第156話 光の力

玲瓏なる羽衣ラグエル

「?」

「えぇ……」


 エノは昨日の一件でグリモアを発動できるようになったみたいだけど、エリナはラファエルの力が使えないらしい。


「どうなってんの?」

『うーむ……どうも、エリナ少女の心の問題だと思う。私の力は完全に譲渡しているんだが、使いこなせていないな』


 ラファエルは全ての力を渡しているらしいが、どうやらエリナ側に問題があって中々上手くいっていないらしい。


「エノ、なんかわかるか?」

「んー? さぁ? グリモアなんてよくわからないから、テオ先輩の方が詳しいんじゃないの?」

「いや、これは個人の問題だからずっと近くにいたエノの方が絶対に詳しい」

「えー」


 妹のことなんだからお姉ちゃんがしっかりしなさい。


「私、駄目なんですか?」

「いや、駄目なんてことはないけど……」

「役立たず、ですか?」


 おっと?


「お姉ちゃんに比べて、やっぱり私は無能ですか?」


 んー……ここら辺が駄目なのか? なんとなくエリナの持っている心の闇っぽいものは見えてきた気がするけど……まだちょっと浅い気がする。


「うわっ!? これ速いよー!?」

「お、お姉ちゃん!?」


 エリナの意識を何とかしないといけないと思っていたら、玲瓏なる羽衣ラグエルを使用したエノが制御できない速度で上空に飛んで行ってしまったので、思考が中断された。速すぎて制御できないのまでは分かるんだが、なんで上に向かって飛んでるんだろうか。仕方がないので全能の光ルシフェルで空を飛び、なんとかエノを掴もうと手を伸ばしても、思ったより速くて捕まらないので身体を使って抱きしめることで止める。


「あ、ありがとうテオ先輩」

「気にするな」

「やっぱり……テオドールは幼児性愛者だったのよ!」

「ついにはっきり口にしやがったなポンコツ姫」

「なっ!? 誰がポンコツよ!」


 おめーだよ。

 玲瓏なる羽衣ラグエルは自力で飛ぶような能力がないらしので、俺が抱きしめたまま降りてくると、エリナが近寄ってきてエノの頭を叩いた。


「いて」

「お姉ちゃん! テオドール先輩に迷惑かけて!」

「まぁ、別にそれはいいんだけどさ……」


 それより、さっきエノが上に飛んで行き、エリナが心配の声を張り上げた時に全身から淡い光があふれ出るのが見えた。もしかして……エレミヤのグリモアのようになにかしらの条件つきで発動するグリモアだったりするのか? 条件付きのグリモアは絶対数が少ないから頭の中から勝手に除外されていたんだけど、それはあり得るかもしれない。


「ラファエル、お前が力を使う時に気にしていたこととかあるか?」

『……私は、他人を守る時にしか力を使ったことがない。私の鎧はあくまでも他人を守るための力だからだ』

「なら、それが条件か?」


 他人を守るためにしか使うことができないグリモア。エリナが使えなかった理由はそういうことなのか?


「よし、なら俺が相手になるから2人がかりでかかってこい。エノはエリナを、エリナはエノを守ることを考えて戦えよ」

「えー?」


 おいお姉ちゃん。普通に妹は守ってやれよ。


「大丈夫……お姉ちゃんは好きに戦っていいよ。私は守るから」


 それだけ呟いたエリナの身体から、再び淡い光が溢れ出す。やはり……ラファエルの力は他人を守るために使われる力か。

 俺がウルスラグナを抜いて構えた瞬間に、エノが俺の遥か後方まで移動していた。確かに速いが……ルシファーの言っていた通り、直線的な動きしかできないらしい。更に、エノは玲瓏なる羽衣ラグエルの出力を全く制御できていないので、遥か後方まで移動している。これではどれだけ速くても意味はないだろう。

 後方からそれなりの速度で近づいてきたエノの拳を避け、蹴りを受け止めてから足をそのっま掴み、エリナの方へと投げる。


「ん?」

「嘘!?」


 エリナの方に向かって投げた時に、隠し持っていたらしい短剣で腕を斬りつけられていたらしいが、肌を覆っている俺の魔力を斬ることはできなかったらしく、ちょっと木材で叩かれたぐらいの衝撃しかこなかった。多分、エノは本気で斬りつけたんだろうけどな。そもそもの体格差からくる力の差ってのもあるけど。

 エリナは飛んできたエノを受け止めてから、こちらに向かって炎の弾丸を複数発射してきたが全能の光ルシフェルで弾く。


「避けるか防げよ」


 全能の光ルシフェルを大きく広げて、翼からレーザーを射出する。1本でも並みの魔獣を消し飛ばせる威力があるが、それが12本……全部を束ねて発射すればまず防ぐことは不可能なはず。


「いっ!?」

「私が、お姉ちゃんを守る」


 エリナの身体から溢れていた光はあっという間に身体を包んでいき……鎧になってエリナの身体を包んだ。


『エリナ少女、光は私の敵ではない。信じる力が君の大切な人を守る鎧となる』

「信じる、力」


 光る鎧を身にまとったエリナは、エノの前に出てそのまま光線を全身で受け止めた。


「……あれ、大丈夫なのか?」

『腹は立つが問題ない。ラファエルの鎧は光を吸収して自らの力とする。つまり……お前が放った光線は完全に無力化される』


 おぉ……マジか。

 エリナの身体を包んでいた光は、俺が放った光線を吸収して更に輝きを増し……完全に吸収してしまった。


「これが私の力……これが、大切な人を守る鎧」

『そうだ。エリナ少女……守護者の鎧ラファエルを上手く使え』

「うん」


 鎧を身に纏ったエリナが手をかざすと、吸収して束ねた光線がそのまま発射された。

 避けるか、それとも弾くか……俺の思考が一瞬だけ止まった隙にエノが俺の背後に回り込んでいた。さっきまでは全く制御できていなかったはずの速度を無理やり落として制御しているらしい。その速度を落とす方法は、加速している途中でグリモアを解除するという力技だ。しかし、俺の背後に回り込むということはエリナが放った光線の範囲に入るということになるが。


『ラグエルは光を自在に操る天族だ! 最大まで加速すればそもそも光の影響を受けない!』

「マジか」


 つまり、このままぼーっと突っ立ってたら俺だけが光線に巻き込まれるってこと?


「これで、どうだぁっ!」


 偽典ヤルダバオトを即座に発動して放たれた光線の魔力をある程度吸収してから全能の光ルシフェルで弾き飛ばし、背後から襲ってきたエノの足元に向けて翼から光の矢を発射して視界を悪くしてから、偽典ヤルダバオトで吸収した光の魔力を斬撃に変換して放つ。同時に、左手のウルスラグナからエリナに向けて斬撃を放ってから背後に高速で回り込んでから身体を押さえつける。


「きゃあっ!?」

「なっ!?」

「……ちょっと大人げないわよ」

「1つしか違わないんだが?」


 確かに負けそうになってちょっと本気出したけど……そんな言われることある?

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