第183話 多次元宇宙
東の孤島、クラディウス、魔族、天族、魔法、魔素、色々なことについて書かれているが……俺としてはクラディウスを倒す前に知っておきたかったばかりだな。しかし、この頃の人間はまだ天族を知っていたのか……そもそもこの遺跡がどのくらい前のものなのか全く判明していないからわからないけれど、この書物を残した異世界人は凄い几帳面な人だったんだな。
俺が今、こんな場所までやってきて知りたかったのはこの人がどういう経緯でこの世界にやってきたってことで、この世界のことはあんまり興味ないんだけどな。
「……西の大穴は神が作ったもの?」
クラディウスの関する話を斜め読みしながら次々と書物を放り投げていると、一つだけ気になることが書かれていた。
西側諸国が統治する大陸に存在するという大穴……あれは確かクラディウスが開けたものだみたいな話をどこかで聞いた気がするが、この書物には「ある日、空から黒い光が落ちてきて轟音と共に大地を揺らした」と書かれている。著者は実際に西側の大陸まで行って見てきた訳ではないらしいが、どうやら西側から逃げて来た人から聞いた話のようだ。
原因は不明であると言われているが、この著者はクラディウスよりも更に上位の存在が引き起こしたものではないかと推測していて……その候補として神という存在を上げている。日本人の感性からして、理解不能なものは神の仕業にするってのは実に納得できることではあるんだが……実際に神という存在を認識してしまった俺からするとかなり有力な話なのではないかと思ってしまう。
著者の思惑通り、この本がロゼッタストーンのように古代文字解読の為に使えるのだとしたら、西側諸国から強奪してきたらしい古書館の古代文字も読むことができるかもしれない。そして……その古代文字を読むことができれば、あの大穴ができた理由とその大穴があった場所にはなにが存在していたのかを知ることができるかもしれない。
「テオドール」
「ん? ルシファー?」
大量に積んである本を読んでいたら、背後から急に声をかけられてびっくりしてしまった。振り返ってルシファーの方を見ると……身体中が凄いボロボロになっているのが見える。どうやらアザゼルとの戦いで大分傷ついているようだ。
「治せるのか?」
「あぁ、それは問題ないが」
「話がある、異世界の魂を持つ者……その書物が読めるということは、お前にはあの石碑の意味が分かるということだな」
石碑?
「ついてこい」
ルシファーとアザゼルの間に何があったのか知らないけど……急に戦いをやめて案内してくれることになったらしい。天族特有のコミュニケーション方法なのか、殴り合いは。
アザゼルに促されるままに建物の外に出ると、いつの間にか周囲は瓦礫だらけで調査隊の人間は1人も残っていなかった。
「大切な遺跡をよくもここまで破壊できるもんだな……やっぱり天族ってそこら辺のことを気にしてないのかな」
「時間の流れが違うからな。それに、天族は世界の過去になど興味はない」
「一緒にするな。俺は人間の過去に興味があるからここにいる……ルシファーとは違う」
「ほぉ? またやられたいのか?」
「やられていたのはお前の方だろう?」
「なんでもいいから案内してくれないか?」
2人の戦いとかマジで興味ないから。
ルシファーと睨み合っていたアザゼルは、俺の言葉を聞いて舌打ちしてから再び歩き出した。歩くのに邪魔な瓦礫を魔法で吹き飛ばしながら歩いているのだが、やっぱり遺跡のことなんて大して大切だと思ってないだろ。
「これだ」
しばらく歩いていると、さっきの集落のような場所から鬱蒼とした森のような場所まできていた。途中、なにかしらの魔法的な違和感はあったが、それ以外は特になんの変化もなくここまでやってくることができたのだが……俺が平然と立っていることを見てアザゼルは微笑んだ。
「やはりお前は人間を超えているな。この森の結界はまともな人間が立ち入ることができないようになっているのだが、お前は何も感じずにここに入ってくることができた」
「いや、ある程度の違和感はあったけど……別にそこまで立ち入れないほどじゃなかったし」
アザゼルの言葉を適当に流しながら、俺は奥に存在している巨大な石碑へと駆けよる。
「これがお前に呼んで欲しい石碑だ」
「……古代文字が一緒に書かれている書物が沢山あっただろ? あれを使えばある程度の意味は推測できるんじゃないか?」
「いや、これは読むことができない。特殊な魔法がかけられているのか、単純になにかわからない文字で書かれているのかは理解できないが、お前が言った書物とは全く違う書かれ方をしている」
そんなことあるのかなと思いながら石碑に近づいてみると……石碑はローマ字で書かれていた。そりゃあ、書物の中には登場してないから読める訳ないな。こういうところが日本人のよくわからないところなんだよな。
「えー……『これを読むことができるということは、君はきっと日本人なんだと思う。君が何の目的でこの石碑を呼んでいるのかわからないし、僕が死んでから何年経って読まれているのかもわからない。けれどここに僕が知る限りの世界の真実を記す』と書かれているな」
「ニホンジン……なんだそれは」
「別世界の国に所属する人間の呼び方だな」
「そうか……つまり君も?」
「まぁ、な」
この石碑を記した者が俺と同じ世界の日本人かはわからないが、とにかく同じような言語が発展した日本人であったことは間違いないだろう。
「それで、世界の真実とはなんだ?」
「まさか、この世界を上から眺めているあれのことか?」
ルシファーとアザゼルは息の合った様子で俺に向かって石碑の内容を翻訳しろと言ってくる。
「『世界の外には、また違う世界があり……漫画のマルチバースのように、数多もの宇宙が広がっている。その中には僕が過ごした地球もあり、この世界もまた含まれている。神はその世界の一つ一つに存在して、管理する者もいれば眺めているだけの者もいる。僕が育った宇宙の神は、生きている存在には干渉しない存在だったが、気まぐれに死者の魂を余所の世界に送り付ける悪質な神でもあった』ってことは俺がこの世界にやってきたのも、全部そいつのせいってことか?」
「……あんなのが世界の数だけいるのか? テオドール、殴る相手には困らなさそうだな」
いや、全部の神を殴るつもりなんてないからな。
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