第162話 船上の双子

「かっこよく作戦会議したかったなぁー」

「まだ言ってるんですか? あの人たちと作戦会議は無理だと思います」


 海をぼーっと眺めながら呟いたら、いつの間にか横にいたエリナに否定されてしまった。でもまぁ……俺も無理かなーとは思っていたけどここまでとは思わないじゃん。天族と人間がわちゃわちゃやっている姿は平和的にいいかもしれないけど、俺としてはもっと格好つけたかったんだよ。


「……テオドール先輩は、この戦いが終わったらなにかしたいとかあるんですか?」

「なんにも」

「え」


 いや、え、とか言われても……そもそもクラディウスを倒そうとは思っているけど、それが終わったら好きなことをしたいなとかは思ってないんだよ。俺としてはいつも通りに敵と戦って、また日常に戻るだけで。


「別に終わったら何かをしたいとか気負う必要はないんだよ。ただ敵だから倒して、その後はまた学生として楽しんでから……将来は騎士になりたいなとか、貴族になりたいなとか、色々と考えればいいんだから」

「先輩、貴族にはなれませんよ」

「物の例えだよ」

「例えでもなれないものをあげるのはだめだと思います」


 ぐぬ……じゃあ商人とか?


「まぁ、テオドール先輩が何も考えていないってことはわかりました。それはそれで貴方らしいのかもしれませんね……そういうところは、ちょっと好きです」

「逆に聞くけどどういうところが嫌いなの?」

「そういうところです」


 はぇ?


「女性はもっと繊細に扱えと、親から学びませんでしたか?」

「いや、エリナに親いないじゃん」

「だからそういうところなんですよ」


 デリカシーがないって言いたいのか? 俺は普通に人に気づかいしないけど……そんなにデリカシーなかったかな?


「やれやれ……テオドール先輩のお父様とお母様の顔が見てみたいですね」

「今度会わせてあげようか?」

「……そ、その、挨拶はもう少し私の身体か成長してからでもいいですか?」


 なんで身体の成長が挨拶に関係あるんだよ。


「それはねぇ、エリナがなんとなくテオ先輩のことを気に言ってるからだよ!」

「あっぶねぇ!?」


 いきなり背中からエノが勢いよくぶつかったてきたせいで、船から海に向かって落ちるところだった。勢いよく振り返るとエノがゲラゲラ笑っているので、多分わかっててやりやがったな。


「お姉ちゃん?」

「あははは、はは……ごめんなさい」


 腹を抱えて笑っていたエノは、エリナの顔を見てからどんどん顔を青褪めていき、素直に謝ってきた。俺の方からエリナの顔が見えなかったんだが、どんな顔をしていたらあのエノがこんなに素直に謝るのだろうか。恐ろしくて確認できないんだが。


「全く、私たちにとって恩人とも言える人なんだからもっと丁寧に接して」

「恩人かなぁ?」

「恩人なんて言われるようなことしたかぁ?」


 エリナの言葉に対して、エノと俺が同時に首を傾げた。


「お姉ちゃんはまだしも、なんでテオドール先輩も一緒に首を傾げるんですか」

「いや、マジでそんなことした覚えが全くないから……俺ってお前らのグリモアを引き出した以外になんもしてないけどな」

「はぁ……グリモアがあるかどうかというのは、とても大きなことなんですよ? 私たちみたいな王都外郭に住んでいる薄汚い孤児の出身であっても、グリモアを持っているだけで簡単に仕事が手に入ったりするんです」


 そうなのかぁ……ある程度の実力を証明するものって扱いなのかな?


「だから、テオドール先輩は私たちにとっては生きる術をくれた恩人みたいなものです」

「ねーエリナ、ちょっと遠回りじゃない?」

「なら直接的ってなに?」

「もっとこう、直で告白した方がいいんじゃない? だから好きになったんです! みたいなぁっ!?」


 おぉ……なんて素早い動き。エノが反応することもできずに頭を掴まれてしまったぞ……しかもジタバタ暴れても外れないし、どう考えても頭蓋骨がミシミシ言ってる。エリナってそんな馬鹿力あったんだ。


「別にそんな恥ずかしがらなくてもいいじゃん。俺は他人から好きって言われるの嬉しいけどな……エリナもエノも好きだよ」

「テオドール先輩もされたいみたいですね」

「嘘です、はい、すいません」


 こえぇよ。


「はぁ……別にいいんですよ。テオドール先輩が私のことをどう思っていようとも……ただ、お姉ちゃんには煽られてムカついているだけですから」

「離してからそういうこと喋って!? 私の頭蓋骨が粉砕されるから!」

「おぉ……思ったより元気だな、エノ」

「テオ先輩も止めて!? せっかく集めた戦力が1人減っちゃうから!」

「そりゃあ大変だ……ラファエルに後で治してもらえ」

守護者の鎧ラファエル持ってる人が私の頭蓋骨を粉砕しようとしてるんだけど!?」


 そりゃあ、双子の姉妹でも言ったらダメなこと言ったんだから甘んじて受け入れるしかないよね。

 それにしても、この姉妹は仲がよくていいねぇ……いや、俺の周りに仲が悪い兄弟とかいないんだけどさ。エリクシラが実家と仲が悪いくらいで、別に俺の周囲に兄弟仲が悪い奴いない……って言うか、兄弟いる人が少ないか。


「……あれ、なにしてるの?」

「ん? あぁ……うん、姉妹でじゃれあってるだけだよ」


 船内から疲れた顔をして出てきたヒラルダが、頭を掴まれて悲鳴を上げているエノを見つめて俺に説明を求めてきたが、それ以外に説明する方法なんてない。

 ヒラルダも明らかに適当な俺の説明を聞いて、特に納得するつもりもないのか頷くだけで俺の隣に立った。


「海が綺麗ね」

「そりゃあ……海はいつだって綺麗だろ」

「……魚、食べたくなってきた」

「はい?」

「え? 海を見てたらそう思うのが普通……じゃないの? 私、実家ではよく釣って食べてたけど」


 野生児か?


『ヒラルダ、少しはしたないですよ』

「ガブリエル……そっか、ガブリエルの力を使えば海の魚も獲り放題──」

「おーい、誰かこいつを止めてくれー」


 なんで七大天族のグリモアを持っている奴ってのはこう我が強くてどこか常識が抜け落ちているんだろうな……いや、エリッサ姫、アッシュ、エリクシラもそんな感じだから強大なグリモアを持っている奴は全員そうなのか? それとも認めたくないけど……類は友を呼ぶってことなのか? 俺が変人だからなのか?

 誰でもいいから取り敢えずこの状況から俺を救ってくれないかな……エレミヤでもいいから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る