番外

番外 家族の団らん

「父さん、俺……魔法騎士になるのやめたから」

「……お前が魔法騎士になるって言ったことあったか?」

「は? 流石に1回ぐらい…………ないかも」


 久しぶりに寮から家に帰ってきたら、丁度父さんがいたのでとりあえずで報告したら予想外の反応をされたけど、確かに面と向かって父さんに魔法騎士になりたいって言ったことなかったかもしれないな。学園は無料だから通っているだけだし、最初から魔法騎士になるつもりなかったか。


「そもそもお前が魔法騎士にならないぐらい知ってたよ。だって明らかに組織で動くのに向いてない性格してるし」

「それは今の第3師団長にも言ってやれよ」


 リエスターさんはお世辞にもまともに組織で動ける人間って性格してないだろ。


「あらあら、じゃあテオドールはこれからどうするの? もう卒業まで1年無いのよ?」

「そうなんだけどさ」


 クラディウスを倒してから半年以上の時間が経過して、既に俺は3年生に進級している。一応、ここから更に3年間学園に通って色々と資格を取得することもできたりするんだが、俺的にはあんまり乗り気って訳でもないから普通に卒業するつもりだ。でも、将来のことなんて言われても全く思い浮かばないし……そもそも自分が人間辞めてしまったことだって言えてないのに。


「昔から魔法の研究者になるとか言ってたじゃないか。そっちは?」

「あー……ちょっと行き詰ってる」


 行き詰っているって言うか、世界と本格的に繋がって人間じゃなくなったら、何故か古代文字がそのまま読めるようになってしまったから自分で作った翻訳表が無駄になって落ち込んでたんだよな。エリクシラ的には間違っているかもしれない翻訳ではなく、しっかりと読めるならそれでいいじゃないかって感じみたいなんだけど、俺は解読するのがそれなりに楽しかったのに……例えるのならば、趣味でクイズ解いてたら横からやってきた人間にいきなり答え言われた、みたいな。


「今はなにやってんだ?」

「飛ぶ魔法」

「飛ぶ? 飛べるようになる魔法ってことか?」

「一応はね」


 自分の身体を分析して色々と魔法を開発しようと思ったんだが、最初に開発したのが飛ぶための魔法だった。以前、エレミヤが背中に翼を生やして飛んでいたが、あれは誰にでもできる芸当ではない。と言うのも、エレミヤが翼を生やして飛んでいるのはミカエルの力があるからできるだけで、あれだけでは完成した魔法とは言えないのだ。実際、エレミヤに魔法を見せてもらったがその魔法陣には翼を生やして動かすことができる程度の情報しか存在しなかった。あれでは、誰もが使える魔法とは言えない。


「生活魔法、になるのか?」

「わかんない。でも、安易に開発したら戦争にも真っ先に使われると思うよ」

「……そうか」


 父さんはなんとなく悲しい目をしているが、俺としては仕方のないことだと割り切っている部分でもある。どんな技術だって人を殺す為に転用できないかと考える人間はいる。これは人間が人間である以上は仕方のないことだと簡単に割り切ってしまえばいい……まぁ、これが神の視点ってやつなのかもしれないけど。


「学園を卒業したら、しばらくは世界を放浪してみようかなって思ってるんだ」

「放浪って……クロスター王国とかにも行くのか?」

「あぁ……うん」

「お前、絶対に西側諸国に行こうとしてただろ」


 ごめん父さん、もう1回行った。


「西側諸国は渡航禁止なんだから行っちゃだめだぞ……そもそも行けないと思うが」


 副総長的にはそう言わざるを得ないよな。俺は勝手に空を飛んでいけるようになってるから、バレないように勝手に行くんだけどさ。


「魔法騎士になれなんて俺は最初か言ってないからな。職業選択の自由ぐらいは確保してやらないと親が廃るってもんだ。だから、親に多大な迷惑をかけない限りは好きに生きていいんだぞ!」

「多大な迷惑をかけなければ、ね」

「ちょっとの迷惑ならいいぞ? 子供ってのは親に迷惑かけて当たり前だからな」


 そうかなぁ? 俺ぐらいの年齢になると流石に親に迷惑かけるのは、ちょっと親不孝者だと思うけど……まぁ、父さんの価値観ではそうってことなんだろうな。

 自分が人間じゃなくなってしまったから、これ以上はあんまり親に迷惑かけちゃ駄目だなーとか1人で思ってたけど、父さんと母さん的には、もっと迷惑かけてもいいのにって思ってるのかな。俺の場合は、幼い頃から転生してきた魂のせいで自我があったから、あんまり手のかからない子供ではあっただろうし……そういうのを求めていたりしているのかな。


「それにしても、もうテオドールも卒業の年齢か」

「感慨深いわねぇ……自分たちの子供が学園を卒業するなんて」

「子供か……俺にも将来、子供ができたりするのかな」

「その為にはまず相手がいるんだぞ?」


 いきなり当たり前のこと言ってくるじゃん。


「お前は人と関わるのを面倒くさがる傾向にあるからなぁ……そんなんじゃいつまでも経っても結婚なんてできないぞ?」

「いきなりどうしたの……流石に俺だって友達の数人ぐらいいるよ」

「いや、いるのは知ってるけどな……相手が貴族じゃないか」


 エレミヤのことを言ってるのか?


「お前だって母さんみたいないい女の人を見つけて、幸せにしてやるんだぞ? それが男ってもんだ!」

「おー……そうかな? でも、流石に卒業してすぐに結婚ってのは早くないかな」

「そんなことないと思うけどねぇ」


 ここら辺は前世の価値観が割と足引っ張ってるからな。結婚なんて20代後半になってから、みたいな。その前世でも晩婚化がーとか言われてたんだけれども。


「貴方、恋人とかいるの?」

「あー……」


 親に言われたくないことランキングで上位に位置している「恋人とかいるの?」が来てしまったか……この世界では学園を卒業したぐらいに結婚するのが割と普通なのかな。やっぱり魔獣とかの外的要因による死亡率が高いと、結婚する年齢がどんどんと下がっていくのかな、なんて考察は放っておいて……どうするかな。


「その……良い関係の人は、いるよ?」

「いるの!?」

「いるのかっ!?」

「そんな驚かなくても」


 息子のことをなんだと思っているのか。


「いやぁ……息子は変人だからてっきりそんな相手はいないものだと思っていたから、こっちでお見合い相手でも探してやらないと駄目かと思ってたぞ」

「そうねぇ、じゃあちゃんとお相手の家族の方とも挨拶しないといけないわね」

「そうだな! 相手は誰なんだ?」

「…………エリッサ姫」


 あ、父さんの顔が死んだ。

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