第153話 問題児の双子

 オファニエルの話をまとめると、人間どころか世界そのものと関わることも嫌になったラグエルとラファエルは、オファニエルの力を使って自身の存在を秘匿するように頼んだってことだ。つまり、今のまま街中を歩いたりして探したところで見つかる訳もなく、ただ時間だけを浪費することになる。しかし、オファニエルは自身が秘匿したものの場所がある程度わかるらしく、それを頼りに探せばいずれはラグエルとラファエルが見つかるって話だ。

 かなり好転している気もするが、実際にはまだ七大天族を集める段階なのでそこまで好転している訳でもない。1歩ずつ進んではいるが、その歩みは遅々としていると言えるだろう。


『こっちじゃ』

「まさか学園内にいるとはな……」

「本当に驚きだよ」


 早速、翌日にオファニエルに案内してもらおうと思ったのだが……なんとラグエルとラファエルは学園内にいることがわかった。普通に考えて王国から離れた場所とかにいるのかと思ったけど、まさか学園内にいて、それについて誰も気が付かないとは。サリエルなんかも気が付かないのかな。


『サリエル様は儂の秘匿による影響を受けないだけで、秘匿そのものを見破れるわけじゃないのでな。逆に、儂が本気を出さないと見るだけで看破できるルシファーがおかしいんじゃよ』

「……でも、秘匿を破ることはルシファーにもできないんだろ?」

『そりゃあそうじゃ。儂はその秘匿の力に特化した天族……戦闘自体はそれほどできんからな』


 秘匿に特化した天族か……そもそも、天族だからって全員が戦闘能力を持っている訳じゃないってことだな。人間だって強い奴と弱い奴がいるんだから、天族にだって戦える奴と戦えない奴がいたっておかしくはない。


『ほれ、いたぞ』

「あれは……」


 あれは、って言われても俺は学園内の他の生徒とか殆ど気にしないから知らないよ。


「確か、今年入学してきた問題児の双子じゃないか?」

「……なんでそんなに学園内の話に詳しいの?」

「お前が知らなさすぎるだけだ」


 えー……そんなことないけどなぁ。

 それはともかく、アッシュが言っていることが本当なんだったら、あの双子は俺たちの後輩ってことでいいのかな。片方は金色の、もう片方は銀色の髪を持つ双子。


「男? 女?」

「どっちも女だが……身長が低いからあまり見分けは付かないな」


 だよね。普段からそれなりにニーナ以外、胸のある奴ばっかり見てきたから……胸がある=女で、胸がない=男みたいな判定してたわ。


「ねぇ、さっきからこっちを見てる変態がいるよ?」

「本当? 気持ち悪いね」

「ね」

「……叩きのめしていいか?」

「落ち着けアッシュ」


 確かにちょっとムカついたが、後輩に対してはもう少し広い心ってものを見せてやれよ。


「ちょっといいか? 君たちに用事があるんだが」

「この人、誰?」

「2年生の序列2位の人じゃないかな?」

「それ本当? ならこの人を倒したら──」

「私たちが2年生を含めて最強ってこと!」


 こちらの話なんてガン無視して、いきなり同時に攻撃してきたので普通に2人の腕を掴んでそのまま放り投げた。確かにちょっと素早かったけど……最近は天族みたいな化け物みたいな奴としか戦ってないから、随分と遅く感じたな。

 空中で態勢を立て直した双子は、着地すると同時に涙目になった。


「つ、強いよぉ」

「調子に乗ってごめんなさい、先輩」

「……そういうのは、殺気と魔力を隠してからやれ」

「っ!?」


 謝るような仕草と同時に左右から放たれた魔法を、全能の光ルシフェルで弾き飛ばす。全身から漏れ出ている殺気と魔力から何かする気満々って感じなのが隠せてないんだよな。

 流石に今度は本気だったのか、俺が魔法を弾き飛ばしたらさっきまでの涙目を引っ込ませて身を寄せ合っている。驚いた表情、というよりは信じられないものを見る目って感じ……多分、自分より強い奴に会ったことがないんじゃないかな。


「先輩、何者ですか?」

「テオドール・アンセム。ちょっとお前らのグリモアに用事があってな」

「グリ」

「モア?」


 本当にキョトンとした感じの表情……オファニエルの言う通り、どうやらラグエルとラファエルの力はまだ解放されていないらしい。しかし、その前に色々とやることがあるな。


「ほら、お前たちの名前を教えてくれよ」

「名前……どうして?」

「グリモアに用事があるんでしょ? なんで名前?」

「あのなぁ……普通に考えて、グリモアに用事があるから本体のお前らには興味ないなんて言う訳ないだろ」


 どんな鬼畜だよ。


「……エノ」

「エリナです」


 ニーナと同じ、スラム出身者か。ニーナの姓であるヴァイオレットも自分で名付けたって言ってたからな。この国には、そういう境遇の人間が多くいるってことだな。

 クロノス魔法騎士学園内で、魔法騎士として才能を示し続ければ、スラム街の出身であろうとも生きていくことはできるからな。


「金髪がエノで、銀髪がエリナだな。覚えた」

「テオドール先輩は、どうして私たちのグリモアに興味があるの?」

「テオ先輩、どうして?」


 おい、エノがしれっと俺の名前を略したぞ。あれか? ニーナといいスラム街出身の人間は人を略称で呼ぶのが普通なのか?


「アッシュ、どこまで教えればいいと思う?」

「全部だ。これから巻き込まれることを考えれば、全部説明する以外に誠意ある行動はできない。天族、グリモア、クラディウス、魔族、これから起こることを全て話してやれ」


 はー……面倒くさいけど、仕方ないか。

 なるべくわかりやすいように話を始めたのだが……なんとなく情緒が幼女な2人に対して説明するのは骨が折れる。スラム街で生まれてまともに感性が育たずにここまで生きてきた結果だろう……この双子が問題児と学園で呼ばれているのも、そういう関係だろうな。ニーナは冒険者として生きていくことで常識を身につけていったんだろうが、この2人はどうやらそのまま学園に入学したらしい。


「で、お前たちにその七大天族の力が宿っている……らしいから、探しに来たってこと」

「……エリナ、わかった?」

「なんとなく?」

「安心しろ。俺もなんとなくしか覚えてない」

「おい」

『やれやれ……話は終わったかの? ならさっさと秘匿を解くぞ』

「待ってくれ、まだ2人には色々と整理する時間が必要だ。それに、この2人にそんな強力なグリモアが制御できるからわからない」


 アッシュのグリモアが暴走したように、2人のグリモアが暴走しないとは限らない。ここは一度みんながいるところに連れていくしかないだろう。


「……テオドール、なんとなく2人に対して庇護欲を刺激されていないか?」

「うるせぇ」


 だって……普通にかわいそうだろ。

 身を寄せ合いながら首を傾げている双子を前に、俺は内心で呟くことしかできない。

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