第166話 怨念の塊
「あー……どうみてもあの中、だよな」
周囲を警戒しながらみんなで島の中を歩いていたら……明らかにあの中にクラディウスがいますって場所を見つけた。
「この島の東西南北を中心にした封印の結界のようなものが張られているみたいだね。そしてその中心点が」
「あれか」
ゲームならば「あ、この先は絶対にボスだからセーブしておかなきゃな」って思えるぐらいの禍々しい気配を漂わせている結界。ここまで近寄れば流石に俺以外の皆にもその寒気のようなおぞましい気配が感じ取れるらしく、全員が険しい顔をしていた。
「今のクラディウスは万全の状態じゃないって本当なの? ここから感じられる力でも……はっきり言ってありえないぐらいの魔力だけど」
「さぁ?」
エリッサ姫が自分の身体を抱きしめるようにしながら不気味な魔力に顔を顰めているが、ルシファーの言っていたことはあくまでも推測でしかないのだから本当かどうかはわからない。
「……どちらにせよ、私たちはあれを倒しに来たんですよ? 突っ込まないなんて選択肢がありますか?」
「そうだな。俺もあそこに向かっていくのがいいと思う」
「元々、クラディウスとやらが完全復活していること前提だったのだから、弱っている可能性があるのならばそれは喜ぶべきことだな」
「待ってください、あまりにも無防備過ぎませんか? ここはもう少し考えてもいいはずです」
「……私はテオドール先輩の指示に従います」
「私もよくわかんないからテオ先輩で」
「私は突っ込むべきだと思うが、テオはどう思う?」
アイビー、アッシュ、リエスターさんは結界の中に突っ込む派、エリクシラが反対派で、エリナ、エノ、ニーナは俺の意見待ち。ヒラルダ、エレミヤ、ヴァネッサは特に意見はないようだが……俺に意見を求めるのか。
「俺が突っ込む以外のこと言うと思うか?」
「はぁ……知ってましたよ」
俺が突っ込むと言えば、反対派はエリクシラだけになるのだから当然ながら多数決にすらならないぐらいの偏り方だ。
「よし、なら突っ込むか!」
こういう時に真っ先に飛び出して行って背中で語るのが、リーダーの務めだと思うから、ここは俺が突っ込んでいこう。考え無しと言われようとも、ここまで来て退くような選択肢は元々持っていない。
『天族、天族だなっ! 我が眠りを妨げる蛆虫共がぁっ!』
「マジかよ」
意気揚々と結界を破壊しようと思っていたのに、結界は内側から破壊されて中から巨大な竜が姿を現した。しかし、ルシファーが言っていたような空を覆うほどの大きさではない。それに、シンバ王朝遺跡の地下に描かれていたような胴長の龍でもなく、四足歩行の通常の竜種のようだ。ただし、大きさは比ではない……マジで王城ぐらいはありそうだ。
「やはり自由に姿を変えられるか……テオドール、私が援護してやる。光栄に思え!」
「ルシファー!?」
何の前兆もなくルシファーが俺の中から飛び出すと同時に、背中の翼を大きく揺らしながら空中へと上がっていき……超巨大な魔方陣を空中に幾つも描ていた。
「僕たちも行こうか」
「そうだね、ルシファーにばかりやらせる訳にはいかないから」
俺の背後から追いついてきたエレミヤの身体からも、ミカエルが飛び出してルシファーと同様に空中へと飛び上がっていった。
「
「
俺とエレミヤは、同時にグリモアを起動して武器を握りしめる。
『まだ滅んでいなかったか、蛆虫共がぁっ!』
天族への憎悪の言葉を吐きながら、クラディウスは背中から突起を幾つも生やした。生えてきた突起の先からは、大量の魔力の弾丸が放たれ……その全てが空中のルシファーとミカエルに向かって飛んでいく。ルシファーの言っていた通り、自分の身体を好き勝手に弄ることができるらしいが……ここまで無法なことができるとは思わなかったぞ。
「テオドール、エレミヤ、前!」
「んっ!?」
ルシファーとミカエルが空中で魔力弾を避けながら巨体のクラディウスに攻撃を始めた瞬間に、クラディウスの身体から放たれた闇の瘴気が形になって魔獣の姿に変わっていく。クラディウスが魔獣を生み出している……どうやら、本当のことらしい。
「
「
「
周りを囲うようにどんどんと増えていく魔獣に対して、エリクシラ、エリッサ姫、アッシュがグリモアを発動して簡単に蹴散らしていく。
「悔しいけど、あんな化け物と戦ってもあんまり役に立てなさそうだから、魔獣は私たちが相手するわ。テオドールはあの怪物をなんとかしなさい!」
「私も、ここで戦ってますよ」
「エリッサ様を放置する訳にも行かない、俺もここに残ろう」
「エリッサ姫、エリクシラ、アッシュ……頼む」
『よし! クラディウスが相手じゃないなら俺も頑張るぞ!』
『やれやれ……儂らが行っても、ミカエル様の邪魔になるだけじゃろうからな』
3人だけで無限に湧いてくる魔獣に対して勝てるとは思えないが……それは俺たちも同じことか。せめて俺たちがあのクラディウスと戦っている間だけでも、魔獣を抑えてくれればなんとかなるかもしれない。
「
『オファニエル、ここは任せる』
「
『了解』
グリモアを発動したアイビーとリエスターさんが俺とエレミヤの横を通り抜け、クラディウスに向かっていった。
「
『さて、どうするラグエル?』
「いっくよー!
『答えるまでもない。ルシファーと共闘するなど吐き気がする……しかし、相手がクラディウスならばそれも仕方ないことだろう……ルシファーは我々天族の敵かもしれんが、あれは生命全ての敵だからな』
「
『はぁ……これが終わったら気が済むまでルシファーを殴らせてもらおうかしら』
「行くぞ
『うぉぉぉぉぉぉぉ! 俺たちは誰にも止められない!』
エリナ、エノ、ヒラルダ、ニーナもグリモアを起動してさっさとクラディウスの方へと向かって行く。俺とエレミヤは顔を見合わせてから、深く頷いて空を飛ぶ。
「……全く、見てられないわね」
「見てるだけなんてさせるつもりは最初からないですよ?」
「契約は解除したでしょ? あんたに命令される筋合いはないんだけど?」
「そうですか? 魔族の絶対的な価値観は力なんですから、ヴァネッサは私に従うべきかと」
「あんたは人間だから力の上下関係は無しよ」
『蛆虫め、人間と手を組んだか……愚かな! 群れると言うことが弱さの証なのだと、私が教えてやろう! 俺の力の前に、平伏せ! 我の力の前に消えろ!』
一人称の安定しない野郎だ……もしかしたら、それだけ人間の怨念を集めた存在なのかもしれないな。だったら、さっさと成仏させてやる!
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