第161話 船上で作戦会議がしたかった
「よーし、みんな集まったからさっさと行くかー」
「……これから死ぬかもしれない場所に向かうっていうのに、そんな軽い感じでいいんですかね?」
「気にするなエリクシラ。どっちにしろ死ぬか生きるかなんだからな」
「あまりにも適当な考え方に眩暈がしてきました」
そんなこと言うなよ。
エレミヤが用意してくれた船に荷物を積み込み、討伐に向かうために役者も全員が揃っていた。船に乗り込んでから、全員を集める。
「よーし、これからどうやってクラディウスを倒すか作戦会議しようぜ」
「は?」
「嘘ですよね?」
「冗談だろ?」
エリクシラ、アイビー、アッシュの順に正気を疑われたのだが、どうしたのだろうか。
「今の今までどうやって倒すか考えてなかったんですか!? 頭おかしいんじゃないですか!?」
「おい、エリクシラ……そんなに興奮するなよ」
「興奮もしますよ! これから世界の終末に抗おうって自分で言っておいて、当日目前にいきなり作戦立てるって頭がおかしいとしか思えないんですけど!?」
エリクシラの言葉に同意しているのか、殆ど全員が頷いていた。俺の言葉に頷いていないのはニーナとリエスターさん……いや、俺の賛同者が頭おかしい奴らだから、多分おかしいのは俺なんだろうな。
「じゃあ、まずは経験者に聞くか。七大天族の方々に以前はどうやってクラディウスを倒したのか」
『貫いた』
『燃やした』
『斬った』
『消滅させた』
「はい、解散解散」
俺よりこいつらの方が頭悪いじゃねーかよ。
「まぁまぁ、取り敢えず色々な情報を共有してから対策は考えよう。ミカエル、クラディウスについてどう戦ったのかを教えてくれるかい?」
『勿論、いいけど……はっきり言って、クラウディウスは滅茶苦茶やってくるから、最後はもう個人でひたすら最大の攻撃をしていただけだったね』
あー……作戦立ててもそれを超えるような怪物だから最後はもう滅茶苦茶って奴ね。
「それでも、クラウディウスがどんなことをしてきたのか、色々と考えられる材料になることはあるでしょ?」
『そうだね……』
『特徴的なのは奴が自身の魔力を切り分けることで魔獣を生み出すことができることだ。そして奴は死と負の感情を吸収することで無限に魔力を増やすことができる……つまり、クラウディウスは単体で無限の軍勢と同じだけの力を持っていることになる』
おぉ……急にルシファーが解説モードになってくれたぞ。
「無限に魔獣を召喚してくるって、対処のしようがないのでは?」
『真正面からやればな。魔獣を生み出すには自らの魔力を切り分けなければならないという特性がある以上、魔法を使いながらは生み出せないし、魔力を増やす速度よりも消費が早ければ必然的にクラウディウスも無力化される』
「じゃあ、クラウディウスの魔力が尽きるまで耐久すればいいってことですか?」
『……それをやるには、七大天族級の実力者があと100人は必要だと思うがな』
無理じゃん。
「……出てくる魔獣を殺し続ければそのうち魔力が尽きるのでは?」
「ニーナ、発想が脳筋過ぎて怖いぞ」
『方法はある。クラウディウスは確かに無限のような魔力を持っているが、本当に無限な訳じゃない。そして、クラウディウスだって傷を再生させるときには魔力を膨大に消費する』
「やっぱり、絶え間ない攻撃が大切ってことですね」
「傷がつけられるような実力者じゃないと意味がないって聞こえたけどな」
うーん……もう少し情報が欲しいな。少なくとも今の情報だけだと結局はみんなが好き勝手に戦って魔獣を倒しながら傷を与えればいいだけになるからな。
「実際、クラウディウスはどうやって何度も復活してるんだ? ミカエルたちは何回もその身体を滅ぼしている訳だろ? やっぱり魂が転生してるとか?」
『そこは正直わかってないんだよね……でも、転生するとしたら肉体そのままってのもおかしいと思わないかい?』
「いや、思わないかいとか言われてもわからないよ」
まだ顔すらも見たことがないんだから。
『……あくまでも推測でしかないんだが、クラウディウスに本体がいるとか考えられないか?』
「本体?」
『ルシファー、それはどういう意味だい?』
『そのままの意味だ。もし、クラウディウスのあの巨体がただの端末だったら……それを殺してもクラウディウスが滅びないのは当たり前だろう?』
うーん……つまり、もしかしたら天族たちが戦っていた竜のような姿はあくまでも攻撃用の肉体であって、もしかしたらそれを操る本体がいるかもしれないって話? そんな馬鹿な。
『本体でもいてくれない限り、何度殺しても復活するんだから戦うだけ無駄だろう』
「希望的観測だけで仲間を危険な目には遭わせられない」
ルシファーの意見が本当だったら確かに希望になるかもしれないが、そんな荒唐無稽な推論だけで仲間を危険な目に遭わせることは俺にはできない。ここにいるみんなは、終末に抗うために協力してくれた仲間であって、俺の為に好き勝手使えるゲームの駒じゃないんだ。
「……今までの話をまとめると、魔獣を大量に召喚する不死身の怪物ってことでいいですか?」
アイビーが端的に纏めた言葉に、全員が顔を顰めた。
「勝てるの?」
「さぁ?」
エリナに純粋に聞かれてしまったが、普通に考えて勝てる訳がないような情報しか出てこないな。
「……本体がどうとか、取り敢えずは殺してから考えればいいのでは?」
「ニーナより脳筋だなこの師団長」
「テオドールさん、この人って本当に年上なんですか?」
許してやってくれ……リエスターさんは面倒くさがりの変人なだけなんだ。
『肯定。死後、探索、効率』
『レミエルそっくりと思っていたら、本当にレミエルが賛成するんですか……困ったものですね』
「いや、ガブリエルも似たようなものでは?」
『は?』
「テオドール、それは私のことも馬鹿にしているのか?」
え、うん……微妙に?
「喧嘩が始まったわね……いつも通りと言えばいつも通りなんだけれど」
『なぁお嬢ちゃん。終末に抗うなんて悪いことは言わないからやめないか?』
「ガルガリエル、まだ言っているの? ここで退くなんて絶対に嫌よ」
『情けないのぉ、ガルガリエル』
「しかし、どうにもできなさそうなのは本当だぞ、オファニエル」
『ミカエル様とサリエル様がいてなんとかならないことなんぞないわ』
天族まで喋り始めたせいで一気にやかましくなったな……やっぱり俺たちに作戦なんて最初からいらなかったのでは?
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