第147話 レミエル
「思ったんだけど、別に俺が取りに行かなくてもいいんじゃないかなって」
「……それで、魔族が住んでいる場所なんだから行って来いと?」
「うん」
普通に考えてみても、なんで俺が1から10までやらないといけないんだよって。ただ、エレミヤは俺以上に忙しいし、エリクシラやアイビーをよくわからないことに巻き込みたくないので……そうなると必然的に俺の中ではヴァネッサが対象になる。
パウロネスとやらは魔族が住んでいるんだし、多少時間かかっても別にヴァネッサに取ってきてもらえればいいかなって。
「その遺跡らしきもの、確かに知ってるわよ」
「そうなの? なら余計に行ってもらえると嬉しいんだけど」
「でも、危険な場所なんだけど」
「……ルシファー付けるからさ」
『断る』
断るなよ!
学生として長い間、このクロノス魔法騎士学園から離れる訳にはいかないんだからしょうがないだろ? 契約しているヴァネッサに行ってもらえると滅茶苦茶助かるって話なんだけど、どうやらマジで危険な場所の様だ……なんとかならないかな。
「どうしても行って欲しいなら、縛り付けている私の契約を緩めなさい。そうしたら行ってやらないことも──」
「あぁ、いいぞ」
「……は?」
いや、別に今更、ヴァネッサが俺たちを後ろから刺すとか思ってもないし、縛り付けているまま命令するのはなんとか嫌なので、緩めるなんて言わずにそのまま契約を解除する。後でエリクシラにも言っておいて、あっちからも解除してもらうようにしよう。そうすれば、ヴァネッサは自由の身だ。
俺がパパっと契約を解除したのに、ヴァネッサはなんだか物凄い微妙な表情でこちらを見つめていた。
「どうしたの?」
「……なんでもないわよ! 行けばいいんでしょう!?」
「そう、死なないでね」
「誰が死ぬか!」
なんか怒りながらヴァネッサが窓から飛び出していった。そろそろ夏も終わって寒くなってくる季節だから、普通に窓閉めて行って欲しかったな……さっきから小雨降ってるし。
『あんな低級の魔族に任せて大丈夫なのか?』
「低級って……あれでも未来視の魔族、アスタロトの血を受け継いだ魔族でしょ」
『血族だから全員が有能だとは限らないだろう……人間も同じだ』
そう言われると強く言い返すことはできないけど……俺はヴァネッサのこと信用してるからな。もう半年ぐらい一緒にいた訳だけど、色々なことに協力してくれたし、それに対して特に文句を言う訳でもないしな。ちょっと憎まれ口な所はあるけれど、それだって可愛いもんだ。
「そんなことより、俺はエリッサ姫とアッシュだな」
『ガルガリエルとオファニエルか』
「そう」
エリッサ姫の中に眠るガルガリエルの力と、アッシュの中に眠る推定オファニエルの力を呼び覚まさせたい。理由は、単純にこちらの戦力を増強するのと、誰かがラグエルとラファエルの行方を知っているかもしれないから。まぁ、後半の理由は希望的な部分だから、別になくてもいいんだけど。
『ガルガリエルを呼び覚ますことは簡単だ。上司であるミカエルの力でも当ててやれば、恐らくすぐ起きる』
うわ……それ、休日に上司から仕事の電話がかかってくるぐらいの拷問では? 流石にちょっとかわいそうだと思うけど……今回ばかりは致し方ないか。
『問題はオファニエルだ。奴の秘匿の力は月に由来する魔力だが、奴の力に対抗できるほどの月の力を持った天族なんてそう多くない』
「ルシファーは?」
『認めるのは非常に癪だが、秘匿することに特化したオファニエルを無理やり看破するのは私でも難しい』
自分からルシファーが負けを認めるぐらいには、オファニエルの秘匿は難しいらしい。眠っている状態でもそれだけの力を魂として行使できるってことは、本当にオファニエルは強力な天族の様だ。
「じゃあ、対抗できそうな天族に心当たりは?」
『……サリエルだな。奴も月の魔力を持つ天族で、オファニエルより格は落ちるだろうが、天族としての力でなんとか秘匿を破ることはできるかもしれない』
「じゃあ、エリッサ姫にはエレミヤで、アッシュにはアイビーな」
そうすると、エリッサ姫とアッシュのことはエレミヤとアイビーに任せて、俺はリエスター師団長の方だな。今朝、どこから仕入れた情報か知らないけど、アイビーからリエスター師団長がクロノス魔法騎士学園に戻ってきたことを教えてもらったから、授業が終わったら会いに行こうと思う。
「では、担当の教官に失礼がないようにしろよ」
授業が終わってから会いに行こうと思っていたんだが……午後の実技が教官と1対1をひたすらに繰り返す訓練で、俺の前にはやる気満々って感じで刃を潰した鉄剣を持ったリエスターさんがいた。
なんで、エレミヤじゃなくて俺の方に来るんだよ。そして、なんで教官役の中にしれっと混ざってるんだよ……他の生徒たちがドン引きしてるぞ。
「仕事でアクラレン半島の方に行っていたから、人と戦うのは久しぶりなんだ。付き合ってくれないかな?」
「……わかりましたよ」
授業なんで、断ることなんてできない。会話する機会がなかったのでありがたいことではあるんだけど……この人を相手に組み手しながら、天族について説明できる自信はないな。
仕方ない……殺されない程度に真面目にやるか!
「天族? ふーん……魔族なら知っているけど、天族なんて知らなかったな」
「俺もです」
他のみんなはまだ真面目に訓練をやっているが、俺とリエスターさんはそれを眺めながら少し離れた場所で座っている。互いに魔力を高めあって剣を打ち合ったら、数秒で2人とも剣を真っ二つにしてしまったので休憩中だ。
丁度いいからと、天族やグリモアについて色々と教えたら、興味がありますって顔で自分の身体を触っている。
「
「それはわかりませんけど……今の所、七大天族と呼ばれる存在は、何かしらの方法でみんな喋ってくれましたね」
「なら、レミエルも応えてくれないかな」
なんか楽しそうだな、この人。
「レミエル、意識はあるの?」
『肯定』
「ん?」
「お?」
今、肯定って言ったか?
「貴方はレミエル?」
『肯定、レミエル』
おぉ……なんか、感情の上下がなさそうな機械的な声がどこからともなく聞こえてくるな。これは、多分俺の中のルシファーと同じ感じかな?
「貴方に色々と聞きたいことがあるの、教えてくれる?」
『了承、疑問解決、優先。終末、危機、協力』
これは……クラディウスとの戦いに協力してくれるってことなんだろうか。レミエルは波長が合えばなんとかなるとかミカエルが言ってたけど、それ以前にわかりにくい奴だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます