第178話 超越者

 威圧感が半端ない……ちょっとでも動いたら後ろから刺されそうなぐらいの威圧感がある。何故、俺はこんなことになっているのか理解できないんだが?


「り、リエスターさんとエノは、あんな風に戦っているの放置していいのか?」

「女にも時には戦うことが必要なんだ。だから黙って座って見ていてもらおう」

「まぁさ、優勝賞品が勝手に逃げ出したら誰だって怒るじゃん? だからちゃんとここに留めておかないといけないなって」


 お、おい……マジかよ。


『やるか? やるのか? ミカエルはいないが七大天族全員と戦えるのならば加勢してやってもいいぞ?』

「なんでそんなにウキウキなんだよルシファー……殺すぞ」

『お? 私とやるか? 確かに今のテオドールなら私を殺すこともできるかもしれないな!』


 なんだこいつ。


「確かに、今のテオドールを相手に本気で戦えば魔法騎士団の師団長である私も、もしかしたら一瞬でやられてしまうかもしれない」

「確かにね。テオ先輩、意味わからないぐらい強いし」

「だが、君が自身のグリモアを完全に制御できていないことは知っている。だから、君は私たちと戦う時にその剣を向けることができないと判断した。グリモアが使えない状態なら、私が1人でも君を充分に抑えつけることができる」

「そこに私が加われば、まぁ逃げられないよねってこと」


 や、やばいぞ……基本的に脳筋で戦闘狂で何考えてるのかわからない自由人なリエスターさんだけど、戦闘に関してだけ言えば天才的だ。直感的に俺が正典ティマイオスを使いこなせていないことを理解しているし、実際にグリモア抜きで戦ったら……多分負ける。しかし、ここからルシファーの手を借りるって言うのもな……以前ならば俺の中に全能の光ルシフェルがあったから無理やりに手伝わせるってこともできたんだけど、正典ティマイオスを合成する時に消えてしまっている。天族と戦うとなるときっと協力してくれるだろうが……後で何を要求されるかわかったものではない。


「も、もっとマシな戦いにしませんか? 野次馬も多いし、なによりこのまま放置してたら危ないじゃないですか!」

「……確かに」

「でも、あれぐらいでいいんじゃないの? 本気で相手を殺そうなんてみんな考えてないと思うし」

「ならいいか」


 くそ、リエスターさんだけだったら簡単に丸め込めるだろうが、何も考えてなければ俺の話を聞かないエノがいるからそれも難しいか!

 助けを求めるようにちらりとアイビーの方に視線を向けると、関係ないですと言わんばかりに視線を逸らされ、ヒラルダはそもそもこちらに興味はないと言わんばかりに見向きもしていなかった。


「そもそも、ニーナたちが勝ったら俺が全員を娶るって方向の話に持っていくのはわかるが、エリッサ姫たちが勝ったら次はどうするんだ? そこが解決しないなら戦っても無意味じゃないか!?」


 これだ!


「……エリッサ様は多分、誰が正妻になるかぐらいしか気にしていないと思うが」

「うん。多分、一夫多妻が駄目なんじゃなくて、全員を平等に好きって言うのが貴族的に駄目って話じゃないの?」


 あー……確かに? いや、俺が納得してどうするんだ。


「そもそも、言い方は悪いがエリッサ様の婚約話を消し飛ばしたのは半分くらいはテオドールのせいなんだから、ちょっとは責任を取ってやってもいいんじゃないか?」

「そうですね……エリクシラさんも、ビフランス家の落ちこぼれからここまで這い上がれたのは貴方のお陰なんですから、今更貴族なんだから結婚出来る訳ないだろで突き放すのは屑のやることだと思います」


 ヒラルダとアイビーすらも俺の敵に回った、だと。


 色々と考えてみたけど、止める方法が全く思いつかない。いや、根本的に全員を娶って責任を取れってのは理解できたから、俺が覚悟を決めればいい話だよな。問題は、エリクシラとエリッサ姫の立場の話なんだ。エリクシラは貴族の立場を捨てればと言っていたが、エリッサ姫はそうもいかない。だって彼女は、この国の王女なんだから。

 うむ……一度真面目に考えるためにも、マジであの戦いを止めよう。


正典ティマイオス

慈悲の雷霆レミエルっ!」


 手加減の仕方は今から学ぼう。

 まずは速攻で飛んできたリエスターさんの雷を正典ティマイオスで吸収してから上空に向けて発散する。それだけの動作で上空にあった雲が消し飛んでしまったが……もしかして正典ティマイオスで吸収した魔力って増幅されたりするのだろうか?


「わぁっ!?」

「観客席でもなんか戦いが始まったぞ!?」

「ちょ、押すな!」

「さっさと避難するのよ!」

「ら、乱闘かぁ!?」


 周囲が凄い騒ぎになっているけど、なんとか観客に飛んでいかないように調整しながら頑張って戦おう。それにしても……魂の位階が上がって人間の上位存在になったはずなのに、なんとなくいつも通りだなぁって思ってたんだけど……あの戦い以来初めて正典ティマイオスを顕現させたら、あの時のように再び全能感を俺の身を包んだ。やっぱり、正典ティマイオスを使っている間はなんとなく繋がってはいけないものと繋がっている気がする。たとえるのならば……世界の記憶そのもの、とか?

 俺が思考している間にも幾つか雷が飛んできたが、正典ティマイオスで吸収するまでもなく、高まった魔力を纏った素手で流していく。俺が受け流した雷撃が背後の4人の方に飛んでいってしまった。


「ちょっ!? なんなの!?」

「テオドール先輩?」

「な、なんでテオとリエスター師団長が戦ってるんだ?」

「観客席で暴れるなんてありえないんですけど……何を考えているんですか?」


 なんか色々と言われているけど、元々は君たちのせいだからね。

 ふわりと空中を浮遊しながら観客席から訓練場の方へと降り立ち、リエスターさんとエノを挑発してみる。


「……ちょっと本気でやってみるね」

「あぁ……グリモアは使わないだろうと言ったが、実際に使ったらどれくらいの強さなのかは気になっていたんだ!」


 玲瓏なる羽衣ラグエルを発動したエノと、慈悲の雷霆レミエルを発動したリエスターさん。恐らく、速度だけなら王国でも最速を争う2人……しかし、今の俺にはそもそもどこを狙って攻撃しているのかがわかってしまう。

 魔力の流れ、世界の流れ、人の鼓動、世界の呼吸……全てが把握できてしまえば攻撃を予測することは不可能ではない。


「お?」


 突進してきたエノとリエスターさんの攻撃を避けたら、何故か戦っていた4人がいきなり襲い掛かってきた。

 あの……そもそも俺を取り合って戦っていたんじゃないの? なんで俺が攻撃されているのかな?

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