第158話 頼れる仲間
「止めてくださいよ」
「はい、すいません」
アッシュとエリナの戦いが激化している横で、エリッサ姫とエノの戦いもどんどんと激化していたのだが……俺とエレミヤはそれをずっと眺めていただけで何もしてなかった。
しばらく放置していたら……4人のグリモアの攻撃が学園にまで影響を及ぼし始めたところでアイビーとエリクシラが止めに入り、全部終わった後に俺とエレミヤはエリクシラから怒られていた。
「言い訳は?」
「ない、かな」
「なんだかんだ言って、グリモアを制御するには本気でやらせるのが一番いいかなって」
「つまり何も考えていなかったと」
そうとも言う。
「いってぇ!?」
肩を竦めたら分厚い本で頭を叩かれた。エリクシラ……昔の俯いて自信がない感じのお前はどこへ行ってしまったのか。今ではこんな風に人前で俺の頭を殴れるぐらいには強くなったんだな。
「それで? こんな所でぼーっと後輩の戦いを眺めているってことは準備ができたってことでいいんですよね?」
「あー……そのことなんだけど、冗談抜きでマジで準備は終わった。ヴァネッサが遺跡まで取ってきてくれたこの鍵……いや、指か? まぁどっちでもいいけど、とりあえずこれがあれば東の海で暴れまわっている海獣はなんとかできるらしい」
俺がヴァネッサから貰った指のミイラを見せると、エリクシラは胡散臭いものを見るような目で俺の手の中にある指を見た。確かに、こんなもので王国の人間たちが作った船をあっさりと破壊してきた海を越えられるのか心配だとは思うけど、俺は父さんの中に宿っていたバラキエルとヴァネッサのことを信じたい。
「じゃあ、そろそろ本格的にクラディウスと戦うことにしたんだね」
「あぁ……悪いが付き合ってもらうからな、エレミヤ」
「勿論、僕は最後まで付き合うつもりさ」
ま、元々エレミヤと俺がフローディルと敵対したからこそのクラディウス対策な訳だし、エレミヤは強制的についてきて貰うことは確定しているんだ。残りは好きに俺についてくるのかついてこないのかを選択すればいい。まぁ、本人がついてこないって言っても、七大天族はなにかしらの理由をつけて手伝ってくれそうだけどな。
「……私も行きます」
「エリクシラが? 出不精で何もしたがらないエリクシラが?」
「私のことをなんだと思ってるんですか……普通に考えて、ついていく気もないのにここまで協力する訳ないじゃないですか。私だって2000年前に滅ぼした王朝とか、それよりも遥か前に存在を消されてしまった天族とか、色々と知りたい過去があるんです。私にとってクラディウスなんてどうでもよくて、あるのは知的好奇心だけですから」
「知的好奇心だけで世界を滅ぼせるかもしれない竜と戦うのか? イカレてると思うぞ、エリクシラ」
「多少は頭がおかしくないと、貴方のような人とは付き合っていけませんから」
それは俺の頭がおかしいって言ってるのか?
「さて……明日には全員を集めて最後の休みを楽しむとするかな」
「……最期にならないといいね」
「それは俺達次第だな。終末の竜を倒されなければどちらにせよ俺たちは死ぬんだからな」
クラディウスが人間を滅ぼそうとするのなら、俺がそれに抗ってやる。終わりが訪れるからとじーっと待っていられるほど、俺はお利口な頭をしていない。だからと言って、俺の自殺みたいなこの戦いにみんなについてきて欲しいなんて思ってもいない。まぁ、天族は自分たちの責任みたいなもんなんだからついてこいとは思ってるけど。
「……実際についてくるかどうかは自分で決めろ。命を失うかもしれないから本当は付いてきて欲しくないんだ、なんて言ったらどうなるか、わからないのかなぁ?」
「わからないからあの人は女に恨まれるんですよ」
「ふんっ!」
「ぐはぁっ!?」
「ね?」
「みたいだね」
最後の鍵を手に入れてクラディウスと戦うことができるようになったことを伝え、命が惜しい奴はついてくるなと言ったら真っ先にニーナに殴られた。全く警戒していなかったのでそのまま古書館の本棚に突っ込んで上から分厚い本が何個も落ちてきた普通に痛い。
エレミヤとエリクシラは予想通りみたいな顔をしているし、ヒラルダやアイビーは呆れが混じった顔をしている。アッシュとニーナは何故か怒ってるし、エノとエリナの双子は興味なさそうな感じでこっちを見てすらいない。
「あの……普通に考えて、そんなこと言ったら殴られるとか考えたことないの?」
「だから、そんな考える頭があったらそんなこと言いませんって。この人にはないんですよ、そこら辺のことを考える頭が」
エリッサ姫の心底呆れたって感じの言葉に被せるようにエリクシラが否定する。俺は未だになんで殴られたのか分かっていないから誰か解説してくれ。
「ここまで巻き込んでおいて、今更命が惜しかったらついてくるなだと? ふざけるなよテオ……私は、お前に命を預けたつもりだったんだが?」
「テオドール先輩の言う仲間が、守るべき庇護対象でしかないことはわかりました」
「傲慢だな。俺はお前のことを戦友だと思っていたんだが?」
みんな……なんでそんなに簡単に命をかけられるのだろうか。俺は、自分が死ぬのが怖い。終末の竜なんて意味がわからないものに滅ぼされるのが嫌だから、こちらから出向いて殺しに行こうって話なのに、何でみんなは俺のことを信頼して命を預けるなんて簡単に言うんだろうか。
「…………今までの絆とか全く知らないから何とも言えないんだが、ここに集まっている人はみんな大なり小なりテオドールを信じているんじゃないか?」
「リエスターさん……でも」
「それ以上言ったらもう一発殴る」
「ちょ、流石に野蛮すぎるだろ!?」
もう日頃の鬱憤の為に殴ってないか!?
「そんなに変かな。大切な人を守る為に命をかけることが」
「エレミヤ?」
「僕はこの国のことを愛しているし、テオドールに独りで死んで欲しくないからついていくってずっと言ってる。君は僕のことは巻き込んでもいい人だと思っているみたいだけど、他のみんなだってそう思って欲しいんじゃないかな?」
巻き込んでも、いい人。
「巻き込まれてもいいとは思ってませんけど……確かに、私はテオドールさんと最初に知り合った学生ですし、一緒に古代文字の解読とかしてきましたから。今更じゃないですか?」
この中で真っ先に否定しそうなエリクシラが、エレミヤの言葉を肯定している。もしかして……俺が勝手に1人で走っていると思っていただけってこと?
「さ、早く立って。僕たちのまとめ役は、テオドールだろ?」
「同感だな。私はテオについていく」
「私としてはさっさとエリクシラ派閥ってのをやめて欲しいんですけど?」
「それは貴族の名前的な話だから無理だって言ってるだろ。諦めろ」
はは……頼もしいやら、やかましいやら。
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