダはミエシス辺境伯家の1人娘として学園を卒業して速攻で貴族の男と結婚した。俺が西側諸国から帰ってきた頃には既に結婚していたので、滅茶苦茶驚いたんだよな……なにより、あの過激な女が誰よりも早く結婚するなんて全く予想もできなかった。今は辺境伯家の当主として夫を尻に敷きながら領地を運営する女傑になっているらしい。エリッサに聞いたのだが、ミエシス家は代々あんな感じらしい。

 アイビーは性に合っていると、王国の諜報員に戻っていった。とは言え、最近は西側諸国とエルグラント帝国の戦争も大穴が塞がったことで鎮静化しつつあるので、最近は割と暇だとか言っていたが、諜報員が暇なのは良いことなのではないだろうか。

 エノはあんな自由奔放な性格をしていたのに、結局は魔法騎士団に入団していた。グリモアが使えて、しかもその天族とまで会話することがエノは、魔法騎士団内でも圧倒的な力を示しているらしく、第1師団から第4師団の師団長たちが取り合いをしているとかなんとか。

 残りのエリクシラ、ニーナ、エリナは……まぁ、俺とエリッサの家に住んでいる。

 エリナは姉であるエノと同じく魔法騎士団、ニーナは自由を求めて冒険者、エリクシラはビフランス家を出奔して宮廷の魔導士になった。全員が俺と内縁の関係にあるのだが……クーリア王国は重婚できるのでさっさと結婚すればいいのに、なんだか俺への対応が最近投げやりになってきた父さんに言われている状況だ。


 俺は最近何をしているかと言うと……古代文字をひたすらに解読させられている。


「はい、次はこれです」

「あー……もう飽きてきた」


 本を読むのが好きって言っても、好きでもないジャンルの本を1日に何度も読ませられるのは苦痛でしかないし、しかもそれを現代語にも翻訳しろとか言ってくるんだぞ? 本を持ってくるエリクシラもどうかと思うわ……仮にも夫ですよ?


「文句言わないでください。1冊を翻訳するだけで普通の家族が1月生きていけるぐらいの金を貰ってるんですから」

「俺たちの世帯収入とんでもないことになってるからもういいじゃん!」


 現役の魔法騎士、高名な冒険者、魔法の天才だぞ? もう意味わからないぐらい稼いでるのに、なんで俺まで翻訳作業させられてんだよ!


「そもそも、貴方は放っておいたら無限に魔法開発してるじゃないですか。エリッサさんに私がなんて言われるかわからないので駄目です!」

「なんでだよー! 魔法の開発とかクーリア王国にとって得ばっかりだろうが!」

「常人が使える魔法をまともに開発してから言ってもらっていいですか? なんですかこの間の空間を断ち切ることができる魔法って……あんなものが常人に使えると思ってるんですか?」

「アッシュに頼んだら使えたぞ!」

「アッシュさんが常人だと思っているなら頭の病気かもしれないので切開した方がいいですね」


 く、くそ……最近、エリクシラが妙に強くなった気がする。俺とこうやって口で戦って俺を劣勢に追い込むことができるんだからな。


「はぁ……そもそも、翻訳だけで済ませているんですからいいじゃないですか。これも貴方が家にずっといられるようにする配慮なんですからね?」

「そりゃあそうなんだけどさ……」

「また騒いでるの?」


 俺とエリクシラが色々と家の中で騒いでいたら、エリッサがゆっくりとこちらに近づいてきた。その姿を見て俺とエリクシラは少しの間、唖然としてからすぐにエリッサに近寄る。


「ちょっと、軽率に動いていいんですか!?」

「無理しなくていいんだぞ、エリッサ」

「もぉ……そこまで心配してくれなくても大丈夫」


 大丈夫と言われてもなぁ……女性の世話なんてやるのが始めてからどうすればいいのか、俺もエリクシラもよくわかってないんだから。

 結婚してから数年、エリッサは子供を身籠った。エリッサがずっと欲しいとは言っていたけど、簡単にはできないと母さんに言われていた通り、それなりに時間はかかったが……今はエリッサの身体の中に、俺とエリッサの子供がいる。ニーナやエリナ、エリクシラが割と頑張って働きながら、俺を家に留めているのはそういう理由があるからでもある。まぁ、当の本人であるエリッサは見ての通り、そこまでしんぱいしてくれなくても平気と言っているが……こちらはあんまり平気じゃないんだよ。


「それより、エリクシラもあんまりテオドールに無理させないでね?」

「わ、わかってますけど……」

「テオドールも、古代語を難なく読めるのは貴方だけなんだから、ちょっとは協力してあげて。エリクシラは学生の頃からずっと読みたいって言ってたんだから」

「いや、結構頑張って協力してるんだけどな……」


 人間を超えたしまった俺にも子供ができた……その影響が子供にどういう影響を与えるかわからないけど、あんまり後悔はしていない。だってエリッサがこれだけ幸せそうなんだから。

 それにしても、女は母になると強くなるって本当なんだな……最近、エリッサに誰も口で勝てなくなってしまった。エリクシラも黙るしかないし、ニーナなんて元から勝てたことがなかったので最近はエリッサのイエスマンみたいになってるし。エリナだけだな……エリッサと仲がよくて負けていないのは。そもそも戦っていないとも言うが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る