第159話 最大の秘密

 これまで、終末の竜の存在を知ってから色々なことを考えてきた。そもそもその成り立ちとか、存在理由とか、対抗手段とか、色んなことを本気で考えてきて……ようやくここまで来た。

 終末に抗う力はみんなが貸してくれる。後は……俺の気が済むまで抵抗するだけだ。


「敵は空を覆うような巨体を持っている……らしい!」

『クラウディウスは姿形なんてものは好きに変えることができるぐらいの力は持っている。最初からこういうものだと想像して戦わない方がいいぞ』

「みんなを鼓舞しようって時にいきなり横から口出してくるのやめない?」


 いや、重要な情報だけどさ……それにしたってタイミングとかもっとあるじゃん。なんで今から頑張るぞって時にそういうこと言うのかな。


『引っ込めルシファー』

『そーだそーだ』

「……天族ってこんなんでいいのかしら?」

「気にしない方がいいぞ?」


 サリエルの野次に対して同調するような声を出したガルガリエルに、頭を抱えているエリッサ姫を取り敢えず慰めてやる。なんでこれから決戦だって話をしているのにこうも話がグダグダになってしまうのか。


「さて、じゃあ仕事抜けて行こうか」

「……いや、普通にセルゲイ総長には話を通してあるので、リエスターさんが学園を離れるのは普通に想定されてると思いますよ?」

「え、そうなの? 私は何も言ってないけど」


 師団長が何も言わずに現場を空けてもいいと思ってるのか、この人やばいよやっぱり。俺たちは学生だからある程度授業をサボったところで別に大した影響はないけど、流石に師団長をサボらせておいて何も言わないのはやばいと思ったから、先に父さん経由でセルゲイ総長には話を通してあるんだよなぁ。


「テオドール先輩、もし私たちが負けたらどうなるんですか?」

「え? まぁ……文明が滅びるんじゃない? 自分が死んだ後のことなんて全く興味なかったから考えたこともなかったな」

「えぇ……テオドール先輩って時々頭おかしいこと言いますよね」


 前はもうちょっと俺に対してリスペクトを感じたんだけど、たった数日で一切遠慮ってものがなくなったんだけど……誰だよこの双子に俺に対する対応の仕方が教えた奴。絶対にエリクシラかアイビーだと思うんだけど。


「それで、どうやって東まで行くんですか?」

「エレミヤが船買ってきたって」

「うん」


 そういうところは流石公爵だよな……まぁ、王都が海に面しているから、クーリア王国の貴族は結構船を持ってたりするのが当たり前だったりするみたいなんだけども。


「なるべく頑丈な船で、乗組員も経験豊富な人たちを雇ってあるから大丈夫だよ。東の海に行くって言ったら自殺に付き合うつもりはないって最初は言われたけどね」


 そりゃあそうだ。そもそも船乗りたちにとって東の海は海獣によって殺される場所でしかないんだからな。とは言え、俺達にはヴァネッサが取ってきてくれたフォルネウスの残した遺物がある。これで海獣を制御することができる……はず! 指の使い方なんて全く思い浮かんでないから知らないけど。


「出発は明日の明朝。王都から北側をぐるっと1日かけて回って、北東の港で1日休んでから一気に東の海を抜けるって形で。各自準備は怠らないようにしてくれると助かるけど、まぁ生活用品とかは別に出発前に王都で買ってもいいからそこまで気負わなくても大丈夫」

「……遠足かな?」


 いや、確かに遠足みたいなこと言ってる感じはするけど、一応は世界の命運をかけた戦いに行くんだからね?


「それじゃあ、死なないようにだけ気を付けて戦おうって話で今日は解散……あ、今日は派手にグリモア使って訓練場で暴れるのは禁止だから」

「な、なんで!?」

「当たり前だろ」


 ニーナは絶対にやるだろうと思ったから先に釘を刺したんだけど、予想通り真っ先に反応して衝撃を受けているのはニーナだ。明日には出発して明後日には世界の命運をかけた戦いをしようって話をしているのに、なんで訓練場で暴れることを考えているのか理解できないわ。



 結局、みんなが俺に力を貸してくれることになった。七大天族の力を持つエレミヤ、ヒラルダ、アイビー、リエスターさん、ニーナ、エノ、エリナ……それに加えて、エリクシラ、アッシュ、エリッサ姫もついてくるし、ヴァネッサも俺と一緒に戦うと言ってくれている。

 最初は俺とエレミヤだけでなんとかならないかなとか考えていたんだが……ここまで頼れる仲間が増えると逆にむず痒いな。

 天族の連中も自分たちが後世に残してしまった汚点を片付けるためならば協力は惜しまないと言ってくれているし、これが本当に大事な戦いになるのだと否応なしに感じてしまう。


「……寮に帰らないんですか?」

「エリクシラ?」


 既に太陽は水平線の向こう側に落ち、学生は全員が寮に帰って就寝している時間なのに、何故かエリクシラが古書館にやってきた。


「ふぅ……眠れないんですか?」

「いや、そんなことはないんだけど……ここまで色々あったなって」

「本当ですよ……貴方の初めて会ったのもこの古書館でしたね」


 そうだったなぁ……もう2年も前のことだけど、あの時は確か。


「俺が試験に出なかったせいで、自分が最初に試験を受けさせられたって怒ってたな」

「私は魔法騎士として戦うのが大の苦手なのに、いきなり最初に試験を受けさせられて恥をかいたんですから、怒るのも当たり前です」

「でも、グリモアを使ってなんでもありで戦えば普通に強いじゃん」


 少なくとも、真正面から戦ってエリクシラに勝てる生徒なんて殆どいないと思うけどな。


「魔法騎士科はそういう場所じゃないですから。あくまでも魔法騎士としての実力ですから……いや、普通に考えて試験に出ない人が一番意味わかんないんですけどね。しかもその後一瞬で250位まで序列あげますし」


 あれは250位の奴がいきなり喧嘩売ってきたのが悪いだろ。


「はぁ……なんか、あの頃からは考えられないぐらい話が大きくなりましたけど、今考えると貴方はあの時から何も変わっていませんね」

「そりゃあそうだろ。俺は何年経っても俺のままだし、エリクシラだって大人になっても変わることなんてないさ」

「……大人になったことがあるように言いますね」

「そりゃあ、俺は余所の世界から飛ばされてきた存在だしな」


 別の世界でしっかりと生きていた記憶が曖昧だけども、魂がそれを記憶しているみたいでやっぱりそういう部分はどうしても出てきちゃうよな。


「……は? 今、なんて言いましたか?」

「ん?」


 あれ? 俺の魂が余所の世界から飛ばされてきたって言ったことなかったっけ? なんかエリクシラにはそこら辺を説明した記憶が……あ、魂が2つあるって話しかしたことなかったわ。


「忘れて?」

「殴りますよ」


 無理か。

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