第188話 取り敢えず休憩
「エタニティリング?」
「そう。書いてある単語は永遠を誓うって意味……つまり、結婚相手に送る指輪だな」
「そ、そんなものだったのね……てっきり、とっても凄い力を秘めているものだと思ったわ」
しかし……気になるのはこのエタニティリング、どうやらメッキ加工されていたらしき跡が見えると言うことだ。そして……この世界でそんなメッキ加工をしているものは見たことがないので、この指輪は異世界からそのままやってきたということだな。
異世界の指輪がこの世界にあると言うことは……俺より前にやってきた異世界人は、魂だけでこちらにやってきたのではなく、肉体ごとやってきた可能性がある。つまり……俺はこの世界に転生してきた訳だが、過去の異世界人は転移してきた可能性があるってことだ。
「ちょっと待っててくれ」
「え?」
実は古代文字の翻訳にばかり思考が行っていたから、実は日本語で書かれた日記を全て目を通した訳じゃないんだ。そこにはそれなりの情報が書かれているかもしれない。
「昆虫観察日記、食べ物レシピ、毎日の天候、異世界人の姿、愚痴日記……あった」
幾つもの本を掻き分けて発見した日記のタイトルは「自分の過去」だ。
パラパラとページを捲ると、中は他の日記と違って日本語だけで書かれていた。横に古代文字のページが存在していない、純粋な日本語だけの日記だ。
「なんて書いてあるんですか?」
「今から読む」
捲った最初のページには『異世界と思われる世界にやってきて昼夜が入れ替わった回数は30回。水と食べられそうな果実だけを食べて生きてきたが、そろそろ限界だと思っていた私の前に、人がやってきた。彼らが何を喋っているのか不思議と聞き取ることができた私は、彼らに細かい事情を伏せて食料と水を分けて貰った。行く場所も帰る場所もないと伝えたら、魔族にやられたのだと勘違いしてくれた。魔族というものがなにかはわからないが、きっと人間に対して攻撃するこの世界の固有種なのだろう。この村にいつまでもいてくれて構わないと言ってくれたが……そもそも私は元の世界、地球に帰ることができるのだろうか』と書かれていた。
「……30日も放浪しながら生きていたなんて、随分と運がいいんですね」
「いや、俺はあの遺跡の近くに行ったからわかるが、あそこは川の水も綺麗だったし、川の近くには食べられる植物が生えていた。逆に毒性の強い植物はあまり生えていなかったし、周囲に魔獣の気配もなかった……生き残るべくして生き残ったんだろうな」
日記には、放浪している間に絶対に川から離れないように移動していたと書かれている。飲み水が無くなることを恐れての行動だったのだろうが、それが命を助けたのだろう。この日記は、村の人にもらった紙に特殊な炭で書いていたようだ。
「この世界に転移してきた原因は思い当たらないって書いてあるが……彼はどうやって神の存在まで行き着いたんだ?」
「神?」
「なんでもない」
遺跡にあった石碑には普通に神の存在について書かれていたし、てっきり俺は転移してきた時に神と接触していると思っていたんだが……どうやれこれを見る限り、神と接触した、もしくは存在を把握したのはこの世界にやってきてからのようだ。
うーん……しかし、これだけ見ても神の正体ってのが漠然とし過ぎていて掴みどころがない。ルシファーや俺の中にいたもう1人のテオドール・アンセム、そしてこの日記を書いた誰か……全員が神は世界を外から眺めているだけだと言うが、その世界の外に出る方法がわからないのでは殴りに行くのも難しい。
「あのテオドールさん……この単語なんですけど」
「ん?」
神をどうやって殴ろうかとちょっと思案していたら、エリクシラが古代文字で書かれた書物と、俺が適当に作った固有名詞の対応表を持って俺の近くにやってきた。
「これ、この単語はクラディウスですよね」
「そうだな」
「こっちも、クラディウスじゃないですか?」
「は?」
言われるがままにエリクシラが持っている古代文字と、俺が作った言語対応表を見ていると……確かにどちらもクラディウスと書かれている。
「それがどうしたんだ?」
「よく見てください。こちらのクラディウスは確かに私たちが知っているあの竜の名前として書かれていますけど、こちらは明らかに全く関係ない話で使われていますよ?」
「……つまり、固有名詞としてのクラディウスはあの竜を指すけど、一般的な単語としてもなにかしらの意味を持っていると言うことか」
め、面倒くせぇ……なんでそんな面倒な名前にするんだよ。存在しない単語に名前とかにしておけばそれで手っ取り早いのに、なんで無駄に意味のある名前にするんだよ。
『クラディウスの意味は「最果て」だったはずだが?』
「最果て?」
待て、ルシファーってそもそも古代文字読めるのか?
「古代文字読めるなら教えてくれよ」
『いや、全く読めん。ただ……クラウディウスに関することはそれなりに調べていたし、人間たちがあの竜に最果ての名前を与えていたことを知っているだけだ』
「最果て……つまり、地平線とか水平線、もっと言うなら終末とかを意味する単語ってことか?」
じゃあエリクシラが持っている本に書かれている内容は、世界の果てに関することが書かれているのかもしれない。
俺もそっちから少し考えて日記を漁ってみるが……それらしきものはパッと見つからない。
「……一度休憩した方がいいわ。2人とも、明らかに普段より頭が回ってないもの」
「そうかな……そう言えば、昨日の昼から何も食べてないわ」
「昼食ね。なら、食堂にでも食べに行きましょう?」
「おぉ……エリッサ姫って食堂使ったことあるのか?」
「ないわ」
無いのかよ……いや、確かにお世話係みたいな人と一緒に飯を食べているのを見たことはあるけど、まさか学園の食堂ですら食べたことがないなんて思わなかった。
「そもそもこの学園、貴族が多いですからあんまり食堂は混んでませんよね」
「まぁな……あ、エリクシラは貴族だけで落ちこぼれ扱いだからいつも食堂で食ってるのか」
「蹴りますよ?」
すいません。
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