番外 空が飛びたい

「こうですか?」

「んー……近いけどなんか違う」

「どこが違うんですか! ちゃんと飛んでるじゃないですか!」


 こわ……そんなキレなくてもいいじゃん。

 エリクシラと一緒に試行錯誤しながら空を飛ぶための魔法をなんとか考えているのだが、今の所ちょっと空中浮遊するぐらいの魔法にしかなっていない。俺の理想は自由自在に空を飛ぶことができる魔法なんだけど、エリクシラが今やっている魔法はちょっと高い所に浮く魔法なんだよな。前に進めるけど遅いし、頭を下にすることもできないんだから飛んでいるとは言わないだろう。


「エレミヤ、なんか助言」

「ないよ。僕は翼生やして、ミカエルが何とかしてくれているだけだから」

「ミカエル、なんか助言」

『うーん……天族は種族的に生まれた時から飛べるから、逆に飛べない人間の気持ちなんてわからないんだよ』


 つっかえねぇなこいつら……まぁ、エリクシラが使っている空中浮遊の魔法は、俺の浮遊を基礎として開発しているから、俺が何とかしないといけないのかもしれないけどさ。


「ヒラルダだって飛んでるじゃん」

「あれは水の上に乗ってるだけだろ」

「アイビーさんも一緒だと思いますし、そもそも人間が飛ぶのってかなり無理があるのでは?」


 そんなことないと思うぞ。


「見本は?」

「ほい」


 浮くって意識するだけで浮くことができる俺を見本と呼んでいいのか知らないけど、求められたので俺は空を浮いて頭を地面の方に向けながらエリクシラの魔法を解析する。


「……参考になりませんね」

「僕より酷くないかな?」


 ちょっと黙ってろ。

 なにが駄目なんだろうか……やっぱり、空を自由自在に飛ぶって想像ができていないのだろうか。そう考えるのが自然なのかもしれないな……じゃあ、空を移動した経験がある奴にやってもらおう。


「エレミヤ、ちょっとお前がやれ」

「えぇ……今の状態でもかなり複雑な魔法なのに、僕がやると魔方陣まで最初から考えなきゃいけないんだよ?」


 エリクシラを実験台にしている理由の8割は確かにそこなんだけどな。エリクシラは神秘の書ラジエルを使えば、一度描いた魔法は何度でも使えるからこういう魔法開発ではクソ便利なんだよな……でも、今回はイメージが問題だからエレミヤにやらせる。


「はい」

「ありがとう……他人に渡せるんだ」


 神秘の書ラジエルを受け取ったエレミヤは困惑しながら、開かれたページに描かれた魔方陣を参考にしながら魔法を構築していく。数秒後、エレミヤはしっかりと空に浮き上がり……そのまま動けなくなっていた。


「ほら」

「やっぱり魔法の方に欠陥があるのか?」


 想像できればこの魔法でも飛べると思ったんだがな……予想が外れたらしい。


「使ってみてわかったんだけど、これは……ある特定の地点の上を飛ぶって魔法になっているんじゃないかな?」

「……なるほど! つまり、事前に決められた場所以外の空を飛ぶことができない……エリクシラがのろのろと前に進んだり後ろに進んだりしていたのは、それなりの範囲を指定していたからってことか」

「欠陥じゃないですか!」

「いや、これはこれで使えそうだけどな」


 逆に言えば、地点を設定すればその方向に向かって真っすぐ飛ばせるわけだから、物を運ぶ時とか、もしくは長距離を攻撃する魔法なんかに使用すれば弾道ミサイルみたいな動きができる訳だからな。


「ま、空を飛ぶ魔法としては欠陥だから最初から作り直しだな」

「またですか……そもそもこの魔法陣完成させるのに何日かかったと思ってるんですか?」

「いいじゃん。これだけ研究して新しい魔法を作ったら、それだけで卒業課題は完璧になれるぞ」

「卒業課題には早すぎますよ」


 成果に早いも遅いもないだろ。


「まだやってたのか」

「私たちには一生理解できない類のことだな」

「一緒にするな」

「アッシュとニーナか……丁度いいから一緒に昼飯でも食うか?」

「なにが丁度いいのか知らないが、提案は断らないぞ」


 もう完全に行き詰ってるから休憩挟もうと思ってな。


「テオドール!」

「げ……エリッサ姫」

「その「げ」とはなによ! そんなことよりテオドール、また面倒なことを報告せずに放置したわね!」


 多分、先日父さんにエリッサ姫と好い仲って言ったことだろうな……あれからその話題については話さなかったんだけども、色々な人を経由してエリッサ姫まで回ってきたんだと思う。


「そう言えば、第1王女様が妹と結婚しようとしている馬の骨を探し出して、私が叩き潰すとか言ってたなぁ……」

「エレミヤ、それはいつの話だ?」

「先週かな?」


 やべぇじゃん。

 俺、ついに王族にまで目をつけられて……エリッサ姫も王族だから今更か!


「あー! そう言えば、エリッサ姫って前に空を飛びたいとか言ってなかったか?」

「え、言ったような気がするけど……それ、貴方が飛べるようになったからよ?」


 そうだよな……確かに、俺が人間じゃなくなってバンバン空を飛ぶようになってから自分も空を飛べるようになったら、みたいなこと言ってたからな。


「よし、じゃあ一緒に開発しよう。全然上手くいってないからさ!」

「はぁ……あのねぇ、貴方とエリクシラが共同で開発してるのに全然上手くいかないものを、私が手伝ってなんとかできると思っているの?」

「すっげぇ自虐」

「事実よ、事実。私じゃ貴方たちの研究なんて全くわからないから、そこら辺は絶対に口出ししないようにしてるんだから……なのになんで一緒に研究しようなんて言ってくるのよ」

「おいテオドール、昼飯はどうした」


 ややこしいから今は黙っててくれると嬉しかったなー!


「アッシュ、僕らだけでも先に行こうか」

「あ、あぁ……自分で言い出した癖に」

「気にするな。テオはそういう奴だ」

「私も一緒に行きます。あの2人の痴話喧嘩には飽きましたから」


 誰が痴話喧嘩だ! そもそも飽きられるほど俺はエリッサ姫と言い合いなんて……確かにしょっちゅうしてるかもしれないな。


「テオドール、貴方が私に空を飛ぶ魔法を使わせてやりたいなーぐらいの気持ちでいるのはわかっているけど、もう少しこう……雰囲気とか、もっとないの?」

「俺にあると思うか?」

「成長しなさいよ。貴方、人間を超えたとか言ってなかった?」

「身体はな。感性は人間のままだ」


 基本的にはちょっと目がよくなっただけだもん。


「ある意味この学園で一番浮いてるよ、あの2人は」

「上手いこといったつもりか、エレミヤ」

「2人が揃って初めて完成する浮遊魔法だな」


 はぁ……これは長くなりそうだな。俺も昼飯食べたかったのに……いや、自業自得なのか?

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