第152話 秘匿の月光
『……つまり、クラウディウスに対抗する為に力を貸してくれる天族を探している、と?』
「まぁ……大体はそんな感じかな」
俺が殴り飛ばした衝撃で未だに意識が帰ってこないアッシュの身体で、オファニエルが勝手に喋っている。俺は取り敢えずでオファニエルに戦力を欲していることを話した。最初は滅茶苦茶疑われていたけど、サリエルとミカエルが俺の近くにいたことに気が付いてからはしっかりと話を聞いてくれた。
『あ? なんでオファニエルの野郎が……俺、こいつ嫌いなんだよ』
『は? なんじゃクソガキか』
「え、仲悪いの?」
「そんなことないはずなんだけど……流石に部下の個人的な付き合いまでは知らないなぁ」
復活してきたエリッサ姫が近づいてきて、最初にガルガリエルがオファニエルの気配を感じて先制攻撃、それに反撃するような形でオファニエルがガルガリエルのことを鼻で笑った。ガルガリエルの元上司であるミカエルにちらっと視線を向けながら聞いてみるが、それほど情報は知らない模様。
『ミカエル様とサリエル様、それにウリエル様までいらっしゃるのですか』
「ここにいはいないけど、レミエルとガブリエルもいるよ」
『なんと……では、本当にクラウディウスを討滅するおつもりなのですね……わかりました。どれほど力になれるかわかりませんがこのオファニエル、力をお貸ししましょう』
ふむ……天族の中にもやはり明確な上下関係があるらしい。今までは七大天族とばかり話していたから上下関係なんて口だけなのかなと思っていたけど、オファニエルはどうやらしっかりとミカエルやサリエルのことを尊敬しているらしい。ガルガリエルは社畜の精神を背負ってミカエルに反逆しようとしてたけど。
「それで、オファニエルに相談があるんだけど」
『なんじゃ』
なんでミカエルにはあんなに畏まってたのに、俺に対してはちょっと尊大な態度なんだよ、絶対にルシファーのせいだろ。
「残りの七大天族、つまりラグエルとラファエルが見つからないんだけど知らないかなって」
『んー? ラファエル様とラグエル様は確かに儂の秘匿の力を使って存在を隠しているが』
「マジ?」
そりゃあ、見つからない訳だ。ルシファーだって秘匿されているかどうかを見分けることができても、本気でオファニエルが隠しているものは暴けないって言ってたからな。
『ラファエル様は争いごとを嫌い、ラグエル様は他人と関わるのを嫌って儂に自らの存在を秘匿するように任せてくださったのじゃ。儂の力がどこかで暴かれていなければ、一度も人間たちの中にその力を扱えるものは現れていないじゃろう』
「なるほどね……じゃあ、そもそも天族の記録が人間に残っていないのは、オファニエルがなにかしたから?」
『なにそれ知らん』
えぇ……なんで記録紛失したの?
「オファニエル、それじゃあ君はラグエルとラファエルが何処にいるのかわかるのかい?」
『はい……大まかな感覚ですが、自分が秘匿したものはわかるようにしてありますので』
そりゃあ、すごいな。
「ん……俺、は」
「あ、目が覚めたかアッシュ」
「テオドール……俺は確か、アイビーの攻撃をなんとか受け流そうとして……それから、どうしたんだ?」
「貴方は自分のグリモアを発現すると同時に暴走させたんです。私も巻き込まれて大変でしたよ」
アイビーが心底疲れた顔をしている。まぁ、俺がアッシュを殴り飛ばすまではずっと虚空を相手に全力で戦っていた訳だからそりゃあ疲れもするだろうな。
「グリモア!? 俺はグリモアを発動できたのか!?」
『ばっちり。本当はお主のような若輩者に儂の力を使わせるのはあまり好かんが……まぁ、サリエル様の命令なら仕方あるまい』
「……爺さんみたいな口調しているな。名前を教えてくれ」
『何故? グリモアを発動できればそれでいいじゃろう?』
「そんなことはない。俺の魂に宿っている人格ならば、俺の相棒と言っても差し支えない相手な訳だから……しっかりと親睦は深めておきたい。これから死ぬまで離れられないんだからな」
アッシュのその言葉を聞いて、ミカエルがエレミヤの方に視線を向けたのが見えた。アイビー、エリッサ姫、そしてニーナも自分の身体に目を向けている。まぁ……ずっとグリモアを持っていなかったからこそ、アッシュはグリモアが発動できたときにどうするかを考えていたんだろうな。
『変わった奴だな。まぁ……儂も変人と呼ばれた存在、似た者同士ではあるか』
「名前は?」
『オファニエル。秘匿の力を持ち、月の支配者たる偉大な天族じゃ』
「オファニエルか……確かに覚えたぞ。俺の名前はアッシュ・ガーンディ……ガーンディ男爵家の当主であり、将来はガーンディ家を大きくする男だ」
『ほっほっほ……人間の爵位なんぞに興味はないが、どうせ死ぬまで一蓮托生。戯れに付き合ってやるわ』
うん……アッシュとオファニエル、思ったよりも上手くいきそうだな。というか、ガルガリエルとオファニエルのことを考えると、七大天族の我が強すぎるだけな気がしてきた。
「
なにかを自分の中で掴んだのか、アッシュはグリモアの名前を呟くとすぐに嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「使い勝手のよさそうな力じゃないか。俺にはぴったりだな」
『キチンと使いこなして見せるのじゃぞ。儂の名前を持つ力を持つのじゃ……恥をかかせるなよ?』
「わかっている。この力を使いこなして、いつか俺はエレミヤもテオドールも超えてみせよう」
『ほほう、ミカエル様とルシファーを超えるか。確かに、面白そうな目標ではあるな』
「どうするエレミヤ? また私たちを超えようとする人が現れたみたいだけど?」
「当然、いつでも歓迎するよ。フリスベルグ公爵家の名を背負っている僕は、どんな戦いからも逃げたりはしないからね」
だってさルシファー……マジで拗ねてるせいで出てこないわ。はー……天族最強のルシファーさんにもミカエルぐらい大きな器を見せて欲しいものだけどな。いや、そういえばこいつ器が滅茶苦茶小さいから常に最強を自称して天族から嫌われてるんだった、無理だな。
「……なんだか知らないが上手くいったのか? ならまだまだ特訓するぞ! 私は懲りてないからな!」
『その通りだニーナ! 俺もまだまだ諦めていないぞ!』
「お前らはそろそろ息を合わせてくれ、頼むから」
なんで後からグリモアに目覚めたエリッサ姫とアッシュの方が制御できてるんだよ。お前らもうちょっと学習しろ。
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